2  生命体

 メビウスは岩石の塊に近づくと船体から物質採取用ロボットのアームを伸ばし研磨で岩を削り取る。数十個の小惑星から適量の物質の採取し、エンジンを起動し戻ろうと動き出したその時だった。

 彼らは互いに寄り集まり始め見る間に輻輳してきた。船の前方を巨大蓑虫の群団が覆っていたのである。

「いったいこれは・・・」私は驚きで言葉が出なかった。

「宇宙船を食べ物と見なしたか、それとも敵と見なしたか」ソロが憶測でいう。

「どちらにせよ万事休すだ。何とか逃げる方法はないのか?」

「逃げる隙間は皆無です。どうにもなりません」ソロがいう。

「どうにもならないって、何とか考えてくれよ」私はパニック状態になった。

 そうしている間に蓑虫たちは船に吸い付き始めた。

 先端の巨大な口をパックリ開けて所かまわずかぶりついてくる。船内からそれを見ると水族館の巨大なタコが何匹も水槽にへばりついているようにも見えるが、口内にはイソギンチャクの襞のようなものが多数うごめいており何か分泌液を放出している。決して気色のよいものではなかった。

「ソロ、こいつらを追い払う方法はないのか?」

「われわれに彼らと交信する術がない限り難しいですね」ソロは落ち着いて答える。

「おまえ、よくこんな時に冷静でいられるな」私があきれ果ててそう呟いた時だった。ソロが思い立ったように叫んだ。「もしかするとそうかもしれない!」そしてすぐさま船内に収集した岩石を残らず外に放った。

 それらは船外に散らばり次の瞬間、蓑虫たちはそれに釣られるように次々船体から離れていった。

「どういうことだ?」私はわけがわからなかった。

「やはり推測通りでした」ソロは納得したようにいう。

「どういうことか説明してくれ」私はソロに訊く。

「採取した物資の中に彼らの卵が含まれていたのです。彼らが船に近づいたのは卵を取り戻すためだったのです」ソロが説明する。

 私はそれを聞き合点がいった。彼らも地球の生物と基本的には何ら変わらなかったのだ。子孫を残すことを第一の使命と考え命がけ我が子を守る。そう考えた時、遠い過去に地球で目にしてきた多くの生き物たちにふたたび巡り会えたような喜びが胸に沸き上がった。

「今度のことは確実に俺たちに非があったな」私は潔く認めた。

「誰だっていきなり自分の家によそ者が入ってきて大事なものを持って行こうとしたら怒りますからね」ソロもいう。

「いずれにせよこいつらの第一発見者は俺たちだ。名前を付けてやらないとな。おい、ソロ、何かいい名前があるか?」

「それは豊様がお決め下さい。私は何でもけっこうです」

「そうだな。蓑虫のような貝だからミノガイ、バーナードミノガイってのはどうだ。ダサイか?」

「いいえ、私は異存ありません」

「そうか、それじゃ決まりだ」

 そしてバーナードミノガイたちに別れを告げるとメビウスはバーナード星系を後にした。

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