2  生命体

 宇宙に旅立ってから何度目の目覚めだろうか。

 突然、睡眠カプセルの中で目覚めた私の心境はいつもとは少し違っていた。

 何かに急き立てられるようにカプセルを開け体を起こす。

 宇宙暦年計数器の年号は778965年8月14日7時35分46秒となっていた。アルファケンタウリを離れて52万年が経過したのだ。私は人知を超越した特別な存在なのだと今更ながら思う。この宇宙の膨大なる時間を意のままに旅しているのだから。

 メビウスの進行方向に広がる空間に目を向ける。まるで今までの宇宙空間とは別の次元に舞い込んだような不思議な錯覚に捕らわれる。

 目前には赤い恒星がひとつ弱々しく輝いている。近づくにつれ恒星のまわりに超巨大な塵の円盤が取り巻いているのがわかる。

「小惑星帯だな。だが太陽系のものとはスケールが違う。恐ろしい数だな」

「この星系にはこれら小惑星以外には何もないようです」ソロが分析結果を報告する。

「だけどこれだけあれば調べがいがあるってもんだよ。さあ、鬼が出るか蛇が出るか楽しみだな」

「豊様、今朝はやけに楽しそうですね。こんな豊様を見るのは初めてです」ソロが少し驚いた口調でいう。

「ソロ、おまえにも予想外のことってあるんだな」私はちょっとからかってやる。

「豊様と長年いっしょに過ごして私も少し人間というものがわかった気がするんです。豊様の真似をしたつもりなんです」

「余計なことしなくていいよ」

 メビウスは小惑星帯から垂直に適度な距離をとりながら中心のバーナード星に向けてゆっくりと進みだした。大小様々な形の岩石で構成されているであろうと思われるそれらは太陽系のものとは何ら変わらぬように見える。大きいもので数百キロ、小さいのは数十メートルくらいのものまである。

「ソロ、これらの小惑星はどうやって形成されたのだろう」私は強い好奇心を持って訊いていた。一般的な小惑星帯にしては広大過ぎるからだ。

「これだけの数から考えれば中にはもともと大きかった惑星同志が衝突、もしくは何らかの原因で爆発し砕け散った破片である可能性が高いと思われます」ソロが分析する。

 バーナード星は古い恒星である。太陽系よりも遥かに歴史は長いのである。

 過去に地球型惑星が誕生し知的生命体により何世代もの文明が築かれてきた。そう考えても何も不自然ではない。どこかにその痕跡があるのではないかという期待が私の中に沸き起こった。

 大きめサイズの小惑星に接近し表面を隈なく観察する。しかしどこも何の変哲もない鉱石のごつごつした表面しか目に入らない。するといびつな形をした一つの塊があった。反対側に回って見ると何か大きな衝撃で抉られたようになっている。その開口の奥には直方体や円錐形の建造物らしきものが幾つか埋まっている。

「おい、あれは文明の遺跡じゃないのか」私は期待に胸がときめいた。

「鉄、銅などが含まれていますが、人工的なものだという決定的な確証は何ひとつ存在しません。膨大な年月による風化現象の成せる業でしょう」ソロがいう。

「だけどあれはどう見ても建造物だと思うんだがなあ」私は気落ちしたがすぐに諦めもついた。物事を都合のいいように解釈し思い込むのは人間の特性だとわかっていたからだ。しかしながら過去ここに文明が存在したという蓋然性がゼロ%だというのはあまりに淋しい。

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