第3話 今日、女優が死んだ。

 いつだって私を喜ばせるのは、私以外の誰かだった。体を震わせるほどの芸術や、感情に訴えかける歌声。そばに居るだけで幸福感を与えてくれる恋人の存在。この世に私以外誰もいなければ、こんなに嬉しい気持ちになることは無かった。

 いつだって私を傷つけるのは、私以外の誰かだった。心無い言葉で切り傷をつけては、氷よりも冷たい眼差しで傷跡を撫でていった。時には優しさの裏に隠した縄で、胸の奥を強く締め付けた。この世に私以外誰もいなければ、こんなに苦しむことは無かった。

 今日も街は喧騒に溢れている。私が何もしなくても世界は動いている。窓の外の子供たちの声。テレビから流れるアナウンサーの声。悲しみの色に染まる一筋の涙。低く鳴るエアコンの機械音。

優しい声が印象的だった。笑うとできるえくぼが素敵だと思った。ふわふわと風に遊ぶような、癖のついた髪の毛が可愛かった。

 彼女は私を知らない。彼女にとって私はその他大勢の観客にすぎない。

 私にとっても彼女は人生の数パーセントにも満たさない存在にすぎない。画面の向こう側で生きる彼女をアニメの登場人物のような、いつでも会えるもののように思っていた。

 私と同じように、この世界を生きるただ一人の人間だというのに。

 とても素敵な人だったのに。


 なのに。




 もういないなんて






 冗談でしょう?






























































 公的医療機関によると、私は死に関連しない病気らしい。生まれつきのもので、とても素晴らしいものだと先生に言われた。私がそれで苦しんでいることなどつゆ知らず、先生はそう言った。

 今日も街は喧騒に溢れている。私が何も考えなくても、世界は動いている。得意先へと急ぐサラリーマンの足音。何が悲しいのか、泣き叫ぶ赤子の声。背後からする、聞き慣れた呼び声。

 振り返る。手を振っていた。何度もこの頭を撫でてくれた、骨ばった手。



 いつだって私を私たらめるのは、私以外の誰かだった。

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