序章 世界に触れろ(4)

 ――……。






 声がした。

 そういえば、ぼくは誰かの声を聴いたのだ。

 誰の声だ。これは。知らない。知らない声だ。

 けれど。

 ぼくは、その声に反応しないといけないと思った。

 生きるためには。

 ぼくが生きるためには。

 これからぼくが生きるためには、反応しないといけないと思った。



「――起きろ! アスール!!」



 今まではおぼろげにしか聞こえていなかった声が、はっきりと耳に届いた。


 口には苦味があった。

 苦味の元である血液を吐き出し、それと同時に、ぼくは大きくむせ上がった。

 肌を突き刺す痛み。不快な異臭。真っ赤に染まる視界。

 ありとあらゆる感覚が、今すぐぼくをこの場から立ち去れと命令していた。


 ぼくの瞳は、一人の少年がぼくの顔を覗き込んでいる姿を捉える。

 

 彼の髪と瞳は紅一色に染まっていた。最初は炎に照らされてそう見えるのかと思ったが、違った。

 炎よりも鮮烈に紅い瞳。それにぼくの視線は釘付けになった。

 返答を待つことなく、彼はぼくの手をとり、弛緩しきったぼくの体を無理やりに立ち上げた。

 とても、力強い手だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る