序章 世界に触れろ(3)

「……ロボット」


 彼の呟きはか細く、爆音が続くこの場所では無音に等しい。

 だが、鳥のさえずりにも満たないその声に呼応して、輝きを増すものをアスールは目にした。

 ――あるいは最初から輝いて、ようやくアスールがそれに気付いたのか。

 ロボットの目より上方。赤色に染まる景色の中で、その色を押しのけて輝く黄金色の文字列があった。

 誰かにSOSの救助信号を指し示すかのように、黄金色の文字列は燦然と空中に浮かび上がっている。



 《Eole》――金色に縁取られたその4文字は、銀色の巨人の額に深く刻印されていた。



 周囲の炎に照らされて輝く巨人の名を、アスールはようやく知る。

 誰かを呼び出しているかのように、黄金色の文字列は規則正しく点滅を繰り返している。

 その読みも、意味も、彼には分からない。

 揺らめく灼熱に合わせて見え隠れするそれが、綺麗だなという感想しかでてこない。

 手すりにこめていたら力も失せ、彼の体は再び地に横たわった。

 床越しに、燃え盛る炎の地響きが聞こえた。

 もう、何の感想も浮かばなかった。

 彼はすでに、呼吸するのをやめていたのだから。



 視覚が失せ、嗅覚が消える。

 炎の熱を伝える触覚が働かくなり、苦々しい血を味わっていた味覚が潰えた。

 聴覚だけが、爆音と違う何かの音を拾っていたが、結局、アスールがそれを感じることはなかった。


 アスール=ファンダルだったものは、完全にその生を終えていた。

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