第7話 ロザリー


 ロザリーは普通の女の子。

 いつもフリルのついたドレスを着て、とっても可愛いの。

 ロザリーにはお友達がいた。

 この世の者とは思えぬ美しいお姫様。

 だけど、そのお姫様は病に伏せて、外には出られないでいた。

 お姫様の友達はロザリーだけ。ロザリーの友達はお姫様だけ。

 二人はとっても仲良しだった。

 しかし、ある日のことだった。

 ロザリーは外に行きたいと思ったの。

 でも、お姫様はそれを止めた。外には、悪いものが沢山あるから、ロザリーが行ったら危ないよって。

 お姫様がそう言ったのにはきちんと理由があった。それは、お姫様はずっとひとりぼっちで、やっとロザリーっていうお友達が出来て、誰にもとられたくなかったの。だから、そんなおどしを言って、ロザリーを引き止めていた。

 そんなこともあって、ロザリーはいつもお姫様と遊んでた。

 でも、我慢が出来なくなって、ロザリーは外に行ってみた。

 そしたら、まあ、なんて素晴らしい世界なの。

 太陽は暖かく、青空が広がり、草は生え、花は咲き、虫が飛ぶ。海に行けば魚がいる。町に行けば、人間が歩いてる。お店に行けば、甘いキャンディがもらえた。

 ロザリーは、外の世界が楽しくなってしまった。

 だから、お姫様と遊ぶ時間が少なくなった。

 不思議に思ったお姫様は、ロザリーに訊いた。


「近頃、あなたはおかしいわね。どうして前みたいに遊んでくれないの?」

「だってね、お姫様。お外がとっても楽しいの。時間を忘れるくらいよ」

「まあ、あなた、お外に行ったの? わたくしがあれだけだめといったのに」

「でも、お姫様。とっても楽しいのよ」

「だめよ。ああ、なんて悪い子なの。もう絶対にだめだから」


 お姫様は高い塔にロザリーを閉じ込めてしまった。だから、ロザリーは塔から出られなくなって、ずっとお姫様と遊んでたの。お姫様のことは大好きだった。でも、ロザリーはどんどん悲しくなっていった。あんなに素晴らしい世界があるのに。自分は塔の上。


「ああ、なんだか、悲しくなってきたわ。しくしく」


 窓辺でロザリーが泣いていると、その涙に王子様が気付いたの。


「やあ。お嬢さん。どうして泣いているの?」

「ここから出られなくて、とても悲しいの。お友達にも会いに行けない」

「だったら、僕が君のお友達になってあげるよ」

「まあ、本当?」

「中でお話ししよう。入れてくれる?」

「あたし、ここの入り口がわからないの。そうだわ。わたしの伸びてしまったこの髪を使って」

「わあ、なんてきれいな髪なんだ。どうもありがとう」


 王子様はロザリーの髪を使って塔の上に上がり、お部屋の中で一緒にお喋りした。その時間は、ロザリーの癒しの時間でもあった。でも、それは薬でお姫様が眠っている時だけ。薬が切れたらお姫様は起きてしまうから、その前に王子様を外へと帰した。


「さようなら。王子様」

「さようなら。ロザリー」


 でも、王子様ったら、なんて優しい人。毎日、ロザリーの元へとやってきた。


「やあ、ロザリー」

「王子様。お待ちしてましたわ。どうぞ」


 長い髪を使って、ロザリーは王子様を部屋に招き入れた。いつしか、それが日常となり、二人はどんどん大人になっていった。それでも、それが日常だから、二人はなんとも思わなかった。でも、大人になったら気持ちに変化が起きる。ロザリーは王子様に恋をしてしまったの。

 毎晩、王子様に会える時間が楽しみで、胸をどきどきさせていた。

 そんなロザリーを不思議に思ったお姫様は、ある日、薬を飲む時間をずらしてみた。ぱっと目が覚めて、ロザリーの部屋をそっと覗いてみた。そしたら、まあ、なんてこと。王子様とキスをしていたロザリーを見つけてしまった。

 お姫様はかんかんに怒ってしまった。

 その怒りは、大切なロザリーではなく、王子様に向けられた。


「この愚か者。ロザリーがとっても可愛いから近づいたのね! なんてふしだらな奴。お前なんて、この窓から落ちてしまえ!」


 お姫様はそう言って、王子様を窓から突き落としてしまった。王子様はもちろん、高い塔から落ちたわけだから、そのまま死んでしまった。ロザリーはとっても悲しくなったけれど、お姫様は嬉しかった。だって、ロザリーはもう自分だけのものだから。

 でも、元には戻らない。だって、ロザリーの幸福は、このお姫様によって、目の前で奪われてしまったのだから。


「ロザリー、あなたは悪い人に騙されていたのよ。あなたの心を盗んだ、どろぼうだったのよ」

「ひどい。なんてひどいことするの。お姫様、わたしの幸福を、どうして奪うの?」

「大変。ロザリーがおかしくなっちゃった」


 お姫様はロザリーと元の関係に戻りたかった。だから、


「ロザリー、わたしたち、ずっと一緒よ」


 ロザリーをばらばらにした。


「ロザリー、わたしたち、死ぬまで一緒よ」


 ばらばらにしたロザリーで人形を作った。


「まあ、なんて可愛いのかしら」


 それがロザリー人形。


「もうぜったいに離さないから」


 ロザリーは、お姫様が天国に行くまで、仲良く一緒に過ごしましたとさ。




 めでたしめでたし。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る