第8話 正直者は馬鹿を見る


「ロザリー人形の中にはお姫様の魂が入っていて、ロザリーという名前の使用人が現れた時、人形は動き出し、ロザリーの元に向かう。そして、ロザリーと関わった者達を、呪い殺すと言われている。全ては、お姫様がロザリーと仲良く暮らすため。この話の怖いところはな? この物語もそうなんだけど、実はこれ、昔、王宮に住んでたお姫様のお話なんだ。そのお姫様の代から、ロザリー人形が延々と王族の子供に受け継がれているらしい。もちろん、現在も」


 コネッドががたがたと震えた。


「な? 言わなきゃ良かったべ?」


 あたしががたがた震える。


「なんかトイレに行きたくなってきた」


 ニクスがシーツから出た。


「あたし、ちょっと行ってくるね」

「だめ!!」

「行かないで!!」


 コネッドとあたしがニクスのネグリジェに必死にしがみついた。


「ニクス! おめえさんが行ってる間に、オラが呪い殺されたらどうするんだ!!」

「大丈夫だよ。それ、聞いた感じ、誰かが作った作り話だよ。同じようなおとぎ話を知ってるんだ」

「ニクス! これはおとぎ話なんかじゃないわ! だって! 王族に代々その人形が受け継がれているのよ!」

「んだ! んだ!」

「大丈夫だよ」

「あ! わかった! したっけ、オラもトイレに行く!」

「コネッド、あたしを見捨てる気!? 二人がトイレに行ってる間に、あたしのところにロザリー人形が来たらどうするのよ!」

「んなもん知るか! 優しくそっと抱きしめてあげたらいいべさ!」

「嫌よ! あたし絶対に嫌よ!」

「オラだって嫌だべさ!」

「じゃあ、三人で行く?」


 上着を羽織って、あたしとコネッドが間にニクスを入れて、横に一列になって歩き出す。ニクスの腕にあたしが掴まり、ニクスの肩をコネッドが掴み、そろりそろりと歩いていく。ろうそくを持ったニクスの眉が下がった。


「ねえ、歩きにくい」

「ニクス、あたしはちゃんと歩いてるわ。コネッドがびびってるのよ」

「びびってねえよ。ロザリーだって、足震えてるじゃねえか」

「寒くて震えてるのよ」

「暑いと思いますけど!?」

「寒いじゃない!」

「もうわかったから……」


 ニクスが呆れた声を出してトイレに向かって歩く。静かな廊下を三人で歩いていると、かたんと音が鳴った。


「「ひっ!!」」


 廊下の窓が開いてる。


「誰だべさ! 窓を開けた奴!」

「閉めましょう!」

「賛成!」

「暑くなるでしょ。開けておこうよ」

「ニクス! あの窓からロザリー人形が入ってきたらどうするの!?」

「んだ! んだ!」

「大丈夫だよ」


 開けられた窓を通り過ぎる。トイレに辿り着く。


「じゃあ、あたし行ってくるね」

「あ、あたしも行きたくなってきた!」

「待って! オラも行くから!」


 三人でばらばらの個室に入る。左右から悲鳴があがる。


「ニクス! 暗いわ!」

「そりゃ、ろうそくを持ってるのあたしだからね」

「ニクス、生きてるか!?」

「大丈夫だよ」

「ぎゃっ!」

「ひっ!」

「ロザリー、どうしたの?」

「と、トイレットペーパーが、あたしの肌に触れたわ!」

「あ、そう」

「ひいい!」

「コネッド、どうしたの?」

「ねずみが通ったべさ! あっち行け!」

「ねずみちゃん! こっちにおいで! ちゅー! ちゅー!」

「え、城にねずみがいるの?」

「たまに入って来るべさ。害は無いから言われないと放っておいてる」

「まあ、窓も開いてるしね。入ってくるか」


 扉が開かれる音がした。


「ぎゃああ!」

「ひいいい!」

「あたしが開けただけだよ」

「ままままって! あたし、なんか立てない!」

「おおおお、オラも……!」

「手洗って待ってるから」


 水が落ちた音が聞こえた。


「ぎゃああ!」

「ひいいい!」

「あたしが手洗ってるだけだよ」

「コネッド、人形は来てない?」

「オラのところにはいねえよ!」

「あ!」

「今度は何?」

「う、後ろになんかいる気がする!」

「いないから大丈夫だよ」

「ニクス、なんかいる気がするの! 本当よ!」

「ばばばば、ばか言うんじゃねえよ! ロザリー! こんな真夜中に!」

「ニクス! あたし、こわい!」

「じゃあ、振り向いてみれば?」

「振り向けるわけないでしょ! ロザリー人形がいたらどうするのよ!」

「ひゃっ!」

「今度は何?」

「オラの足元に、風が!」

「窓開いてるからね」

「こわい!」

「こわい!」

「ねえ、二人とも、早く手を洗えば?」


 あたしとコネッドが一斉に出てきて、素早く水で手を洗う。ぱっぱっと水を振り切って、またニクスに掴まる。


「部屋に戻るべさ!」

「賛成!」

「はいはい」


 ニクスを先頭に三人で歩き出す。


「廊下で騒いでたらリリアヌ様に怒られるよ」

「別に騒いでないけど」

「んだ。オラ達、普通にトイレに行っただけだべさ」

「そうよ、そうよ」

「ああ、そうだったね」


 部屋に向かって歩いていると、――ふと、ニクスの足が止まった。


「ん?」

「ひっ!」

「なに!?」

「なんか、今、影が見えなかった?」

「「え!?」」


 あたしとコネッドがニクスを強く締め付ける。


「どどどどどどこだべさ!」

「ニクス、あたし、こわい!」

「あっちは……休憩室?」


 ニクスが歩き出し、部屋を通り過ぎた。


「あ、ニクス、部屋はあっちよ!」

「どこ行くべさ!」

「泥棒だったらどうするの。放っておけないでしょ」

「ロザリー人形だったらどうするのよ!」

「んだ! んだ!」


 暗闇の中、ニクスについていくしかなく、あたし達は休憩室へと向かう。三人で休憩室の扉に耳をつける。


「音が聞こえる。誰かいるな」

「誰だ?」

「まさか、ロザリー人形?」

「えっ!?」

「ちょっと黙ってて。二人とも」


 ニクスが静かに扉を開けて、薄目で中を覗く。冷蔵庫の光が部屋を照らし、そこで大きな影がうごめいている。コネッドが青い顔で震え始める。


「ろ、ロザリー人形が、ロザリーの気配を察して、こっちに来たんだ……。オラ、殺されたくないべさ!」

「あれは、人形じゃない」


 ニクスが扉を開けた。


「誰だ!」

「きゃあ!」


 冷蔵庫の前で、誰かがころんと転がった音が聞こえた。あたしとコネッドが小さく悲鳴をあげて抱きしめ合うと、ニクスがずかずかと中へ進んだ。ろうそくを当ててみると、そこにいたのはロザリー人形ではない。メイドのアナトラだ。コネッドが眉をひそめて、近づいた。


「あれ、アナトラじゃねえか」

「はあ、びっくりした!」

「それはこっちの台詞だべさ。お前何やってるんだ?」

「そ、それは……」

「あ」


 アナトラの手には、冷蔵庫に入ったわずかな食材の一つがあった。コネッドが目を細めた。


「アナトラちゅわーん?」

「ごめんなさい! ああ、どうか、誰にも言わないで! お腹が空いて、どうしようもなかったの!」

「おめえさん、そんなんだから貴族からメタボメイドってばかにされるんだぞ」

「わ、私だって、ダイエットを始めたのよ!」

「盗み食いすることがダイエットか?」

「だって……」


 はあ、とアナトラがため息を吐いた。


「そうね。私が悪かったわ。ごめんなさい」

「もしかして常習犯?」


 ニクスが訊くと、アナトラが頷いた。


「そうね。毎晩やっちゃうの。前までは、太らなきゃいけなかったから」

「太らなきゃいけないって?」

「ああ、ニクス、アナトラはな、ちょっと家族に問題があって……」

「うちの家族、みんな太ってるの。太ってることは美徳って思ってるのよ。それでね、小さい頃、私一人だけ細かったの。姉妹達から言われたわ。なんでお前だけそんなに細いの? お前は細いから一緒に遊んでやんない。もやし女って。私、それが嫌で、毎日いっぱい食べたの。それで、やっと準備が出来て、お金を作るためにここで頑張ろうって働き始めたら、驚いたわ。みんな細くて! 太っちょだったのは、私の家族だけだったのよ。もう私ったら、家族しか見えてなくて、本当にばかよ。だから、本当はもっと前からダイエットを始めてるのよ。貴族のお偉い様達に、アヒルみたいなメタボなメイドがいるぞってばかにされるから。でも、そのたびに挫折して、始めては、また挫折。今日はね、改めてダイエットを始めて三日目の夜なの」

「アナトラ、食事制限してるでしょ」


 ニクスが言うと、アナトラが頷いた。


「今日の晩ご飯はサラダだけ」

「ねえ、明日って時間ある?」

「明日? 私、お休みよ」

「ちょうど良かった。あたしもダイエットしたかったんだ。明日、一緒にやろうよ」

「どうせ走ったりするんでしょ?」

「ううん。走らないよ」

「え、走らないの?」

「あたし、走るの苦手だから」

「じゃあ、どうやって運動するの?」

「それは明日のお楽しみ」


 にやりとするニクスに、あたしとコネッドが顔を見合わせて、肩をすくめた。



(*'ω'*)



 朝。外に体操着を着た六人が集まる。


「まずはストレッチから!」


 ニクスの指示で四人でストレッチをする。コネッドの腕とアナトラの腕が絡み、背中をくっつけさせて、相手をそのまま持ち上げる。最初はアナトラがコネッドを持ち上げる。コネッドが足をばたばたさせた。次はコネッドが持ち上げる。持ち上がらない。座って、足をまっすぐにして上半身を前に伸ばす。アナトスに背中を押してもらうと、あたしの腰がごきっと音を鳴らし、そのまま動けなくなった。ニクスとアナトスが手を取り合い、横にぐっと伸びた。わきの下の筋がよく伸びたようだ。最後に手首足首を回して終了。


「ストレッチはこんなものかな」


 ニクスが振り向いた。


「トロさん、あとはお願い出来ますか?」

「任せてよ!」


 トロが瞳を輝かせてラジカセを置いた。


「僕、ダンスはとっても好きなんだ。うふふ! 朝ごはんの時間まで優しく教えてあげるからね!」


 ロップイは黙って石の上に座って、石同士を叩いて音を鳴らしている。


「音楽を流したらとっても楽しくダンスが出来ちゃう! うふふ! まずはウォーミングアップとして、ダンスしながら体を動かすよ!」


 トロがぴょんぴょん左右にステップを踏む。


「さあ、僕を鏡だと思って真似してみて。わん、つー! わん、つー!」


 四人でトロの動きを真似する。リズムに合わせてロップイが石を叩き始めた。


「おっけー! 君達、最高だよ! うふふ! 次はブロックだよ! 足を前に出してー! わん、つー、すりー、ふぉー、でいくよー!」


 四人でトロの動きを真似する。リズムに合わせてロップイが石を叩き始めた。


「おっけー! ここまで完璧! さて、じゃあダンスに行く前に、一回水分補給しようか! 水分補給タイム!」


 みんなで水を飲んだ。


「おーけー! じゃあ、水分も取ったところで、音楽を変えるよ! ぽち! うふふ! 素敵なメロディだろ? これでダンスをしていくよ。僕の動きを真似してね!」


 四人でトロの動きを真似する。ロップイはやすりで石を削り始めた。


「いえい! 最高だよ! このダンスを覚えるまでやるんだよ! そしたら、ダイエットなんてあっという間さ!」

「なんて素晴らしいの!」


 アナトラがトロの手を握った。


「ダンスでダイエットするなんて、知らなかったわ! 私、毎朝このダンスを練習するわ!」

「でもね、アナトラ、うふふ! ダイエットの敵はストレス。無理をしないことさ! うふふ! 音楽に飽きたら別の音楽をかけて、自分だけのダンスをしてみるのもいいと思うよ!」

「わかった! 私、ダンスする! いっぱいダンスする!」


 アナトラがニクスに振り返った。


「ありがとう! ニクス! 汗をかいたら、なんだかとても清々しい気分だわ!」

「とんでもない」

「次は何するの?」

「今日はもうおしまい」

「え!? これだけ!?」

「そうだよ。毎日続けるなら、ちょっと足りないくらいで良いんだ。初日にやりすぎちゃうと、疲れちゃうからね」

「じゃあ、もうぐだぐだしてていいの?」

「うん。筋トレも何もしなくていいよ」

「まあ! なんて素晴らしいのかしら! そう思ったら、お腹が空いて来たわ!」

「任せてよ! カロリーの低いステーキを出してあげる!」

「私、ステーキ大好き!」


 あたしとコネッドが顔を見合わせ、コネッドから口を開いた。


「トロさんって、あんなにダンス上手かったんだな」

「そういえば、この間ニクスが訊いてたわね。トロさんがダンスしながら料理してて、ダンスが好きなんですかって」

「なるほど。しかしたまげたな。ダンスをするアナトラはアヒルじゃなくて、白鳥に見えたべさ」

「すごかったわね」

「吸収力が桁違いだった。あんな才能あったんだな」

「あたし達、全然踊れなかったのに」

「疲れちまったな」

「お風呂に入りたい」

「……昼風呂入る?」

「賛成」


 笑顔でお礼を言うアナトラの汗は、とても光り輝いていた。



(*'ω'*)



 汗を洗い流そうと、三人で大浴場に入る。


「はあ、疲れたべさ」


(昼風呂♪ 昼風呂♪)


 使用人が一人ずつ与えられるお風呂用グッズが入ったポーチから、スポンジを取り出す。使用人専用の石鹸。匂いも悪くないわ。


(るんるんるーん)


 体を洗っていると機嫌が良くなっていく。隣にいたニクスが声をかけてきた。


「ロザリー、背中洗おうか?」

「やってくれるの?」

「いいよ」

「んだ。したっけ、オラはニクスの背中を洗うべさ」

「あ、いいの?」

「じゃあ、その後、あたしがコネッドの背中を洗うわ」

「ロザリーは優しいな。頼むわ」


 ニクスが石鹸を手に掴むと、つるんと石鹸が滑っていった。


「あっ!!」


 石鹸が風呂の中に落ちる。


「いっけね。やっちまった」


 コネッドが取りに行くと、風呂からぶくぶくと泡が立った。


「ん?」

「こらああああああ!!」


 お湯の中から裸の老婆が現れ、コネッドが悲鳴をあげて後ずさった。裸の老婆の両手には、石鹸が置かれている。


「石鹸を落としたのは、お前かい!」

「うわっ、誰かと思ったら、お風呂を毎日綺麗に掃除してくれている、お風呂のばーちゃん!」

「……ニクス、知ってる?」

「あたしは初めて見た」

「あたしもよ」

「助かったべさ。ばーちゃん! オラ、石鹸を落として困ってたんだ」

「あんたが落としたのはどの石鹸だい?」


 老婆が石鹸を見せた。


「この金の石鹸かい? それとも……」


 老婆が石鹸を見せた。


「こっちの銀の石鹸かい?」

「……」


 コネッドがごくりと唾を飲み込んだ。


「きん、金色に光ってるべさ……! オラの目がくらんでくるべさ!」

「そんな石鹸落としてないでしょ」

「金の石鹸なんて、金粉まみれになっちゃうよ」

「そうよ。コネッド。見た目より質よ」

「でも! 金色だべさ! オラ、金色大好き!」


 コネッドがそばかすだらけの頬を緩ませて、指を差した。


「ばーちゃん、オラ、その金の石鹸を落としたべさ!」

「あんたは嘘つきだね。お前には何もあげないよ」


 そのまま老婆がお湯の中へ沈んでいく。


「ああ! ちょっと! ばーちゃん! 石鹸返すべさ!」

「嫌なこった! これはもうわたしゃのもんだよ!」

「それはこの宮殿のもんだべさ!」

「はい。ロザリー。おしまい」

「ありがとう」

「コネッド、こっちおいで。こっちの石鹸使いなよ」

「オラ、金の石鹸が欲しかったのに……」

「欲張って嘘をついたら駄目ってことだね。ロザリーも覚えておいて」

「あたし、金なんかに目がくらんだりしないわ。……金の帽子のアンクレットは嬉しかったけど」

「ふふっ」

「わかった。ばーちゃん、いつもみたいにばーちゃんの背中を洗ってあげる。それで許してよー」

「ふん! そういうことなら仕方ないねえ!」


 四人でゆったりとお風呂に入る。はあ。あたたかい。お風呂の老婆が口をたくさん動かしてお喋りをする。


「わたしゃあね、昔、湖の女神に会ったことがあるんだよ。あれはとんでもなく深い森の中だったね。地図に載ってない禁断の森と呼ばれていた。わたしはね、自分の子供を探していたんだよ。迷子になっちまってさ。持ってた磁石が使えなくなって、あろうことか石に足が突っかかって湖に磁石を放り投げてしまった。そしたらね、なんとさ、本当に言葉に出せないくらい美しい女神が現れてだね、わたしゃに言ったんだよ。磁石は落としたのはあなたですか。この高級な金の磁石ですか。それともこの高級な銀の磁石ですか。わたしは正直者の母親さ。子供にもそうやってしつけてきたからね。だから正直に、もっとぼろい壊れた磁石を落としましたって言ったのさ。そしたら女神様がね、なんと、三つの磁石をわたしに下さったのさ。さらに、金の磁石が光る方向に行けば、子供が見つかる。銀の磁石が光る方に行けば森の出口に行けるとまで教えてくださった。わたしがこうやって生きて働けてるのは、正直者であったことと、女神様が助けてくださったおかげさ」

「ああ、そうだなそうだな」


 コネッドがこくこくと相槌を打つ。このお婆様の時代はそうだったかもしれないけど、今の時代、正直者なんていないわ。だって、正直者はばかを見るんだもの。メニーだって、たくさん嘘をついた。そして、幸せになった。


(あたしは正直者になるくらいなら嘘をつきまくるわ)


 このロザリーっていう名前だって、嘘をつかないとあたしは捕まってた。無理矢理キッドのお嫁さんにさせられるところだった。結局、そういうことよ。正直者は救われない。おばあちゃん、この世界はね、嘘をつかないと生きられない悲しい世界なのよ。ロザリー人形の由来のロザリーだってそうよ。お姫様に嘘をつかないと、ずっと閉じ込められてたままだった。


(結局、みんな嘘をついて、幸せになっていくのよ)


 あたしはニクスの肩に頭を乗せた。


「ニクス、あたしは正直者じゃなくていいわ」

「同感。あたし達は正直者にはなれないね」


 ニクスがお風呂の中で、あたしと手を握った。


「でも、嘘をつくことって、時々寂しくなるよね。正直に言えたらいいのにって思っちゃう」


 でも、そうしないとこの世界は生きられない。


「正直者って、どうして救われないんだろうね? 女神様か魔法使いが現れて、同じように救ってくれたら、嘘なんてつかなくていいのに」

「……ねえ、ニクス、あたしのこと嫌い?」

「何? 突然。嫌いじゃないよ」

「それは嘘?」

「本当」

「ニクスは正直者だわ」


 手があたたかい。


「でも、嘘をつくニクスも、あたし嫌いじゃないわ」

「あたしはそんなロザリー嫌い」

「……」

「嘘だよ。嘘つきなロザリーも、あたしは好きだよ」

「……本当?」

「さあ? どっちだろうね? 少なくとも、嫌いなら手は握らないかな」

「いいかい。わたしゃあね!」

「はいはい。そうだな。ばーちゃん、本当。最高だべさ。もう、なまら最高。はあ。ねえ、ゆっくり入らせてよ……」


 コネッドがため息を吐いた。




























 今日は昨日も含めて使用人のようだ。

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