第13話 第八のミッション、遂行


 あたしは鉛筆を動かす。


「ふう」


 簡単な問題を解いていく。


(幼稚園児みたい)


 10歳専用の教科書もノートも、簡単すぎて退屈だ。


(なんでわかる問題を延々と書かないといけないわけ?)


 あたしの脳は、こんな問題繰り返すまでもなく、とっくのとうに理解してるのよ。


「あーーーーー!」


 あたしは教科書に突っ伏する。


(やってらんない……)


 子どもすぎるドリルも課題も、やってられない。


(今日の分の課題は終わった。もういいや。遊ぼう)


 さて、なにしようかな。


(チェスでもしようかしら)


 そんな時に、コンコンとノックが鳴る。


「お姉ちゃん」

「ん?」

「入っていい?」


 あたしはドアに振り向く。


「どうぞ」


 ドアが開けられる。メニーが教科書とノートを持って入ってくる。


「お姉ちゃん」

「ん?」

「訊きたいところがあるの」


 あたしはきょとんと瞬きをする。メニーが教科書とノートをあたしのいる机に広げた。


「ここ」

「ん?」


 メニーが指を差すところを見る。


「答えが違うの」

「……」


(あたし、算数嫌いなのよね)


 でも、8歳程度ならば簡単だ。


「あんた、ケアレスミスじゃない?」

「え?」

「よく計算してみなさい。指使ってもいいから」

「ん……」


 メニーがちまちま数える。あたしは指を差す。


「式使って」

「式?」

「公式の式があるでしょ。ほら、ここの例題」

「……」


 メニーが例題を見る。


「これに沿って、やってみなさい」

「えーっと……」


 ヒントを与えれば、メニーがすらすらと式を書き、計算する。


「……合ってる?」

「見せて」


 あたしも頭の中で計算する。


(うん。合ってる)


「大丈夫よ」

「やった」


 メニーが微笑む。


「ありがとう。お姉ちゃん!」


(この程度の問題なら、いくらでも……)


「……」


 あたしの口角がにやあ、と上がった。


「メニー」

「ん?」

「今日の宿題は終わった?」

「まだ途中」

「どうせなら予習もしちゃえば?」

「予習?」

「予習復習は大事なのよ」


 あたしはメニーに、にこりと微笑む。


「一緒に勉強しましょうよ。ほら、そこのテーブルで一緒に」


 あたしはいつも紅茶を飲んでいるテーブルに指を差した。



 罪滅ぼし活動ミッションその八、メニーとお勉強する。



 あたしとメニーが地面に座る(ソファーに座ると机が低すぎるため。普段は紅茶を飲むだけだからちょうどいいのだけど、勉強には向かないわ)。向かい合い、ドリルを広げる。横には鉛筆。


「あ、足りないじゃない!」


 あたしは呼び鈴の紐を引っ張る。しばらくして、サリアが部屋にやって来た。あたしはサリアを見上げて微笑む。


「サリア、メニーと勉強するの。リラックス出来るように紅茶をお願い」

「かしこまりました」


 サリアが部屋から出て行く。あたしは再びテーブルに戻り、地面に座る。横にはクッション。あたしもドリルを広げて、メニーに微笑む。


「わかんないところがあったら言うのよ」

「うん」


 メニーが鉛筆を握って、ドリルの問題を解いていく。あたしもドリルの問題を解いていく。


(ここは、こうで)


 算数は簡単。


(これは、こうね)


 国語も楽勝。


(歴史はこうでしょ)


 社会もすらすら。


(理科は、教科書を見れば大抵答えが載ってるのよね)


 化学実験の結果を書いていく。


「お姉ちゃん……」


 メニーがあたしを呼んだ。


(早いわね)


「どうしたの?」

「これわかんない……」


 メニーがあたしに問題を見せる。


(国語?)


 あたしは問題を眺める。



 問題文。


 ある日、継母は魔法の鏡に向かって言いました。


「鏡よ、鏡。この世で一番美しいのは誰?」


 魔法の鏡から男の顔が浮かび、その顔が答えます。


「それは、あなたの娘。白き姫です」

「まあ、なんてこと!」


 継母は一番の美しさの座を取られて怒りましたが、鏡の男が話を続けました。


「白き姫はこの世で一番美しい。しかし、いつになっても美を求めるあなたは、女の鏡。鏡にとってのわたしからしたら、オンリーワンの存在なのです」

「……まあ」

「お妃さま、愛してます」

「まあ!」

「アイラブユー」

「みーとぅー!」


 二人は結婚しました。


 問1、なぜ鏡は、急に想いを伝えたくなったのでしょうか?


「……。……。……。……」


 あたしはぴくりと、片目を痙攣させた。


「なに、このふざけた文章」

「お姉ちゃんもわからない?」


 メニーに訊かれて、あたしは首を振る。


「わかるわよ。ただ、問題をよく見てないから」


 あたしはじっと見る。


「ちょっと待ってて」


(問題は、解けるところから解いていくのよ)


 次の問題を見る。


 問2、なぜ継母はみーとぅー! と叫んだのでしょうか。


「……。……。……」


 あたしは次の問題を見る。


 問3、その後、二人がどうなったかを想像して書きなさい。


「なるほど」


 あたしは頷く。


(想像性を鍛えようとしている問題ってわけね)


 こういう場合、それっぽい要点だけ答えられてたら、丸がつくやつよ。


「メニー、きっとこれは、あんたの想像力にかかってるのよ」

「想像力?」

「ちゃんとした答えがない問題なのよ」


 大切な要点だけ書けば、点数が貰えるわ。


「メニーの得意分野ね」


 さあ、ほら、あんたの馬鹿な妄想を膨らませるのよ。


「問1からいってみましょうか」


 問1、なぜ鏡は、急に想いを伝えたくなったのでしょうか?


「メニーはどうしてだと思う?」

「うーんと……」


 メニーが眉を寄せて黙りこくる。しばらく考えて、ぽつりと答えた。


「見てられなかったんじゃないかな」

「見てられなかった?」

「この人、鏡がなにも言わなかったら、傷付いただけだったんじゃないかな」


 美しさの座を取られたお妃さま。


「ほら、童話でもよくあるでしょう? お姫さまが美しくて、それに嫉妬した魔女とか、血の繋がりのない継母が、お姫さまを呪ったり、殺そうとしたりする展開」


 この人も同じ。


「きっと、この白き姫に、なにか、とんでもないことをしてしまうところだったんだよ」


 それを、見たくなかった。


「鏡はきっと見たくなかったんだよ。好きな人が誰かを傷つけてしまうところ」


 だから、


「だったら、そうする前に」


 自分の想いを伝えた。


「だから、えっと……」


 メニーが眉をへこませた。


「なんて書けばいいのかな……」

「……。……。……」


 あたしはにこにこしながら、頭の中で思った。


(壮大すぎるわ!!)


 もっと簡単に考えなさいよ!


(こういうのは大抵、鏡がお妃さまを好きだったから、でいいのよ! お前、壮大に物語を広げるんじゃないの!!)


「えっと、……そうね……」


 あたしはにこにこ笑いながら、ヒントを出す。


「もっと、簡単でいいんじゃない?」

「簡単……?」


 メニーが眉をひそめて、考え、鉛筆を握り、書き出す。


「おきさきさまの、怒りの、ぼうそうを、とめるために、じぶんの秘めていた想いを、告白した」


(答えが大人過ぎるわ!!)


「これでよし」


 メニーが満足したように鼻から息をふしゅー! と出した。


「次!」


 メニーが問2を見る。


 問2、なぜ継母はみーとぅー! と叫んだのでしょうか。


「お姉ちゃん、わかる?」

「メニーが考えないと意味ないでしょう?」


 答えは簡単でいいのよ。実は継母も鏡が好きだった。あたしが間違いでないなら、これでいいはずよ。


「メニー、考えてみて。どうして継母は、鏡にわたしも同じ気持ちよ、って言ったと思う?」

「うーん……」


 メニーが瞼を閉じて、じっくり考える。しばらくして、メニーの瞼が上げられた。


「あ、わかった! お姉ちゃん!」


 メニーが目を輝かせた。


「なんて素敵な物語なの!」


 メニーがまじまじと文章問題を眺めた。


「お姉ちゃん、あのね、お妃さまは、多分、美しさの座なんて、どうでも良かったんだよ!」


 欲しかったのは、


「鏡のことが好きだったから、鏡の中での一番になりたかったんだよ!」


 だから、鏡に訊いてたんだよ。この世で一番美しいのは誰? って。


「でも、鏡はこの世で一番美しいのは、白き姫って答えたでしょう? だから、お妃さまはショックを受けた」

「そこで鏡が告白してきたでしょう?」

「だから、つい嬉しくて、みーとぅー! って言ったんだよ。だって、ほら、びっくりマークがついてるもん!」

「だから、えっと、えっと……」


 メニーが眉をへこませた。


「……なんて書けばいい?」


(だから、考えが大人過ぎるのよ!!)


 お前、8歳だろ! もっと簡単に考えろ! 簡単な答えでいいのよ! そこまで求めてないのよ!! お前は馬鹿か!!


「メニー、もっと簡単に書けば?」

「簡単に……」


 メニーがじっとする。じっと考える。文章問題を見て、じっとして、たまに目をきらきらさせて、ふふっとにやけて、鉛筆で書き出した。


「すきな人から、すきって言われて、こうふんして、つい、言っちゃった」


 メニーがむふふ、と笑った。


「これでよし」


 メニーが鉛筆を構えた。


「次!」


 メニーが問3を見る。


 問3、その後、二人がどうなったかを想像して書きなさい。


 メニーが考える。


「二人がどうなったか……」


 メニーが目をキラキラさせる。


「お姉ちゃん」


 あたしはびくっと肩を揺らした。


「どうなったと思う……?」


(ああああ……)


 あたしの嫌いな目だ。


(わたしはこう考えてるけど、お姉ちゃんのお話も聞きたいなぁ。お姉ちゃんの場合はこの二人、どうなったんだろぉ? わたしはこう思うけどお姉ちゃんならなんて答えるのかなぁ?)


 そんなキラキラした目をこっちに向けるんじゃない!!


「そ、そうね……」


 あたしの笑顔も流石に引き攣る。


「えーーーーっと」


 メニーが目をキラキラさせる。


(怯むな! テリー! あたしはテリー! ベックス家の次女! 貴族令嬢!! ここで怯めばベックスの名が廃る!)


 メニーのキラキラなんかに、負けるものか! ええい! 邪魔よ! 退け! キラキラめ!!


 あたしはにっこり微笑んで、答えた。


「二人は結婚した後、娘の白き姫とも一緒に暮らして、末永く仲良く幸せに暮らしました」

「わぁあ……!」


 メニーがぱちぱちと拍手をする。


「お姉ちゃんの答え、なんか、物語の終わり方みたい!」

「おほほほー。そうよー。こーいうー感じで答えればいいのよー」

「えへへ、どうしようかな。うーん、どうしようかな……」


 メニーがキラキラと目を輝かせて鉛筆を動かしていく。


「おきさきさまは、魔法の鏡と、ステキな、けっこん式を、おこなって、白き姫とも、いっしょに、仲良く、いっしょに、幸せに、暮らしました!」


 メニーが嬉しそうに鉛筆で書く。

 あたしもにこにこ微笑む。

 メニーが微笑む。

 メニーの口角が下がった。

 あたしはきょとんとした。

 メニーが文章を眺めて、表情を曇らせた。


「……わたしは、仲良くなれない」


 メニーがぽつりと呟いた。


「お母さまと、お話、出来ない」


 あたしは目を見開く。メニーが俯いた。


「……白き姫とお妃さまって、血が繋がってないのかな」


 継母って書いてある。


「でも、鏡と会話してる時のお妃さまは、なんか幸せそう」


 メニーの目がぼんやりと文章を眺める。


「お父さんとお母さまみたい」


 仲良さそうに見えた。


「最初の頃は、もっと話してくれたのに」


 メニーの父親が死んでからママの態度は一辺した。このタイミングを待っていたかと言うように、メニーに対して態度が一気に変わった。


「今は、もう……」


 メニーが鉛筆を置いた。あたしは黙る。


「お姉ちゃん」


 メニーがあたしを見上げる。


「わたし、迷惑?」

「な」


 あたしは首を振った。


「なに言ってるのよ、メニー」


 あたしは、微笑む。


「馬鹿ね。そんなわけないじゃない」


 迷惑よ。お前さえいなければ良かったのよ。


「メニーがいるお陰で、あたし、毎日がとても楽しいのよ!」


 お前がいるおかげで、あたしの毎日はひやひやの連続だ。お前が、将来、あたしを、死刑にするから。


「メニーったら」


 だからあたしは、


「馬鹿な子ね」


 どんなに憎んでいても、

 どんなにお前が嫌いでも、

 あたしは、

 自分が助かるためなら、


 なんだって、してみせる。



「ちゅ」



 メニーの額に、唇を押し付けた。


 メニーがぱちぱちと瞬きする。

 あたしはメニーから離れる。

 メニーがぽかんとした。

 あたしはにこにこと微笑んだ。

 メニーがきょとんとした。

 あたしはにこにこ笑う。


「メニー」


 メニーの手を握りしめる。


「大好きよ」


 言葉を吐く。


「あたしにとって、メニーは、ただ一人だけの妹よ」


 あたしにとって、メニーは、ただ、一人の、妹、よ、という言葉を繋げて、舌で、声で、吐き出す作業を行う。


「愛してるわ」


 愛してる、わ、という単語をメニーに聞かせる。


 あたしの言葉は、偽りだらけ。

 本物は、どこにもない。

 あたしは、単語を繋げて、それを声に出して、それをメニーに、聞かせるだけ。


「そんな顔しないで。メニー」


 あたしは微笑む。


「いいわ。恥ずかしいから一回しか言わないわよ。よく聞いててね」


 あたしは繋げた単語を声に出す。


「あたしは、メニーが大好きよ。メニーがこの屋敷に来てくれて、どれだけ嬉しいか。あんたが、あたしの妹になってくれて、あたしがどれだけ嬉しかったか」


 あたしは微笑む。


「メニー、大好き。愛してる」


 あたしは単語を声に出す。


「あたしがメニーを愛してあげる」


 あたしは言葉を声に出す。


「大切にしてあげる」


 そこに、一切の心はない。


「だから、もうそんな顔、しちゃ駄目よ?」


 あたしは微笑む。


「わかった?」


 メニーの頰に触れる。メニーがあたしを見つめる。瞬きをする。メニーの目が潤む。メニーの瞳から涙がぽたりと落ちた。またぽたりと落ちた。メニーが瞬きした。またぽたりと落ちて、今度は瞼をそのまま下ろした。


「……」


 メニーが手で顔を覆った。


「……っ」


 メニーの瞳からぽたぽたと、大粒の涙が落ちていく。


 あたしは微笑みながらメニーから手を離し、立ち上がり、机の横を歩いて、メニーの隣に移動して、再び座る。

 横からメニーを抱きしめる。


「よしよし」


 背中を撫でれば、メニーがあたしに体を委ねた。あたしの胸にすがりついてくる。


「よしよし」


 頭を撫でれば、メニーがあたしの胸を涙で濡らしていく。


(後で脱いで洗濯しないと)


 この涙のシミが取れなかったら、このドレスは捨ててもらおう。

 メニーの涙のついたドレスなんか、いらない。


「メニー、よしよし」


 あたしは優しくメニーを撫でる。

 あたしは優しく微笑んで、メニーを撫でる。

 あたしは優しく口角を上げて、メニーを撫でる。

 あたしは優しくメニーを見下ろして、メニーを撫でる。


(ここまでしてあげてるんだもの)


 メニー。


 もう、あたしを、死刑にしないでね。



「愛してるわ」

「大好きよ」

「よしよし、メニー」

「いくらでも泣いていいのよ」

「ゆっくりでいいから」

「甘えてちょうだい」

「大丈夫よ」

「あたしがいるわ」


 死刑を免れるためにお前を愛する振りをするあたしがいるわ。


「大丈夫よ、メニー」


 あたしはメニーを撫でる。メニーがぐすんと鼻をすすった。


「よしよし」


 頭を撫でる。背中を撫でる。体を撫でる。たくさん撫でる。愛しているように見せる。そうすれば、あたしは、あたしだけでも、助かる。


(あたしは死刑にならない)

(殺されない)


 あたしは微笑む。


(これで助かる)


 にやぁ、と微笑む。


(ママはわからず屋)

(アメリはただのワガママ娘)

(こうなったら、あたしだけでも)


 メニーに媚を売って、助かるのよ。


 あたしだけでも、ね。







 コンコン、とドアがノックされた。あたしは振り返る。


「どうぞ」


 サリアがドアを開けた。あたしとメニーを見て、きょとんとする。


「……。……。……」


 すすり泣くメニーを見て、それを抱きしめて撫でるあたしを見て、サリアが、一度頷いた。


「なるほど」


 サリアがトレイをあたしの勉強机に置いた。


「こちらに置いておきます」


 サリアがあたしの部屋から出た。


「失礼致しました」


 サリアが頭を下げた。


「近親相姦の愛を確かめ合っている中、お邪魔しました」


 ……。……。……。……。……。……。


「ん?」


 メニーがきょとんとして、サリアを見た。

 あたしもきょとんと顔を上げて、サリアを見た。

 サリアは、お辞儀しながら、ふふっと笑うだけ。


「それでは、ごゆっくり」


 お辞儀したまま、下がっていき、扉を閉める。

 ぱたんと、音が部屋に響く。


 あたしが硬直する。

 メニーが涙目で、鼻をすすった。


「……お姉ちゃん」


 メニーが首を傾げた。


「きんしんそうかんって、なに?」

「ちがっっっ!!」


 その瞬間、あたしは慌ててドアに叫んだ。


「サリア! 違うの! これ、違うのよ!!」


 なにをどう見たら近親相姦になるのよ! 女の子同士なんだから、仲良し姉妹に見えるでしょ!?


(はっ! まさか!)


 仲良くしすぎた!?


「サリア!」


 あたしは叫ぶ。


「説明させて! 違うのよ!! これは! 違うの! あたしはただ、」


 あたしはメニーを抱きしめながら、全力で叫んだ。


「メニーと勉強してた、だけなのよーーーーーーーー!!!!!」



 罪滅ぼし活動ミッションその八、メニーとお勉強する。



「メニー! 誤解を解くわよ!」

「ご、誤解? なにを?」

「サリア! ねえ! サリア! 呼び鈴を! 早く!」

「あ、えっと、あ……」


 あたしの手が離れると、メニーがふらりと、座ったまま体を地面に倒した。


「えっ!?」


 あたしはメニーに駆け寄った。


「メニー! 今度はどうしたの!」

「足、……足が、痺れて……」

「おまっ! 馬鹿! それどころじゃねえだろ! 馬鹿!!」


 あたしはドアに振り向く。


「サリア! 違うのよ!!」


 あたしはメニーに振り向く。


「メニー! じっとしてなさい! 足の痺れはいずれ治るから!」

「……ううう……じんじんする……」

「サリア!! サリアーーーーー!!」


 後から聞いたのだが、サリアは、ほんの少し、空気を和ませようとしたらしい。難しい単語を言うことによって、なにそれ、という空気にしようとしただとか。


 だから、まさかあたしがその単語を知っていて、予想以上に部屋の中でパニックになり、暴れてる姿をドアの前で聞いていて、体を震わすほど笑いをこらえていたらしい。


「サリアーーーーー!」

「ぶふっ」


 サリアが、思わず吹き出した。

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