第20話 10月15日(4)


 ??時。路地裏。



 足が、へとへとになった。

 それでも、逃げないと、笑われる気がして、

 どこかに、隠れないと、笑われる気がして、

 いかれた演奏者は、指を差して笑われるから、

 あたしは、走る。

 疲れても、走る。

 膝が崩れそうになっても走る。

 バランスを崩しても走る。

 走れば、どこかに行ける気がした。

 どこかに、隠れられる気がした。


 建物をくぐって、裏に入って、裏の路地を走って、くぐって、潜って、


(ニクス)


 ニクスはいない。


(ニクス)


 ニクスなら、あたしとかくれんぼをしてくれる気がした。


「テリー、僕が鬼だよ?」


 あたしは頷く。


「ちゃんと隠れてね?」


 あたしは無邪気に笑って、走るのだ。


「いーち! にー! さーん!」


 ニクスが数える。あたしは走って、隠れる場所を探す。


「しー! ごー! ろーく!」


 ニクスが数える。あたしは笑って、隠れる所を探す。


「なーな! はーち! きゅーう!」


 ニクスが数える。あたしは隠れる所を見つけた。


「じゅーーーう!」







 ――ようやく止まった。



 薄暗い裏路地の建物の壁に手を置く。


「はあっ! はあっ! はあっ! はあっ!」


 恐怖で手が震えている。


「はあっ! はあっ! はあっ! はあっ!」


 気持ち悪くて吐きそうになる。


「んんっ……」


 頭がぐるぐるする。


「はあっ! はあっ! はあっ! はあっ!」


 ずるずると、その場に座り込む。


「はあ、はあ、はあ、はあ……」


 呼吸が乱れる。


「ぜえぜえぜえぜえぜえぜえ」


 呼吸が乱れる。


「ぜえぜえぜえぜえぜえぜえ」


 呼吸が乱れる。


「ぜえぜえぜえぜえぜえぜえ」


 呼吸が乱れる。


「ぜえはあぜえはあぜえはあぜえはあ」


 苦しくて、胸元を押さえる。


「ぜえはあぜえはあぜえはあぜえはあ」


 じわりと、汗と涙が溢れてくる。


「ぜえはあぜえはあぜえはあぜえはあ」


 あはははは!

 ベックス家の娘!

 あれがベックスの娘だぞ!

 下手くそ!!

 いかれた演奏者!


「……っ」


 あたしはぐっと拳を握った。


「ぜえ……ど……ドロ……はっ……ドロシ……ぜえ……ドロシー……」


 呼吸が乱れる。


「……お願い……来て……」


 胸が苦しい。


「……お願い……」


 肺が苦しい。


「……ドロシー……」


 苦しい。


「ドロシー……!」


 胸が苦しい。


「誰か……」


 呟く。


「……助けて……」


 枯れた声を出せば、


「ニコラ!!」


 奥の道から、走ってくる声が聞こえた。


「ニコラ! どうしたんだ! ニコラ!!」


 聞き覚えのある声に、目を見開いた。


「大丈夫か! そこにいろ! じっとして!」


 あたしはぐっと体を力ませ、立ち上がろうとするが、膝が言うことを聞かない。震える膝は、震えるだけ。走ってくる音は、その間にもどんどん近くなっていく。あたしは体を引きずらせる。逃げる。ひたすら逃げる。笑われないように、隠れる所を探して逃げる。


「待って……」


 声が近くに聞こえた。


「待って!」


 その手があたしの肩に触れた途端、


「触らないで!!」

「っ」


 思いきりその手を払った。払われたその影が、尻もちをつく。青い目と目が合う。薄い青髪が目につく。ハンサムな顔が目につく。


 レオが呆然と、あたしを見ていた。

 あたしがぎりっと、レオを睨んだ。


「……ニコラ……」

「……触るな……」


 腰が抜けたまま、引きずって、後ろに後ずさる。


「……来ないで……」


 乱れた呼吸のまま、後ずさる。


「あんたも笑うんでしょ……」


 あたしを笑うんでしょ。ざまあみろって笑うんでしょ。


「来ないでよ……」


 あたしは後ずさる。

 胸が苦しくて後ずさる。

 乱れた呼吸のまま後ずさる。

 肺にうまく酸素を通さないまま後ずさる。

 視界がチカチカ光ってきた。

 きらきら光りだす。

 キラキラ光る、コウモリさん。

 あたしは、どこに、隠れよう?


「っ」


 呼吸が上手く出来ない。


「っ」


 それでもあたしは後ずさる。レオから逃げる。


「っ」


 息が出来ない。


「っ」


 肺に酸素が届かない。


「っ」


 それでも後ずさる。


「ニコラ」


 レオがあたしに近づいた。


「ニコラってば」


 真剣な表情であたしを見る。


「ニコラ」


 レオが優しく微笑んだ。


「大丈夫」


 レオが優しい声を出した。


「大丈夫だ」


 レオが優しい目をあたしに向けた。


「ニコラ」


 レオがあたしに手を伸ばした。殴られる。叩かれる。鞭打ちだ。


「ひっ!」


 あたしは体を揺らして、また後ずさる。呼吸が乱れたまま、後ずさる。


「ニコラ、逃げないで」


 レオが微笑んだ。


「大丈夫さ。ほら、お兄ちゃんの手を握って」


 レオがあたしの手を、無理矢理握った。


「っ」

「何も仕掛けてないよ。ほら、君も握って」


 あたしの世界がチカチカしてきた。


「聞こえるか? ニコラ。握って」


 あたしの視界がぼんやりとしてきた。


「僕の手に罠は無い。安心安全。昨日、爪も切った。心配なことはない。僕の手を握るんだ」


 レオがあたしに微笑む。


「ほら、握ってみて」


 うまく呼吸が出来ない中、

 ドロシーが来ない中、

 誰にも助けを呼べない中、

 誰かに助けを求めるように、

 すがりつくように、

 あたしはその手を握った。

 レオの手を強く握った。


「握手だ」


 レオとあたしの手が握手した。


「どう? 何か思うことある?」


 あたしの呼吸が荒い。


「何でもいいよ。考えるんだ」


 レオが地べたに座ったまま、喋り続ける。


「例えば、ニコラの手は今、すごく冷たい。緊張してるみたいだ」


 あたしはレオの手を握り続ける。


「君に比べたら、僕の手はどうだい? 温かいだろ?」


 温かい。


「そうさ。僕は心が温かい人間だから、手も温かいのさ」


 レオが馬鹿なことを言った。


「お兄ちゃんは温かくて、まるで暖炉のようだろう?」


 レオが馬鹿なことを言った。


「お兄ちゃんっていうものは、妹を大事にするものさ。だろ?」


 レオが握手したまま、あたしに近づいた。


「だからニコラも安心して、お兄ちゃんに頼るといい」


 レオが握手したまま、あたしに近づいた。


「手を掴んだってことは、何かを求めてるんだ」


 レオが握手したまま、あたしに近づいた。


「ほら、おいで」


 レオが座ったまま、あたしの手を引っ張った。あたしは引っ張られた。引きずられる。レオも体を寄せた。


 抱きしめられる。


「落ち着いて」


 レオの声が、あたしの耳に響いた。


「落ち着くんだ」


 レオの声が、あたしの耳に囁いた。


「呼吸を整えよう」


 レオがあたしの背中を叩いた。


「さあ、ニコラ、深呼吸だ」


 いいかい?


「僕に合わせて。真似をして? 出来るだろ? ニコラなら出来るはずさ。君は利口だから、出来るよ。さ、合わせて、呼吸して」


 レオが息を吸った。

 あたしは息を吸った。

 レオが息を吐いた。

 あたしが息を吐いた。

 レオが息を吸った。

 あたしは咳込んだ。

 レオの手があたしの背中を叩いた。

 あたしは息を吸った。

 レオが息を吐いた。

 あたしが息を吐いた。

 レオの手があたしの背中を叩いた。

 合わせて、レオが息を吸った。

 合わせて、あたしも息を吸った。

 レオが息を吐く。

 あたしも息を吐く。

 レオが深呼吸した。

 あたしは無理矢理深呼吸した。

 レオの手があたしの背中を撫でた。

 レオの手があたしの背中を叩いた。

 レオの手があたしの背中を撫でた。

 あたしは深呼吸を続ける。

 あたしは呼吸を続ける。

 頭がくらくらする。

 あたしは呼吸する。

 レオも呼吸する。

 レオの手があたしの背中を叩く。

 レオの手があたしの背中を撫でる。


 過呼吸が治まる。


 ぐったりと、レオの胸に脱力した。


「……」

「そうだよ。上手だね」


 深呼吸するあたしの背中を、レオが撫でた。


「大丈夫。ゆっくり呼吸して。大丈夫だから」


 レオの声に、あたしのパニックがどんどん治まってくる。


「ニコラ、驚いたんだろ。あんなに大勢、人がいてさ、ふふっ。そんなんじゃ、城に遊びに来れないぞ? ニコラ、舞踏会ってすごいんだ。もっといっぱい、人がいるんだから」


 レオがおかしそうに笑う。


「11月のパーティー、良かったら君もおいで。僕の友人として招待するよ。そうすれば平民でも城に入れる。ドレスが無いなら、僕が最高のものを用意してあげる」


 レオが優しくあたしに言う。


「すごい世界を見せてあげるよ。特別だぞ? 僕の妹だから、特別招待だ。皆には秘密」


 レオがあたしの背中を撫でる。


「怖がらなくていい。怯えなくたっていい。人間は、そんなに悪い人ばかりじゃない」


 レオがあたしの背中を撫でる。


「大丈夫。さっき、皆が興奮して拍手をしていたのは、ニコラとあの女の子の合奏がすごかったから、皆がそれを称賛したんだ。すごいことだよ」


 あたしは掴んでたレオの手を握った。


「うん?」


 あたしは強くレオの手を握った。


「どうした?」


 レオがあたしに訊いた。


「どうして、そんなに怯えているの?」


 レオがあたしの背中をぽんぽんと撫でた。


「落ち着いて。大丈夫だよ」


 レオが微笑んだ。


「何も怖くないよ。ニコラ。僕が傍にいる」


 レオが言った。


「顔を上げて」


 あたしは、顔を上げた。


 レオがあたしを見つめていた。

 あたしはレオを見つめた。

 レオが微笑んでいる。

 あたしはレオを睨んでいる。

 レオは殺意を向けていない。

 でもこれから、あたしに向けてくるのだ。こんなに優しく微笑まない。

 あたしがメニーを虐めていたから、沢山痛い思いを味わわせにくるのだ。


「ニコラ」


 憎い。

 その優しい笑顔が憎い。


「ニコラ」


 恨めしい。

 その優しい声が恨めしい。


「僕がついてるよ」


 腹が立つ。

 その優しい目に腹が立つ。


「大丈夫」


 ぽんと、頭を撫でられる。


「大丈夫」


 なでなでと、頭を撫でられる。


「大丈夫」


 あたしの涙腺が緩む。


「大丈夫」


 あたしの目に、涙が溜まってくる。


「大丈夫」


 その声が、落ち着く。

 その目が、落ち着く。

 その魂が、落ち着く。

 そのぬくもりが、温かい。

 手を握る。

 手を握られる。

 見つめる。

 見つめられる。

 レオがいる。

 リオンがいる。

 あたしは見つめる。

 ひたすら見つめる。

 リオンを見つめる。

 リオンがあたしを見つめる。


 見つめ合う。



 ――その瞬間、あたしの視界の端で、一つの光がぎらりと輝いたのが見えた。



(……え)


 あたしは目を見開く。


(あ)


 あたしは脱力した口を、動かす。


「レオ」

「うん?」

「後ろ」

「うん?」


 レオが振り向く。あたしも見上げる。

 レオに狙いを定めて、まっすぐ剣を振り下ろすキッドを見上げる。

 レオが、一瞬だけ息を吸って、




 叫んだ。




「ああああああああああああああああああああああ!!!!」


 レオが甲高い悲鳴をあげて、慌ててあたしを突き飛ばし、自分も横に転がって剣を避けた。レオの座っていた場所に、あたしの目の前に、躊躇なく、容赦なく、剣が刺さる。レオが避けたその瞬間に、あと1秒も遅れていたら、確実に刺さっていた剣。刃物。それを見たレオが、体と唇を震わせた。


「あばばばばばばばば! だばばばばばばばばばば!」


 がたがたと震え、自分を抱き抱え、青い顔になって、腰を抜かしたまま、地面に刺した剣を引っこ抜くキッドを見上げた。


「なななななな! 何を! 何を!」

「レオ」


 はあ、とキッドがため息をついた。


「なるほど」


 キッドがレオに視線を定めた。


「お前だったか。リオン」


 にんまりと微笑む。


「だからか」


 リオンに体を向ける。


「リュックにイラっとするストラップつけてると思ったら」


 剣をレオに構えた。


「ねーえ? 何やってるの? お前」

「いや、あの、に、あの、ね……」

「あ?」

「兄さん!」


 青い顔になったリオンが正座した。


「紹介します!」


 あたしに手を向けた。


「僕の妹です!!」

「……」


 キッドが口角を下げ、ちらっとあたしを見る。あたしは冷めた目でリオンを見ている。リオンは引き攣る顔で、向けた手を震わせる。キッドの視線がリオンに戻る。


「……何言ってるの。お前」

「……い、妹の、ニコラです……」

「ニコラって?」

「……あの……この子……」

「この子?」

「……はい」

「ニコラ?」

「……はい」

「……お前の妹?」

「……と、僕が呼んでいる、友達です……」

「ふーん」


 キッドが剣を鞘にしまう。


「お前、根本的に色々間違えてるよ」

「……と、申しますと……?」

「まず、この子はお前の妹じゃない。姉さんだ」

「……えっと……あの、……この子は、僕より年下です。……あの……」


 レオがあたしにぼそりと聞いた。


「……ニコラ、君14歳だったよな?」

「ええ」


 頷くと、レオが再びキッドに向き合った。


「二つほど、年下です!」

「結構。そんなことはどうだっていい」

「……と、申しますと……?」

「この子の名前はテリー。ニコラじゃない」

「……はい?」

「テリー・ベックス」

「……はい?」

「だから」


 キッドが、リオンを睨んだ。


「この子は、俺の婚約者の、テリー・ベックス。お前のお姉さんになる、俺の将来のお嫁さんだ」

「……。……。……。……。……」


 リオンが、ぱちぱちと瞬きをして、青い顔で、もっと青い顔で、さらに青い顔で、あたしをチラッと見て、キッドを見上げて、また瞬きして、


「……え?」


 掠れた声を出した。


「え」


 リオンの目が、ぴくりと痙攣した。


「いや」


 リオンの口が開いた。


「いやいやいやいや!」


 慌てて立ち上がり、キッドに向き合う。


「いや、兄さん、それはないって!」

「何がないの?」

「だって、この子、女の子だ!」

「女の子を好きになって悪いの?」


 キッドが平然と訊くと、リオンが呆然とする。


「……い、いや、……悪くないとか……そういう問題じゃなくて……」

「俺がこの子を真剣に愛したらまずいの?」

「いや、まずいというか……」

「文句があるなら口で言え。お前も男なら」

「いや、キッド、それは、あの、だから」

「何」

「……ニコラは知ってるの?」

「結婚が決まったら言う」


 キッドが言うと、リオンが黙る。黙って、そっと一歩下がって、あたしの前に立った。


「……ってことは、知らないんだな」

「うん。テリーは良い子だから詮索してこないんだ。テリーの気持ちも整ったら、ちゃんと全部言うよ」

「気づいてないんだな」

「どうだろうね」

「結婚が決まったら言うのか?」

「全部ね」


 リオンが少し、黙って、また口を開く。


「……それって、あんたの自己満足じゃないのか?」

「人間は、皆、自己満足に生きている。お前だってそうだろ?」

「兄さん、ニコラを巻き込むな」

「リオン、口を挟むな」

「いいや。もうニコラは僕の妹だ。大切な妹分だ。だから口を出させてもらうよ」


 リオンがキッドを睨んだ。


「真実も言えないくせに、この子に好きとか言うな。気持ちが整ったら、なんて、人はそれぞれ、受け入れられないこともあるんだ。全部が上手くいくように考えてるところ、あんたの悪い部分だ。キッド」

「リオン」


 キッドが微笑んだ。


「醜い兄弟喧嘩なんてしたくない。許してあげるから、そこ退いてくれないか?」

「……なんで退かなきゃいけないの?」

「お前の可愛い妹分のニコラちゃんと、二人きりになりたいんだ。そこ退いてくれる?」

「嫌だって言ったら?」

「はは」


 キッドが笑う。


「嫌だ?」


 キッドが笑って、風が吹く。吹いたと同時に、リオンの顔の寸前に、剣が向けられていた。見えない動きに、リオンが目を見開いて、体を硬直させる。


「っ」

「リオン」


 キッドが剣を向けながら、優しく微笑む。


「愛してるよ。お前は俺の大切な弟だ。だから言ってるんだよ」


 そ こ を 退 け 。


「さっさと退いてくれる?」

「……」

「リオン」


 キッドの声が、低くなる。


「退け」


 その声を聞いて、リオンが、一歩、横にずれた。座り込むあたしと、キッドの目が合う。


「良い子だね。リオン。退いてくれてありがとう」


 キッドがリオンの頭を掴んだ。


「愛してるよ。リオン」


 ちゅ。


 キッドがリオンの頰にキスをした。しかし、すぐにリオンを突き飛ばす。ふらりと、リオンの足が揺れた。

 キッドが再び剣を鞘にしまい、座り込むあたしに歩み寄る。あたしに跪き、その目をあたしに向けて、口角を上げて、王子様らしい素敵な笑顔で、手を差し出した。


「さ、おいで」


 じっと動かないでいると、キッドがもっと微笑んだ。


「早く」

「……」


 その手を掴むと、今度はキッドに引っ張られる。キッドの腕が伸びて、あたしの腰が宙に浮く。


「よいしょ」


 お姫様抱っこで、抱えられる。


「テリー。俺の馬車で二人で話をしよう? ね?」

「……」

「仕事先なら心配しなくていいよ。ニコラちゃんが気分を悪くして早退しますっていう連絡を、俺のお手伝いさんが伝えに言ってくれてるはずだよ」

「……」

「うん。だからゆっくり話そう。大丈夫。お手伝いさんがお前の代わりに一生懸命働いてくれるってさ。俺も今日の見回りの仕事が終わってるから大丈夫。安心して二人きりになれるよ」


 キッドがリオンの横を通り過ぎた。


「テリー、馬車に着くまで目を瞑っていようか」


 リオンが黙って、キッドの背中と、抱えられたあたしを、じっと見ていた。


「ゲームをしよう。お前は馬車に着くまで、何も見てはいけない」


 キッドがあたしに言った。


「目瞑ってて」


 キッドが優しく微笑んだ。


「何も見ないで」


 あたしはリオンを見た。

 リオンがあたしを見た。

 目が合う。

 リオンが頷く。

 それを見て、あたしは目を瞑って、キッドに体を預けた。


「良い子だね」


 キッドがあたしに言った。


「愛してるよ。テリー。誰よりも、深く」


 あたしの頭に、キッドの唇が落ちてきた。



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