旭光
「出口です! 皆さん! 出口ですよ!」
ティタが嬉しそうな声を上げた。
その言葉通り、行く先には外からの太陽の明かりが差している。
彼女はオベルに肩を貸して歩いていたが、それがなければきっと駆け出していただろう。
「待て! ティタ! 待ち伏せがあるかもしれない、外を確かめてからだ!」
そう
『昼間か……それとも朝か。刻限の感覚がねえぜ』
エルフの叛徒から剥ぎ取った服で包んだ大蛇の頭を担ぐザジがそう感想を述べた。
「どっちでもいいさ。我々は誰一人欠けず、冥府の底から帰還したんだ」
『亡霊じゃなくなるのか。じゃあお前はなんになるんだよ? 騎士に戻るのか?』
グリステルは立ち止まり、手にした
そして一筋、涙を流した。
『グリステル?』
ザジも立ち止まり、彼女の様子を伺った。
『お前、泣いてるのか? どうした?』
「きみの小屋で目覚めた時、私は……神を呪い、神などいらぬと思った」
彼女は消え掛けていた松明を捨てて、空いた手で涙を拭った。そして力なく笑った。
「だが、やはり神は天に
『…………』
ザジには彼女の言わんとするところがまだ分からない。彼女の涙の訳も。
「戦争を止めるには、まずその決着が着かなければならない。戦争の勝者だけが、戦争を止める権利を得るのだ」
『そりゃ、道理だな』
「ティタと出会って分かったよ。私は薄々勘付いていながら、その結論から逃げていた」
グリステルはザジを正面から見据えた。
「ザジ。百年戦争に介入して人間を勝利させよう。そして停戦協定を結び、不可侵線を引いて、互いの領域を開戦前に戻すんだ」
『…………』
「このやり方は、沢山の死を積み上げることになる。だがこれが、我々にできる最短の戦争停止の手段だ」
『……成る程な』
「すまない、ザジ。これ以上死を見たくないというきみに、私は死体ばかりを差し出して、更にこれからまた新たな戦場に
ザジはグリステルの言葉を仕草で遮った。
『解ってるよグリシー。あの小屋で部族の討伐隊に囲まれた時、俺は死を覚悟してた。そっから先はオマケの儲けものさ。こうなりゃとことんお前に付き合って、何がなんでもこの戦争を止めてやるぜ』
ザジは一回言葉を切って、天を仰いだ。
『先にあの世に行っちまった、俺の女房と子供の為にも』
「私は、地獄に落ちるだろうが」
グリステルはザジの肩をぽんと叩いて先へ歩き始めた。
「いつか塚を作ろう。この不幸な戦争で命を落とした全ての犠牲者を悼み、慰める為の塚を」
『そうだな』
答えたザジはいつもの調子だった。
『俺の老後は墓守か。悪くねえや』
「私の墓も頼む。恨みを沢山買うだろうから守るのは大変だろうが」
『ごめんだね。俺より早く死ぬんじゃねえぞ、めんどくせえ』
ザジはグリステルの後に続く。
「グリステルー! ザジー! 何をなさってるんです! 早くこんな所出てしまいましょうよー!」
陽の光溢れる出口を背負って、ティタの影が弾む声で二人を呼ぶ。
ザジとグリステルは視線を交わすと互いに小さく頷いて歩調を早めた。
眩しく輝く光に向かって。
*** 了 ***
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