妖精
「エルフ……草木と語らい、精霊を操り、千年を生きて歳を取らないという妖精族か」
グリステルの声は驚きと好奇の響きを含んでいた。成る程、金色の髪から覗く彼女の耳の先は僅かに尖っているように見える。
「伝説だと思っていた」
ティタは黙り込む。
『あんた達にはそんな風に伝わってるのか。実際はそこまで不思議な一族じゃない。他者と争わず、干渉せず、ひっそりと森に隠れ住むことで血を守ることを選んだ一族さ。他と殆ど交わらない集落の中で血が濃いからか、一族揃って金髪で肌は透き通るように白く、耳の先が少し尖っている。森の地理や薬草にやたら詳しいから、エルフ族に取って普通のことも、他の奴らには不思議に見えることもあるだろうな』
「詳しいな、ザジ」
『俺たちのディスパテルの一族は元々エルフ族とは縁があってな。爺さんの爺さん位の代までは、交易の取引もあったと聞いてるぜ』
「我々ヒュームは、北方の民について本当に何も知らないんだな……」
『その話で思い出したぜ。ここはつまり……ドワーフ族の大坑道か』
「ドワーフ。ヒュームの伝聞では、確か地中に住む酒飲み髭面の坑夫たち。美しい細工物を打ち、優れた武具を鍛えると聞くが」
『それは概ね合ってるな。俺たちよりは日の光に強いが、ヒュームよりは遥かに日に焼け易い。だから日中の殆どを掘った穴倉で過ごすんだ。ここはそのドワーフ族たちが掘った昔の坑道の跡だろう』
「ここを掘ったドワーフ達はどこへ行ったんだ?」
『シヴェンツェーグの森のドワーフたちは……確か昔聞いた噂だと、地獄の蓋を掘り抜いて坑道に魔物が溢れ出し、坑道を捨ててよそに移った……とか』
「そうです」
それまで二人のやり取りを黙って聞いていたティタは顔を上げ、きっぱりと言った。
「私たちはここを『魔窟』と呼んでいます。邪悪な竜が住む地獄の穴と。私もオベルも、こんな所に……来るはずではなかった」
「我々と同じというわけか。妖精の姫君」
「ええ……だから……」
『出口は知らないって?』
口籠るティタの言葉の先を、ザジが継ぐ。
「逆です。これは……言いにくいことなのですが」
ティタは苦しそうに告げた。
「この坑道に出口はない、と言うことを知っているのです」
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