第3話「資料及び個人情報(引継ぎ資料です)」
「話は聞いています。あなたがあの三人娘のプロデューサーになるんですってね、詳しい資料はこれです」
俺はデスクに戻り、背を伸ばしてから「はー」と息を吐いていると香川補佐が話しかけてきた。
短いボブヘアーを手でかき分け、一瞬うなじが見える。色気のあってお姉さんっぽい印象を受けるのだけど、やはり笑顔が怖い、なにか悪い気分にでもさせてしまったのだろうか。
ペコリと頭を下げた俺は資料に目を向ける。俺は資料を見るや目を見開いてしまった。主に資料にはその子の経歴、どのような活動内容なのが書いてあった。ただ、俺はそんな内容よりも気になった項目があった。名前の欄、下に特技と書いてあった。
アイドル(小二)
大宮(おおみや)凛(りん)
特技:モノを浮かす能力
アイドル(中二)
西大路(にしおおじ)陽菜(ひな)
特技:テレパシー能力(脳内で会話可)
アイドル(高二)
山ノ内(やまのうち)七海(なつみ)
特技:モノを曲げる能力
特技って、これは今後の芸能活動で売っていく、設定上の属性ってやつなのだろうか。俺はそうだろうとしか思わなかった。資料を見たのち、目の前に立っている香川補佐の顔を見上げた。
「これからこの属性で売っていくんですか?この子らは」
「??、ああ、そうね。実際に見てもらったほうがいいのかもしれないですね。それにあなたにはこれから前任者の引継ぎ作業に移ってもらいます」
「え?前任者っていたんですか?」
そんなの初耳だ。聞いてない。いるならそいつを呼び寄せてくださいよ。と言うか、こんな俺みたいな新人よりもその方がやればいいんじゃないですか?
「本当ならばその方がやるべきことだったのかもしれないわね。だけどそれは叶わぬ現実です。君が入ってくる前に、早々に辞めちゃいましたからね。それにその期間の間は私が別グループと兼務で、彼女たちを見ていましたからね」
ギラリと睨みつけるように香川補佐は俺を見た。彼女の仕事を取ってしまって怒っているのだろうか。謝った方が良いのかな?
「なんなら今日にでも会ってみますか?引継ぎ作業が終わってからになりますが」
「会えるのであれば会ってみたいです。どういった子なのかは写真と文章だけじゃわかりかねますし」
香川補佐は顎に手を当て、「ふん」と鼻で息を吐いた。そしてくるっと後ろを向いてから、
「それでは久米島君のパソコンにその他資料、引継ぎをメールで添付しますので拝見してください。拝見後、私が詳しい引継ぎをしますので声をかけてください。会うのはそれ以降ですね」
俺は「はい」とだけ軽い返事をしたのち、香川補佐は自分のデスクに戻っていった。
パソコンを開き、メール画面を開くと早々に香川補佐から添付メールが届いていた。引継ぎの資料だ。その内容はその子の好きな食べ物、その料理の作り方、見栄えのコツなど書いてあった。なんだこっりゃ、香川補佐、間違えて送ったのかな?しかし、添付資料の名前には『三人娘資料1』と記載されている。
こんな資料、引継ぎされても困るのだけど。俺はどこかの料理人でもなるのだろうか。ただ、その資料は次々と送られてきて、次第にとんでもない量になっていた。
ため息が出るぜ。この量は。何かの間違いであってほしい。結局、資料は六百個ぐらいになっていた。俺のPCが壊れちまうぜ。「はー」とため息を漏らしながら、自分のパソコンに資料を保存した。
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