第2話「社長との会話」

 突然の報告に僕は目を見開いだ。研修一ヵ月ぐらいで担当になるものだろうかと考え込む。

「そんな考え込むのではないよ。そりゃ君は一ヵ月前に入社したばかりの新人だ。だから君には補佐をつけるつもりだよ」

 社長は革製の高級椅子に座り、机に肘を置いて、両手の手の甲に顔を置いて、俺を見つめていた。

 だけど本当にいいのだろうか、研修にしても基本的なこと(ビジネススキルという社会人のマナーぐらい)しかしていない。ましてアイドルのプロデューサーだなんて、最初は補佐、サポートから始めるのじゃないのかよ。

「ですが、一ヵ月弱しか研修を受けていない自分がアイドルのプロデュースなんて出来るのですか?そこには不安しかないのですが」

 素直に今思っている意見を社長に述べた。社長は「ははは」と軽い乾いた声を口にして、笑みを見せた。

「君はそのためにこの職場を選んだんじゃないのかい。いわゆるチャンスだよ。それにこの辞令は断る=《イコール》仕事を辞めてもらうことになるからね」


 この仕事は断ることは出来ないらしい。社長の言葉からうかがえる。しかし、いきなり新人がプロデューサーだなんてこの職場、大丈夫だろうか。不安感が僕の背中を押し潰そうとする。

「……分かりました。その仕事受けます。受けさせてもらいます。ただ、僕は何をすればいいのですか」

 新人ながらいきなりプロデューサーだなんて分からないことばかりだ。そのぐらいの質問ぐらいはいいだろう。

 社長は顎に生えてある白いひげを触った。「うーん」と考えながらも、

「そうだな。アイドルの身の回りの世話、個性を伸ばすための活動、その子の活動進路、仕事の依頼、アイドルのやる気をあげたり、それにストレスの抑制等だな」

「…………」

 俺は無言になってしまう。身の回りの世話?プロデューサーの仕事に関係があるのだろうか。てっきり首を傾げてしまう。

 社長は続けて言う。

「詳しいことは、補佐につけている香川補佐に聞きたまえ。あの子ならば業界のことも知っているし、話を聞くといいよ」

 軽く言いやがる。それにしてもなんで俺なんですか。香川補佐でいいんじゃないですか?それに美人だし、業界を知っているんだったら話が通しやすいんじゃないですか?

「とある人物の推薦でね。本当だったら、君は事務的な作業をやってもらうつもりだったんだけどね。頑張ってね。応援しているよ」

 とある人物って誰だろう。知っている人だろうか。そんな推薦されるほど、俺は人間出来ていない気もするんだが。頭の中で業界関係者の誰か?なのかと頭で考えていると、思い出したように社長が口を開く。さっきの笑顔から一転、別人になったように怖い色声で言った。


「あ、そうだ、君は分かっていると思うのだけど、アイドルたちはこの会社の商品だからね。ただ僕はある程度君には、信頼と言うものを得ているつもりだと考えている。ただね。一時の気の迷いで、商品彼女たちを傷つけるようならば……。この青い海に赤い血を見る羽目になるからね」

 社長は睨みつけるように、俺を牽制した。初めて見る顔だった。俺は喉を触りながら、ゴクリと喉を鳴らす。少しばかり手が震えている。とんでもないところに入社したらしいな。こりゃ。

 社長に頭を少し下げて、そそくさと逃げるように社長室を出た。出る前に一瞬、社長の笑みが見えた気がしたが、どうすっかな、腰に手をあてて、ため息を吐くしかなかった。

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