大宮凛ちゃんには手が掛かる
誠二吾郎(まこじごろう)
第1話「プロローグ」
超能力者の存在を知ったのは、俺が幼少期時代に見たテレビでの出来事だった。スプーンを曲げたり、無いはずのところからボールを出したり、お茶の間をにぎわしていたマジック番組でのことだった。
俺自身、目のあたりにして子供心ながら、目を輝かしていた事実を明かしておこう。
それ以来、家のスプーンを触ったり、実家近くの百円ショップでトランプを買ってきては、そいつらの真似をしていた。
しかし、俺には超能力と言った才能がなかったみたいだ。スプーンを触っても曲げることが出来ない。トランプで見様見真似で真似をしても何も起こらない現実に、頭を抱えていた。
学年が上がるにつれて、俺は超能力者の存在は特別なモノと思えるようになっていった。
ただ、現実は残酷だった。小学校高学年に上がり、運動会が終わり秋から冬になる頃だったか、その同級生に、「超能力なんて存在しないよ。ついでにサンタもね。必ずトリックはあるんだよ。現に昨日のマジックショーでは種明かししてたしね。実際、サンタはお父さんかお母さんだよ」
俺の目の前、遠足時でそう告げやがった。告げた奴はけろっとしていたが、俺は口をポカンと開けて、いきなり現実を突きつけられたことに戸惑いを隠せなかった。
超能力者の存在まして、サンタの存在まで否定しなくても良かっただろうに、と今でも内心は思っている。
学年が上がり、中学、高校と成長するにつれて、超能力者の存在は否定側になっていた。いつぞやのマジックショーをテレビで見ても、種はどこだとしか見ていなかったし、子供心ってなんだろうな、と秋の枯れ葉、冬の訪れの冷たい風を感じると、今も脳裏によぎって締まっていた。
必ず、物事にはトリック《隠しネタ》が存在するんだ。そう世界は成り立っている。だから、経済、政治、犯罪、まして芸能のゴシップなどの問題はすべて
そんな子供心の夢を忘れた学生時代を俺は過ごしていた。ただ、頭の奥底、すみっこのところでは本当は居るんじゃないのかと必死で探していたのかもしれない。
そんなのは嘘だ。冗談だよ。もう俺は大人だ。そんなの信じていては、周りの人たちに笑われてしまう。俺自身、笑われたくないしな。
時が経ち、俺はとあるアイドル事務所に入社した。最初はこれで良かったのかとも思えたが、唯一僕を気に入ってもらえていた会社でもあったからお世話になることに決めたのだ。
それに就職活動なんぞ早く終えたかったのも理由の一つだったっけな。
にこやかな顎に白い髭が生えた社長も優しい方みたいだし、香川補佐は正直顔が怖いのもあるのだけど、美人だ。ただ、俺は知る由もなかった。この会社ただのアイドル事務所ではなかったのだ。そのことを皮肉にも社長から告げられたのだ。それは研修期間が終わった翌日、社長直々からの辞令で。
「久米島くん、いや久米島プロデューサー、本日より、三人娘の担当を任命する」
それは春の桜が散り始めたゴールデンウイーク前の出来事、社長室にて、にこやかな笑みを崩していない社長が、そう俺に告げられた直後にことだった。
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