第402話 砂の中のお茶会

「ほほぉ。ということは、お主はついさっきここで生まれたということかゾヨ」

「そうなん」

「それで、世の中のことをよく知らないわけゾヨ。うむ、せっかく出会ったゾヨ。少し話をしよう。これでも食べるゾヨ」


 ドラゴンと自称したその魔物だが、体長は約30センチメートルしかない。イズナと同じくらいのサイズである。短い手足に細長い胴。並べば兄弟に見えなくもない。


 ただし、皮膚はウロコに覆われガチガチで、背中には硬い菱形の板のようなものが並んでいる。背骨の両側には小さな――長さ10センチメートルほどの――羽根が一対生えている。


 そんな二匹が、砂の中にぽっかり空いた穴で、お茶会をしていた。


「これはなんなん?」

「ポテチというお菓子ゾヨ。まあ、食べて見れば分かる。あと、お茶もあるゾヨ」


 イズナもお茶セットを、自分のアイテムボックスにこっそり隠し持っているのである。魔王のするこたみな同じ、である。


「これは食べ物なん? 我はこの砂しか食べたことなのん」

「砂が主食か!? また丈夫な胃袋をしてるゾヨ。口に合うかは分からんが、食べて見ろ。お茶もあるゾヨ」


「そこまで言うなら、ぽりぽり……おおっ、これはすごい! なんか幸せになる味なん。お主……えっとイズナと言ったな。すごいな。天才か!?」


「そ、そうか。なんか褒められ方に違和感があるが、気に入ってもらって良かったゾヨ。それで、お主はここでなにをしていたゾヨ」

「ずずずっ。おお、これがお茶か。良い香りなん。これもうまいなん。えっと、我は特になにもしてないん。することもないし」


「そういえばまだ生まれたばかりだったゾヨ。それではこれからどうするゾヨ。ずっとここに住むのか?」

「そう言われても困るん。イズナがここに住めば、毎日ポテチが食べられるんな」


「たかるなよ。ワシはずっとここにいるわけにいかんゾヨぽりぽり」

「そうかポリ。それなら我がお主について行けば良いのん?」

「ワシについて来るのか? ここはお主の生まれ故郷だけどいいのかゾヨ?」


「ポテチとお茶のあるとこがいいのん」

「ふるさとになんの興味もなしかゾヨ!?」

「別にないのん」

「あっさりしたやつゾヨ。それにしても、最初は大きめのトカゲかと思ったゾヨ。まさかドラゴンだったとはなぁ」


 魔物は人や獣と違って遺伝子を持たない。つまり親から生まれるのではなく、その空間に溜まった魔素や好素や湿度や光など、その環境の雰囲気でなんとなく突然発生するものなのだ。


「ドラゴンって珍しいのん?」

「それは珍しいぞ。1,000年生きてる我でも、ドラゴンに会ったのはこれが初めてゾヨ」

「そうなのん。なんで我は生まれたのん?」


「詳しいことは分からんが、おそらくお主はこの砂の、えっと、ふいんきで、生まれたのヨ」

「ふ、ふいんきで生まれたのか。舌をかみそうなん。で、我はどうすると良いのん?」


(雰囲気だっての。熟語を改変すんな)

(作者がそう言わせたんでしょ!?)


「いや、それをワシに聞かれて……あああっ、そうだ、大事なことを忘れていたゾヨ! お主、この辺でドリルを見なかったか?」

「ドリルとはなんなん?」


「ああ、もう、そこからか。ドリルとはな、こうなってってこういう形状……ん? お主、そのしっぽにつけてるのはなんだゾヨ?」

「しっぽはしっぽなん。これは我のものなん」


「ちょ、ちょっと見せてみろ。それはまさか」

「こ、こら。なにをするのん。そこはあぁぁん。触っちゃあっあっ、ダメなとこあぁぁああぁぁん」


「おかしな声を出すでない! ワシはツッコミは苦手なんだゾヨ。このカチカチの皮膚に短い羽根。ゴツゴツした背中から伸びるこのしっぽの感触は紛れもなく」

「あぁぁん、もう。ダメ、好きにしてのん」


「だから紛らわしい声を出すな!! これだ、これがドリルだ」

「そこ、我の急所なん」

「しっぽが急所なのか!? ドラゴンといえば、普通はアゴの下にあるこの」

「きゃはははははは。そ、そこ、そこ、そこも触っちゃきゃはははははは」


「ここはここで弱点のようゾヨ。だけど、問題はこのしっぽゾヨ。なんでこんなところに我のドリルが」

「あぁん、そこは、その、あの、そ、そうやって触られると、イっちゃいそうなん」


「なんでだゾヨ!!! いかん、これはワシでは手に負えん。ともかくドリルはこいつの中にある。上に戻ってユウになんとかしてもらおう」

「もうしないのん?」

「触って欲しいのかゾヨ! いいから、ちょっとついて来い。上に戻るゾヨ」

「我はここが戻る場所なん」


「そういうとこだけしっかりするな!! ワシが戻るからついてこいと言ってるゾヨ。いいから来い」

「分かったのん。だけどどうやって行くのん?」


「我が掘ってきた穴が……塞がってるか。まあいい。また掘るだけだ。我の後ろをついてくるが良い」

「この砂、掘るのは大変なん。どうやってついて行けばいいなん?」

「その短い手では掘れないのか。掘った先から埋まってしまうしな。慣れてないと難しい……としたら、いっそ飛べば良いゾヨ」

「飛ぶ?! どうやって?」


「そりゃ……その小さな羽根では無理なのか。面倒くさいドラゴンゾヨ。それならワシのふわふわを貸してやろう。これに乗ってワシのしっぽにつかまれ」

「こ、これに乗るのん? わぁお。ふっかふかのん、気持ちよいのん。何度も繰り返すけど、お主はすごいものを持ってるのん」

「それはまあ、ワシは魔王だからゾヨ。乗ったらしっかりつかまっていろよ」


 ポテチはユウが作ったものだし、ふわふわはオウミが最初に作ったものだけどな。


 かくしてイズナはドラゴン(名前はまだない)を連れて上に登り始めたのであった。


「なんか紐が緩んだヨ?」

「なにがあったノだ?」

「自分で掘り進むつもりのようだヨ」

「こうやってイズナの命綱を持っている我らノ立場って?」


 合図をすれば引っ張ってくれることを、すっかり失念しているイズナであった。そしてこの幼いドラゴンが、ユウたちに、そして日本の神々に、とんでも問題を引き起こすのである。

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