第401話 砂の中

「もがもがもご。この砂はこっちに伸びているゾヨ。少し道を外れるとベッタベタの油になるから気をつけないと。この砂の行き着く先にきっとアレはあるもごもごぺっぺ。口の中がじゃりじゃりゾヨ。でも意外と明るいから助かるもご」


 イズナが潜って5分ほどが経つ。紐はまだ半分以上残っているようだが、あちこちに移動しているのが紐の動きで分かる。探しているのだろう。


「もご、おや? なんか動きにくいもが。下に行くほど砂粒がだんだん大きくなっているような。砂より掘りづらいゾヨ。面倒くさいゾヨ」



「イズナのやつ遅いな。まさか中で気を失ってたりしないだろうな。ミノウとオウミ。まだイズナは潜り続けているか?」

「潜るのは止まったノだ。だけど、なんかちょこちょこ動いているノだ」


「ユウ。イズナは大丈夫だろうか?」

「カンキチは心配性だな。あの愛らしい風体で忘れ勝ちだが、イズナだって千年もエチ国に君臨する魔王だぞ。めったなことで死んだりするものか」

「それにしては動きがちょこちょこになったのはどうしてかしら?」


「スクナもそっち側か。砂の中で探してるんだろう。じっとしている沈んでしまうが、強い力で掘ろうとすると硬くなるし。イズナも慣れるのに苦労していることだろう。だからどうしても動きはちょこちょこになる。捜し物はあまり大きなものじゃないから、視界の悪い中で探すのは大変だろうしな」


「大きなものじゃない? いったいなんだ、それは。ユウは確信を持っているようじゃないか」

「まあ、俺の推測に過ぎないが、探しているのは恐らくイズナがなくしたドリルだろう」


「ドリルって……ああっ、岩盤に穴を開けるのに使ったっていう?」

「そうだ。イズナがヘタこいて、鉄棒の先端を中に落っことしたって言ってだろ。それがあの原油池の中に落ちてるんだと思う」

「たしか、ウエモンの作ったドリルで」

「最後の魔鉄って言ってたな」


「大変貴重なものだ。しかし、地層の中に入り込んだものはどうしようもないから、俺は諦めるつもりだったのだが、それがあそこにあるとしたら」

「噴き出す原油に混じって流れて来たのかな?」


「そんなとこだろう。イズナはそのことに気づいたのか、ただ直感でそう思っただけなのか。それは分からんが、いずれにしてもイズナはそれを取りに行ったのだと思う」

「それで、あんなに慌ててたのか」


「なくしたなんて言ったら、ウエモンにこっぴどく叱られるからな」

「ウエモンはそんなことで怒らないと思うけどなぁ」

「そうかも知れんが、イズナは気にするだろう。洪水騒動のときの失態もまだカバーしきれてないのに、またやっちまったって」


「そんな前のこと、気にすることないのに」

「まあ、それも俺の推測に過ぎないが。オウミとミノウはそのことで、いまだにイズナをいじってるようだし」

「あとでミノウには折檻しておくわ」

「せめて説教にしてやれよ」


「しかしユウ。俺にはまだ理解できないのだが」

「どうした?」

「なんでユウは、あそこに魔鉄のドリルがあると思ったんだ? どこにもそんな証拠はないだろ」


「もちろん証拠はないさ。状況を考えた上での推測だ。その最大の現象があの道だよ」

「道って、この砂の?」

「そう。ハルミの魔法がかかったところから、あるものに向かって一直線に伸びている感じがしないか?」


「そう言われればそんな風に見えるな」

「その行き着く先にあるなにかが、ハルミの治癒魔法をこんな事象改変魔法に変えてしまった、と俺は推測してるんだよ」


「それがあのドリルなの?」

「ドリルに引っ張られる魔法とはいったい?」

「触媒、じゃないかなと」


「「「触媒とはなんだ?」」」


「今度はハタ坊まで混じったのか。触媒ってのは自分は反応しないが、反応速度を上げる物質のことだ」

「「は、はぁ?」」


「分かったのはスクナだけか」

「触媒は学校で習ったことがあるから。でも、魔鉄とハルミさんの魔法とどんな関係に?」


「そこまでは分からん。イズナが戻ってきたらいろいろ実験をしてみよう。ハルミの識の魔力はほぼ無尽蔵だからな、何度でも繰り返し試験ができる。いずれ解明できるだろう」


「いや、たしかに識の魔法は自然界にあるものを使うから、ある意味無尽蔵だが、私の体力は」

「無尽蔵だろ?」

「む、無尽蔵言うな! 人よりはあるほうだが、なにより、その」

「なんだ?」

「アレをひたすら続けるのは、退屈じゃないか」 経験値はもらえるのか?


「やかましいわ! お前にしかできない魔法なんだから、そのぐらい協力しろよ。あと、経験値がなんとか言ったか?」

「いいい言ってない」

「ハルミさん、これはこの土地の人を救うための魔法になります。人のためになることだから、きっと多くの経験値がもらえますよ」

「そ、そうか。それなら頑張るぞ!」


 なにより経験値が欲しくて仕方のないハルミは、スクナに容易く騙さ……説得されやる気を起こしたのであった。


「いま、騙したって言わなかった?」

「私は言ってないわよ?」


「それにしてもイズナは遅いな。ドリルは大きくはないが、あの砂が発生した場所の近くにはあるはずだ。それを探すのにそんなに時間がかかるのだろうか。おーい、オウミ。まだイズナからの信号は来ないか?」

「なんかゴマかされた感が?」


「まだなノだ。でも、紐はこちょこちょこ動いているから、死んではいないと思うノだ」

「まだ動いているか。じゃあもうしばらく待つしかないか。中でなにやってんだろうなぁ」

「お茶会とかしてたりしてな」

「わははは。そんなアホなこと」

「いくらイズナでもそこまでは、あはははは」



 ところが、お茶会が行われていたのだ。


「この大きな石は邪魔だゾヨ。そりゃぁ、よっと、ほいっと、こらしゃっと。我の爪の前に立ち塞がるいまいましい石どもめ。こんなもので我の邪魔を……わぁぁぁぁぁお!?」


 イズナがそれまでで一番大きな砂粒――ほぼ石である――をどけた瞬間、足下がぽっかり空いて落下したのだった。


 とはいっても、落下したのはほんの数十センチメートルである。だがそこには先客がいた。


「あぁ、びっくりした。こんなとこに穴が空いているとは驚きゾ……」


「「お前、誰?」」


 ……


「「いや、誰っても言われても」」


 ……


「わ、分かった。こちらがあとから来た客の立場なので、先に名乗るゾヨ。我はイズナ。エチ国の魔王である。お主は?」

「エチ国? 魔王? ってなんなん?」


 (o_ _)oこけっ


「うむ、ここはルーシー国であったな。知らぬのも無理はないか。ワシはニホン国で一番エライ魔物の王であるゾヨ(ちょっと盛ったゾヨ)」

「ルーシー国ってなんなん? ニホンとは?」


 (o_ _)oこけっ


「話にならんゾヨ、お主はいったいなにものだゾヨ、まずは名を名乗れ」

「我は……我は……いったい誰なん?」


 (o_ _)oこけっ


「ま、ま、魔王を3回もコケさせるとはやりおるな。名前はないのか、名前は」

「我が輩はドラゴンなん。名前はまだない」

「文芸作品のようなことを言いおった!? だが、そうかドラゴン……ふぁぁぁぁ!?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る