第403話 我が名はふいんき
さっくさっくさっくっさくさく。
イズナは走る。もうこの砂の挙動にも慣れ、ユウのいる場所に向かって疾走するイズナを、遮るものなどなにもない。例え、
「ほわほわほわん。なんかすごいのん。早いしふわふわだし、すごい快適な乗り物なん。イズナ、やるのん」
ふわふわに乗ったドラゴンが後ろをついて来ようとも。
「ぎゃぁぁごごごぉぉ、ひき、引きずられるノだ、ずるずるずる、砂、砂で削られてあちこち痛いノだぁぁぁぁ」
「ま、待つのだイズナ。なんでお主は我らを引きずってごごごごごご。ぺっぺっ。砂が口に入って気持ち悪がががががヨ」
あまりの勢いに紐を振りほどくこともできず、砂の上を引きずられている魔王が2体あったとしても、である。
「ふぅふぅ。おおっ、ユウ。待たせたな。連れてきたゾヨ」
「いや、誰も連れて来いとは言ってないが。で、その大きめのトカゲはいったいなんだ?」
「この子はドラゴンゾヨ」
「「「「ふぁぁぁぁ!?」」」」
「名前は……えっと、まだなかったゾヨ」
「我はふいんきなん」
「「「「はぁ!?」」」」
「イズナに名付けてもらったのん。我が名はふいんき。ドラゴン族の長にしてポテチを頬張るもの。あと、お茶も欲しいンゴ」
「どこかの紅魔族みたいなことを言いやがった上に、おかしな語尾まで付けやがったぞ」
「ポテチが好きなのは分かったヨ」
「いや、ワシは名付けたつもりはなかったゾヨ。どうしてアレが名前になってしまったのか分からん」
(この物語では良くあることですンゴ)
「紅魔族なら、ふいんきって名前にも違和感がないヨ」
「いろいろとまずくないか、それ。それにこいつはいま自分がドラゴンって」
「今さらなノだ」
「それもそうだけど! まったく平気で他の作品のネタを使う作者だな」
(スミマセン)
「ところで、なんでお前らはそんな擦り傷だらけなんだ?」
そう言われて改めて自分たちの身体中に付いた擦り傷に気づき、スクナにお願いしてナオールを塗ってもらっている魔王たちである。
「自分で直せるだろうが?」
「「スクナの薬のほうが良く効くノだヨ」」
ということらしい。やれやれである。
「で、どうすんだ、これ。イズナが面倒を見るのか?」
「なあ、なあユウ。その子、ちょっと可愛いではないか」
「ハルミは黙ってろ。仮にもドラゴンだぞ。定春みたいにでっかくなったらシャレにならんだろ」
「ハタ皇子のペットじゃないヨ。ふいんきヨ」
「わ、わ、私なら少々大きくなっても問題ないぞ」
「周りが迷惑するんだよ!」
「そうそう、それよりユウに聞きたいことがあるゾヨ」
「なんだ?」
「こいつ……ふいんきのしっぽを見て欲しいゾヨ」
「どれどれ。本体ごと貸してみろ。ふむ、こうして持つと意外と硬くないんだな。硬く見えるだけか。ふむふむ、なでなで」
「あへあへあへあへあへ」
「やかましいわ! おかしな声を出すな。ふむふむ、頭はイズナより一回り小さいな。背中は硬いが特にトゲがあるわけじゃなし……おっと、背中の放熱板はずいぶんと硬いな。その上尖っているから触るとケガしそうだ」
「放熱板とか言うでないのん。それは身体の熱を逃がすためのものなん」
「それを放熱板って言うんだよ! お腹は柔らかいんだな。ぐにぐに」
「きゃはははははは、やめるん。それはやめるん。くすぐったきゃはははは」
「ここはくすぐったがるだけか。俺としては掴むときゅぅってなる場所を知りたいのだが」
「そんな都合の良い場所があるわけないノ……きゅぅぅ」
「ほら、そういうとこ」
「わ、分かったノだ」
「だからまずはしっぽを見て欲しいと言ってるゾヨ」
「あっ痛ったたたたたたっ。手が手が、手が切れた。どんだけ鋭利な放熱板してやがるんだ、こいつはもう、痛たたた、血が止まらん。スクナ!」
「はいはい。キリキズナオールね、ぬりぬり。この子の背中はまるで包丁みたいだから、触っちゃだめよ、ぬり」
「我は悪意を向けられると、勝手に身体が反応して刃が出てしまうのん。自業自得だと思って精進するのん」
「意味が分かんねぇよ! なにをどう精進しろってんだ」
「ユウ、こいつは生まれたばかりで、まだ言葉も世の中のことはもにも分かっておらんゾヨ。そこは大目に見てやってくれ」
「生まれたばかり?」
「生後30分ほどなん」
「短いな、おい!」
「生まれたてのほやほやゾヨ。だから、多少の失言には目をつぶるゾヨ」
「まあ。それなら仕方ないかな」
「お主は最下層のくせに偉そうなん」
「なんで分かったの?」
「なんかそんな気がしたのん」
「やかましいわ! 誰が最下層だ。やっぱりいまのうちに退治してやる」
「ユウさんには無理だってば。それよりイズナ。捜し物は見つかったの?」
「おお、それよそヨ」
「どれだどれ?」
「混ぜっ返すでなゾヨ。あの砂の中にはゼンシンにもらった魔ドリルがあったゾヨ」
「やっぱりそうだったか。お前はそれを取りに行ったんだな。で、回収してきたんだろうな」
「そ、それが、その」
「どうした?」
「そのドリルはこいつ……ふいんきのしっぽになっている気がするゾヨ」
「「「ふぁぁ!?」」」
「イズナ、人間とは良く驚く生き物なん」
「お前が脅かしてんだよ!」
「だからユウ。ワシが見て欲しいのはしっぽだとさっきから言ってるゾヨ」
「それは分かってる。分かってはいるが、なんかいろいろと珍しくてな。まるで危険なプラモに触ってるみたいで、わりと楽しい。じゃ、しっぽを触って……これも硬いな。ひっぱったら外れないかな、ぐにに」
「我の身でで遊ぶでない……あぁんあぁん」
「だから変な声を出すなっての! あれ、この感触はドリルに似ている!?」
「やはりユウもそう思うか。我もそう思ったゾヨ」
「ドリルを硬い殻で取り囲んでいる感じだ。イズナの言う通りだ。こいつはあのドリルを身体に取り込んじゃったのか。それともドリルを元にして生まれたのか」
「ドリルすんのかーい」
「久々に聞いたな、それ」
「いやん、あはん、ばかん、おかん」
「おかしなこと言い出したぞ。だが嫌がってるようには見えんからまあいいか。ぐぐぐっ」
「あぁん、わぁぁぁぁん、ひぃぃぃぃん」
「うるさいわ!」
「いや、怒られてものん。そこを触られるとついで声が出てしまうだけのん」
「面倒くさいやつだ。しかしこれは俺の力じゃ抜けない。ちょっとハルミ」
「なんだ?」
「これを持って力一杯引っ張ってみろ」
「こ、こらっ。引っ張るにしてもそっとするゾヨ、そぉっと!」
「いや、そぉっと引っ張ってもこれは抜けない。ハルミのバカ力でどうにかなるか、それを知りたい」
「力任せに抜いちゃだめだと思うヨ」
「すぷらったな世界が目に浮かぶノだ」
「あああっ!」
「おっと、ふいんき、どうしたゾヨ?」
「ママん!!」
「「「「ふぁぁぁぁぁ!?」」」」
そう言いながらハルミにいきなり抱きついたふいんきという名の小振りなドラゴンであった。
「ママんだと!?」
「わ、私が!?」
いきなり抱きつかれたハルミだが、その豊かな胸の前でそっとふいんきを抱きしめた。心なしか嬉しそうである。
「お前、浮気しやがったのか!?」
「し、失礼にも程があるぞ、ユウ! いくら許嫁でも言って良いことと悪いことがあるだろ。それに私はまだ処女だ!!」
「許嫁ならなおさら言ってはいけない言葉だと思うゾヨ」
「なんかえらく生々しい個人情報が漏洩したノだ」
「そ、そうか。じゃ、じゃあどうして、そいつがお前のことママって呼んだんだ?」
「私が知るわけないだろ!」
「ママじゃない。ママんって呼んだのん」
「お前は黙ってろ! それにハルミのちょっと嬉しそうなその顔はなんだ」
「あ、いや、それは、その、ちょっと母性が働いて」
「浮気してんじゃねぇか!!」
「落ち着くノだ、ユウ。魔物は人からは生まれないノだ」
「そうだヨ。30分前に生まれたこいつが、ハルミの子なわけ……ん? 30分前?」
「ミノウ、どうした?」
「ユウ、30分前になにがあったか覚えてるヨ?」
「俺は痴呆症じゃないぞ。30分前と言ったら、ちょうどハルミが皆に識の回復魔法を……かけた頃じゃ……まさか、あれかっ!!!?」
「それだと思うヨ」
「人とは良く驚く生き物なん」
「うるさいわっ!!?」
「良く怒鳴る生き物なん!?」
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