第354話 キャリアチェンジ

「おいおい、ミヨシまでかよ!?」

「どうすんだ。まだスクナもいるんだぞ?」

「その前に、エルフのユウコも……ユウコはどこに行った?」

「最近はイリヒメという神にも手を出しているようだし」

「俺の見たところ、ウエモンだって気になる存在のようだが」

「モナカは大丈夫か?」

「ハクサン家のナガタキ様もあぶないらしいぞ」


「ということは、だいたい次の通りということだな」


本命:スクナ

対抗:ユウコ

穴 :ウエモン

大穴:ハルミ

連下:ミヨシ

問題外:アチラ

注目:ナガタキ、イリヒメ


「こんなとこだろ?」

「社長、こんなときに不謹慎……もしハルミに貼ってていたらすごいことに?」

「ああ、確実に万馬券だな」

「私、そんなに低いんだ……」

「ミヨシも万馬いだだだだだだっ」



「俺は競走馬かよ! こんにゃろ、ばしっ!」

「痛いノだ。なんで報告した我を叩くノだ。理不尽には抗議するノだ。みーつーなノだ」

「Me tooはセクハラだ! それよりなんでシレッとアチラが混じってんだよ!」


「あとは混じっててもいいノか?」

「良くはない、良くはないが……。悪くもないか?」

「知らんノだ」


「だいたい俺がそんなモテモテ君なわけないだろうが。一度もナニしたこともないんだぞ」

「キスはしたノだぁぁぁぁぁぁ。羽根が羽根がちぎれるぅぅぅ」


「したことねぇよ! スクナにはされたんだ!」

「ミヨシにもされてたノだぁぁぁぁぁぁ」

「なんだそれ? 知らないぞ。どういうことか説明しろ」

「する、するから、羽根をネジネジするのは止めるノだ!!」


「……というわけなノだ」

「関ヶ原に行く前日か。そんな前から……。ってそれを入れてもたったふたりじぇねぇか。それがなんでモナカとやイリヒメまで入れて。あと、ウエモンなんか冗談じゃないぞ。それとユウコはどこ行ったんだっけ?」


「いろいろと酷いノだ? たったふたりって、前の世界ではひとりもいなかったくせにぐぇぇぇぇ」

「そういうことを言うのは、この羽根か、この羽根か」

「だからぐぇ、羽根はしゃべらないノだ! 止めるノだぁぁぁ」



「はっはっは、ユウ、ご機嫌よう!」

「よかねぇよ! ご機嫌なのはエースの方だろ。いつトヨタから戻ったんだ?」

「ついさっきだ。いろいろあって疲れたよ」


「ハルミ引き回しの刑は済んだのか」

「引き回してないし刑じゃないし。ただの婚約発表だ」


「挨拶回りに行ったんだろ? それは済んだのか」

「身内にだけは済ませた。残りの有象無象はまた後日の予定だ」


「貴族でもない市井のものと婚約するのに、反対する者はいなかったか?」

「いたことはいたが、まあ、それは想定の範囲内だな。俺だって貧農の生まれだぞ」

「え? そうだったのか? 大出世したんだな」


「トヨタ家はそういうことを気にしない。実力主義の家だ。それでも運が良かったんだよ。反対した連中には、ハルミさんの剣技のすごさを見せつけてやった。みんな目を剥いていた。あれは傑作だったぞ」


「鉄でも斬らせたのか」

「そうだ。22cmのやつをな」


 ……また1cm足しやがった。だから剣士ってやつはもう。こんなことをオヅヌに知られたらまた対抗されるじゃないか。危険なことをするなよ。ああ、来年が心配だ。


「そのニホン刀はお前がプレゼントしたやつだよな?」

「ああ、そうだ。それがなにか?」

「いや、それならいい。それ、今度折ったりしたらもう補填はしないと言っておけよ」


「ちゃんと言ってあるよ。俺も毎回買わされてはかなわん」

「しかし剣技を見ただけで、納得するものか? 親族というかトヨタ家の一族入りするわけだろ? 礼儀作法とか言葉使いとか、そういう上級国民みたいなこと、あのハルミにはできないだろ?」


「反対がなかったわけじゃないが、それは俺がニホン刀1本で黙らせた。問題はない」

「ニホン刀を、そういうことに使いたかったわけか。だから独占したかったんだな。しかしそれでは、いくら本数があっても足りんだろ」


「足りないことはないぞ。見せてやっただけで、誰にも1本も渡してなどおらん」

「あれ? だっていま、ニホン刀で買収したって?」


「そんなことしてたら、いくら俺でも家が傾く。買収じゃない、これが欲しければ俺の下に付け、とそう言って……ないけど言ったんだ」


「どんだけ腹黒だよ!」

「全部レクサスの策だけどな。ニホン刀は使い方次第で、立派な政治力になるんだ。だからもうしばらくは独占させてくれ」


「まあ、それはいいだろう。タケウチにとっては良いお客様だし。それよりハルミはどうしている?」

「いま、家族の元に行った。報告でもしている頃じゃないかな」


「そうか。まあお前らは気も合うし似たもの夫婦だ。良い子がじゃかすかとれるな」

「子供を金魚みたいに言うな! 強い子が生まれるだろう。そうすれば、シキ研の跡継ぎだ」


「誰を跡継ぎにするですって?」

「おお、ハルミさん。あちらでの話は終わりましたか」


「ええ。ソウともきっちり話を付けてきたわ。それより、私の子は剣士にしますからね。そこは勘違いしないで」

「いやいやいや。子供にはまずはきっちり教育を」

「まずは筋トレだ!」


 ぼかっ、ばっしぃぃぃん!!


「痛たたた。なんでハルミさんがぽかっ、で俺がばっしぃぃぃんなんだよ!」

「むかついた分だけ殴るときに力が入ったんだよ。俺の前でのろけるな。夫婦げんかなら別のとこでやれ」


「まだ、婚約しただけだよ」

「いずれは結婚するんだろ?」


「俺はそのつもりだが、ハルミさんは」

「違うのか?」

「ああ。結婚は私が正規・聖騎士になるまで待ってもらう、という条件を付けさせてもらった」


「そんな空手形をよくエースが承諾したな」

「なにが空手形だ。14才ですでに初級なのだぞ。ニホン1若い初級聖騎士だ。上級聖騎士になるのも時間の問題だ。そこまで行けば、アメノミナカヌシノミコト様に正規・聖騎士として認定してもらえるのだ」


「エロ騎士ならすでになっているのに」

「やかましい!! そんなものになるか!」


「ソウはどうなったんだ?」

「来月、ミヨちゃんと結婚するそうだ」

「早いな、おい!」


「私が足枷になっていたようだな。もっと早く言えばいいものを。でもこれですっきりした。これからは思う存分働くぞ! ユウ、ダンジョンに行かないか?」

「行かねぇよ! ダンジョンで稼げるのは経験値だけだろ。俺には必要がない」


(そうでもないノだけど、黙っているノだ)


「エースは、このハルミをどうするつもりだ?」

「どうするって?」

「許嫁なら、いつもお前の側に置くとか、シキ研で雇うとか、いろいろ対処があるだろ?」


「そうしたいのは山々なのだが、ハルミさんがどうしてもって」

「どうしても、なんだ?」


「私以外にユウの護衛が務まるものはいないだろ?」

「いや、いまでも勤まっているとは言い難いものぐぇぇ」

「ないよな?」

「い、いや、そうでもなごぉぉぉぉぐるじい」

「ないと言え!」


「ないですないです。ごれがらぼごえいおぬがえじま……くてっ」

「ああっ! しまった、やり過ぎた!! おい! ユウ!」


 ということで、ハルミさんはソウから俺・エースの許嫁へと、キャリアチェンジしたのであった。


「キャリアチェンジとは、ものは言いようなノだ」

「知性が感じられるでしょ?」

「エースからは策略した感じられないヨ」

「お褒めいただきありがとうございます」

「褒めたことになってるゾヨ?」



 ただしその実態は、結局ユウの護衛をするという、現状とほとんど変わってないというオチである。だからユウも機嫌を直してくれた……はずだったのだが、その前に落ちてしまった。きっと大丈夫だろう。


 ユウには、自分がどれだけモテているのかを体感してもらったのだ。


 少しは気づきやがれ。スクナさんといいミヨシさんハルミさんといい、お前にはどんだけ良い子が想いを寄せていると思っているのだ。俺がニホン刀で釣ったハルミさんだって、ダンジョンに誘ったのは俺じゃなくてユウだ。行動には本心が出る。現状では、俺はまだユウに負けているということだ。

 それをこいつは、だれもかれもをおっぱい揉むだけの女の子にしやがって。


「うらやましいのかヨ」

「ああ、うらやましいですよ! むしろ恨めしいですよ!!」

「エースの本音は珍しいノだ」


「この男、あまりに自覚ってものがないのですよ。女の子だけじゃないのです。タケウチ社長に、ゼンシン、アチラ、それにアイヅやサツマ、ヒダで出会った人たちはみな、ユウという人間の個性に取りつかれているのですよ。ほとんど信者と言ってもいいぐらいです」


「取り憑かれているノか」

「その憑くはやめましょうね。魔王さんたちもそうでしょ? ユウといるとなんか楽しいことが続々と沸いて出てくる。だから眷属でいるのでしょう?」


「そうなノだ。それだけは本当なノだ」

「長命な我らでさえも気づいていなかったものを、ユウは次々に見つけて、しかもそれをカイゼンするのだヨ。こんな男、いままでいなかったヨ。このふわふわも、ユウがいなければできなかったヨ」


「ニホン刀もダマク・ラカスもですね……あれ? それなんですか?」

「ふわふわなノだ。これは我が作ったノだ」

「まるで小説で読んだ筋斗雲のような?」


「オウミはたまたまできただけだヨ。ユウはこれを量産するつもりで開発しているヨ。その試作品がこれヨふわふわ」

「ワシも作ってもらったゾヨふわふわ」


「ええっ。それ、浮いているんですか?」

「「「そうなノだヨゾヨ」」」


「魔法で浮かせているんですよね?

「「「違うノだヨゾヨ」」」


「違う? あっ、そうか。まさか、それがあれですか。イリヒメが開発しているっていう、あのドローン的な?」

「そうなノだ。これはふわふわなノだ。我が乗ってもずっと浮かび続けるのだ。ラクチンなノだ。その上なんか気持ちが良いノだ」


「話には聞いてましたが、それだったんですか。もうそれができたと?」

「このサイズなら量産可能のようだヨ。エースも乗ってみるかヨ?」


「人も乗れるんですか?」

「さぁ? やってみるヨ、ほら、これを掴んで」

「はい」


「どうヨ?」

「綿の塊を持ってるみたい。私を持ち上げるのは無理のようですね」

「そうか。まあ、これは魔王専用の乗り物とするヨ」

「それがいいゾヨ。みんなが乗るようになると、価値が下がるゾヨ」


「ユウはそれを、馬車に使うつもりのようでしたよ」

「「「これを馬車に? なんのために? どうやって??」」」



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