第353話 いつも連れて行くのは
「ふにゃにゃふにゃにゃ。持ち方が乱暴なノだ。もっと優しく持つノだふにゃぁ、それは気持ち良くないノだノだ」
「じゃあ、我はスクナのとこに行ってにゃーーーーヨ」
「こそこそこそ、こっそりウエモンのわぁぁぁぁぁぁっ、つかまったゾヨゾヨ」
「ユウさん、荒れているね」
「そんなことない。ちょっとこいつらと遊んでいるだけだ。こねこねこね」
「ごらぁ。こねるでないのだ。身体がねじれるではないかヨぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ」
「これはもうイジメだゾヨ」
「そうだそうだ、ちょっと自分が振られたからって魔王を苛めるにゃにゃにゃにゃにゃノだ!」
「魔王のくせに生意気なことを言うのは、この羽根かこの足かこのシッポか」
「いや、羽根はものを言わないノだ」
「足も言わないヨ」
「ましてやシッポなどがほにゃにゃにゃにゃ、だからおシッポ様をねじるでないゾヨ!!」
「というより、魔王のくせにって一般人が言うのはどうなのよ?」
「処置なしだな、スクナ」
「ハタ坊。もう、ユウさんね。あの話を聞いて以来ずっとこうなの」
「ハルミとエースか」
「うん」
くっそ。エースのやつめ。トンビのくせに油揚げなんかさらいやがって。
「トンビはそれが普通なノだ?」
「なんだとぉっ」
「「「ぴゅーーー」」」
(触らぬ神に祟りなしなノだ。しばらくユウから離れているノだ)
(お主は眷属であろう? ついてなきゃいけないヨ)
(えっ)
(そうだそうだ。我らは主の元に返るゾヨ。じゃ)
(え? あへ? そんな。殺生ノだぁぁぁ)
その少し前のある日。タケウチ工房で執行部会議が開催された。ユウの不機嫌の原因はハルミにエースがプロポーズしたことであるが、それはタケウチ工房としても看過できない大問題なのである。
「公爵様がそんなことをおっしゃったのか!?」
「ええ、そうなの。だけど、ハルミ姉さんにはソウという許嫁がいるでしょ?」
「ソウ。そういうことだが、お前はどうしたい? いくら公爵様といっても、優先権はお前にある。お前の気持ち次第ではきっぱり断ることもできるぞ」
「俺は……その……」
「もう3年以上前のことになるか。ハルミとソウの婚約は、ワシが勝手に決めたことだ。息子が行方不明になって焦っておったのもあるが、早く跡取りを決めてしまいたかったのだ。だからお主らの意向も聞かずに決めたのだ。だから取り消すのに不都合はないぞ。ソウ、どうする?」
「ハルミはなんて言ってる?」
「ハルミのことはいい、ワシはお前の気持ちを聞いているんだ」
「姉さんも、プロポーズにははっきり応えていないわ。なにしろ許嫁がいるのだから、即答なんかできないでしょ。だから、まずはふたりの気持ちを確かめてからということで、保留にしてもらったの」
「そうか。そうだよな。……じつは、俺、好きな人がいるんだ」
「はぁ?! ハルミ以外にか?!」
「う、うん」
「社長、これは」
「それは誰だ?」
「アラシのミヨちゃん……」
「アラシって、ウヌマの飲み屋か?」
「うん」
「ミヨちゃんって給仕の子だな」
「うん」
「それでお前、飲み会に頻繁に行くようになったのか」
「うん」
「ハルミはそのこと知っているのか?」
「うすうす気づいてると思う」
「それじゃ、公爵様の申し出を断る理由は、ハルミにもソウにもないわけだ」
「……」
「そうか、そういうことなら話は早い。すぐにでもソウとハルミの婚約破棄を申請しよう」
この世界。婚約するのにも手続きが必要なようである。
「うん、そうしてくれ。ハルミさえ良ければ」
「悪いわけがなかろう。もうお相手が見つかってるのだ。しかも相手は大富豪だぞ」
「社長、大富豪と言ってももうトヨタ家との関係は」
「ミヨシ。ワシの見る限り、エースとトヨタとの関係は切れたわけじゃないようだぞ。あのベータのお守り役になっているぐらいだ。孫娘の嫁ぎ先として、これ以上の相手はおるまい。それに、あいつらは気が合うようだしな」
筋トレ仲間である。
「それはそうだけど」
「いずれにしても、ソウとハルミの婚約は取り消す。そこから先はまた別の話だ」
「うん、悪いけどそうしてくれ」
「まあ、男と女の仲だ。気が変わることもある。ワシが少し先走り過ぎたのだ。許せ」
「いや、社長は悪くないです。あのときは僕もハルミが好きだった。だけど、ちょっと方向が違うなと思い始めたのは、ユウがこっちに来てからなんだ」
「ミヨちゃんとはもっと前から知り合いだったのでしょう?」
「ミヨシは知ってるんだな。ミヨちゃんは隣町の出身だけど同い年だから良く話はした。だけど、女として見たことはなかったんだ、俺にはハルミがいたしな。しかし、ハルミはユウが来てからどうにも変わってしまった」
「変わったか?」
「変わったっけ?」
「みんなは、気がついていないの? ハルミは明らかにユウに惚れているでしょ?」
「「「はぁっ?!」」」
「うん、知ってた」
知ってたのはミヨシだけのようである。
「いや、それは、お前、そうなると、ますますややこしいことになるぞ」
「ハルミの心が俺に向いてないなと気づいたときに、ミヨちゃんに言われたんだ。じつは、子供のときからずっと俺を好きだったって」
「それは飲み会のときのどさくさでか」
「そう、どさくさ紛れにって違う!」
「それはいつごろの話だ?」
「あのニホン刀が売れて借金を完済したとき、飲み仲間とアラシに行ったんだ。途中でちょっと息抜きにアラシの裏庭に出たら、たたまたまミヨちゃんがそこにいたんだ。そのときミヨちゃんからそう言われた」
決してどさくさ紛れではないと、強弁するソウであった。
それって借金のあるうちは言わなかったってことよね。好きだったのは本当かも知れないけど、借金完済とニホン刀の売り上げてを見て……。ミヨちゃん、なんて計算高い女でしょう。でも、そのぐらいじゃないと、跡取り息子の女将さんにはなれないか。
「そんなことより、問題はハルミのことだ。ユウに惚れてるって、マジか?!」
「間違いないわよ。私もそう思ってた」
「だけど、あいつらは顔を合わせればケンカばかりしていたようだが?」
「例えば姉さんがクラスチェンジのとき、ユウに付き添いを頼んだのはどうしてでしょう」
「あれは、ユウがイズモ公だからじゃないのか?」
「転送するだけなら、私かゼンシン経由で、魔王様に頼めば済む話なのよ」
「うぅむ」
「アイヅでダンジョン攻略のとき、嫌がるユウをわざわざパーティに入れたのはどうしてでしょう?」
「それは見てないから知らないが、確かにダンジョンでユウが役に立つとは思えんな」
「グジョウでユウが骨折して入院したとき、姉さんはわざわざその病室の真下で遊んでいたのよ。スキーをしたかったはずなのに、それを我慢して近くで子供たちと遊んでいたの」
「いや、そこは看病しろよ」
「看病にはハチマンっていう専属の人がいたからでしょうね」
「ケガの治りかけたユウを誘ってソリ遊びなんかしたのも、その先で転んでケガをしたユウをおぶって何キロも雪の中を歩き、裸になってまでユウを助けたのも」
「いや、それがいまだに分からんのだが、なんで裸に?」
「ホシミヤに行ったユウを、魔王さんたちに有無も言わせず追いかけたのも、なりたくもないヌードモデルをやっているのも、なによりユウの護衛を率先してやってるのも……ハルミ……姉さんは……」
「なんだ? どうした、ミヨシ」
「ぐすっ。ハルミ姉さんは。ずっとずっと前から、ユウのこと好きだったのよわぁぁぁぁぁん」
「ミ、ミヨシ。なんでお前が泣くんだ?!」
「ぐすっ。それにユウだって、関ヶ原に行くとき護衛としてまっさきに姉さんを指名したわ」
「いや、それは護衛のできるのがハルミしかいないからだろ」
「イズモ国にも、サツマ国にも、アイヅ国にもヒダ国にもイセ国にも、ハルミ姉さんだけは連れて行くのよ。どこに行くにもハルミ姉さんなのよ、ユウは。私なんか、私なんか一度も誘ってくれないのにわぁぁぁぁぁぁん」
「おい、待て。ま、まさか。ミヨシもユウのことを?!」
「わぁぁぁぁぁぁぁん」
知らないうちにモテモテ君になっているというラノベ的定期。酒池肉林の展開となるか次回に注目だ!
「酒池肉林なノか?」
「言ってみただけだ、こねこねこね」
「わぁお、だから我の身体をこねるでないノだ。痛いノだくすぐったいノだかゆいノだ止めるノだぁぁぁ」
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