第350話 戦いのあと
「あの、オヅヌ様、も、もういいのでは」
「なにを言う。お主らはあの声援に応えておらんではないか」
「あ、でも、それはちょっと違うような」
ぴゅーぴゅー。おねーちゃんこっち向いてよ! ほらほら。手で隠さないで。両手を挙げて、こっち向いてよ、ぴゅーぴゅー。なんなら俺のも剥いてくれ。アホは黙ってろ!
ほとんどストリップ劇場のノリである。
「ほら、観客に手を振ってあげなさい」
「「うぅう」」
「いい加減にせんと怒るぞ!」
「「あっ、はいっ!!」」
オヅヌに一喝されて、あわてて自由な方の手を挙げて、声援に応えるふたりである。美しい一対のビーナスの誕生である。
ハルミは、90cmのバストに88cmのヒップ。そしてきゅっとくびれたウエスト。仏師・カネマルが惚れ込んだその肢体は、誰もが目を見張らずにはいれないほどの美しさである。まさしくラノベ界の峰不二子である。
それを余すことなく鑑賞できる今日の観客は、一生のうちの幸福ポイントをほとんど使ったことになるだろう。何度も見ている俺のポイントのことは気にするな。
そしてその横にたたずむのは、身長こそハルミと同じくらいであるが、比べればずっと見劣り……はしないウズメである。
いや、ボリュームという点では確かに見劣りするのだ。しかし、その美しさにおいては、少しも劣るところはない。小降りな胸は83cmであるが、その隆起が描く曲線は手のひらで覆えばちょっとだけあふれるという至福の分量なのである。
そしてほっそりした足の上に鎮座するピンと張った尻は、高い位置で周回軌道をキープする衛星のように振る舞い、歩くたびに揺れて男を魅了する。まだ幼さの残るハルミの尻と違って、まさしく大人の女のものであった。
「今日はなんか描写に気合いが張っているノだ?」
「た、たまには、な」
そんな美女ふたりのフルヌードを、観客は穴の開くほど見つめている。片手をオヅヌにとられ、もう片手は観客に向けて振ることを義務づけられている。なにもかもが丸出しのふたりは、全身を真っ赤に染めてそれでも健気に手を振り続けるのであった。夕焼け小焼けで日が暮れて、昔、弟が小焼けであったころ、分かるかな分かんねえだろうな。
「イェーイ!」
「やかましいわ」
(うぅぅう、もうお嫁にいけない)
(あんたは慣れてるからいいでしょ!)
(慣れるわけあるかぁ! あんたこそ前は自分から脱いだそうじゃないの!)
(あれは、ただ、そそのかされて、踊っているうちになんか自然に)
「ふたりども、どうした? せっかく皆が祝ってくれているのだ。最後にひとりずつ、挨拶をせよ」
「「だぁぁぁぁ」」
空気の読めないオヅヌ、お前は強い(小並感)。そして鬼畜だ。伊頭家の末裔……いや、ご先祖様? か。そういやあいつらも腕力だけは強かったっけ。
「では、ひとりずつだ。まず若いハルミからやれ」
「やれ、って言われても」
ぴゅーぴゅー。いいぞ、巨乳ちゃん! もっとこっち向いてよ。なんならさっきの技をもう1回見せてよぴゅーぴゅー。
(ほんとに斬ってやろうか、こいつら)
ハルミはそれを真剣に考えたが、ユウがそんなこと許可するはずはないと思い直した。えぇい、もうやけくそだ! 見たきゃ見やがれ!!
ハルミはオヅヌとウズメの前に仁王立ちすると、会場の中心で愛を叫んだ。
「それ世界の中心ヨ?」
「古いのからそこそこ新しいのまで、良く知ってるなお前は」
「か、会場のみなさん。ほうもあひはほう!!」
どっ! と受けた。さすがおちゃらけ度1080、噛み方も半端ない。
「くうっ。わた、私は、戦闘ではまだ1度も負けたことがない。だからこの引き分けには満足していない。ウズメ! 来年、またここで勝負だ。よもや逃げはすまいな!」
なんか格好いい話に持っていこうとしているようだ?
すかさずウズメも応えた。
「ええ、いいわよ。私はさんざん負けてるけど、あんたにだけは負けない自信があるわ。来年は身体中の毛も剃ってあげるから、ちゃんと手入れしておきなさいよ!」
それを言うなら覚悟しておけだろ。
「望む、ところ……ではないが。ええい、いいとも、負けなければいいのだ。来年は剣舞とかややこしいことじゃなくて、オヅヌ様とアマテラス様のように、正々堂々と勝負をしろ!」
「ええ、いいですわよ。その代わり、魔法はなしよ」
「私は魔法など使ってはおらん! あれは刀のスキル……」
こ、このバカチンが!! バラしてどうするよ! あれは魔法ってことにしてあるのだぞ。
「ああっ、もしかして、アレはソレやないんか!?」
でかい声を出したのはマイドである。やっぱり気づきやがった。勘の良いガキは嫌いだよ。
「マイドは800年ぐらい生きてるノだ?」
「ただのひとり言だ」
「うむ、そうしよう。来年もふたりはここで対戦する。俺たちと同じだ。しかし、魔法はなしだ。それでいいな?」
「「はいっ!」」
はいっ、じゃないっての。来年のことなんかどうでもいいが、このすぐあとに来る試練をどうやって乗り越えるのだ。
俺がそんな思考に沈んでいるうちに、ふたりの挨拶は終わった。あれ? ウズメはいいのか?
まあいい。これ以上恥をさらすな。ミヨシ、着るものを持って……走っていったね。さすが妹さん。
「ハルミ姉さん、はいこの布を身体に巻いて。そうそう、そうやって隠して控え室に戻りましょう」
「ミヨシ、済まない……私はもう……」
注目を集めている間は、あんなに堂々をしていたくせに、戻ってくるなりコレである。
「ああ、もうお嫁に行けない……」
「いや、お前の人気は沸騰しているようだぞ?」
いやぁ、良い子でしたな。良かった良かった、あの乳は良かった。乳だけではないノだ、尻も良いノだ。オウミ様もお好きですなぁへっへっへ。剣士として最高の身体だと言ったノだ? まあまあそういうことにしておきやしょう、はいご一献。いただくノだ、ぐびぐびぷはっー。うまいノだ。剣舞が見られなかった我は不満なのだヨ。まあまあ、ミノウ様もご一献。うむ。いただくヨ。ぐびぐびぐび。うん、これは良い酒だヨ。伊勢はヤマダボという酒造好適米(ヤマダボは酒米の王者と言われる山田錦の母親に相当する。まめち)がありまして、それで醸造した酒です、お気に召しまたようで幸いです、ささ、もっとずずっと。うむ、うまいノだ。我の好きな味なノだ。オウミはなにを飲んでもそういうではないかヨ。好きな味がたくさんあっても良いノだ。その通りですよ! どんどん呑んでください。
ハルミの裸を肴に、親睦を深める魔王とイセの住人。どんな絵だよ。そこへ。
「おい、ユウ」
「わぁお、びっくりした。なんだイセか。どうした?」
「今回のこと、ありがとう」
「は? あ、いや。それはまあ。そうだな」
「おかげで助かった。聞くところによると、オヅヌのやつは今晩にも俺の屋敷を襲うつもりだったらしい」
「なんと?!」
「しかし、アマテラスとなんとかうまいこといったので、取りやめたそうだ。俺ひとりではおそららくやつに勝てない。この国の力関係が変わるところであった。それを阻止してくれた、お主には感謝する」
「それは良かったな。その代わり、この国でラーメンを」
「ああ、あのイセラーだな。いいとも。店に必要な土地ならいくらでも提出する。どんどん作ってくれ。できればもうちょっと安くなると良いのだが」
「その件ですけどユウさん」
「スクナか。どうした?」
「今回初めて量産らしいことをしたので、ようやく正確な材料費が算出できました」
「お前、お祭りの最中に仕事をしてたのか?」
「イセラーはいただきましたし、伊勢神宮参拝もしましたよ? でね、材料費なんですが、1杯あたり全部で18円にしかならないことが分かりました」
「待て! 1桁間違えてないか? 俺の概算では100円を切るのは難しかったはずだが」
「それが運送費をこちらで持つことと、定期的に一定量を仕入れるということで叩きまくって……値段交渉したところ、意外と安くしてくれまして」
なにを叩きまくったのでしょうね?
「そ、そうなのか。その上にショバ代がいらないとなると、原価率は40%でもいいわけだ。ということは?」
「45円で売っても利益がでるということに」
「ふぁぁぁぁぁ!?」
「どうした? なんだ原価率って?」
「それはこっちの都合の話だ。イセ、イセラーは50円で販売が可能だぞ」
「おおっ、そうか!! それはありがたい。それなら旅人や村のものたちにもどうにか食べられる値段だ」
(ユウさん、もうちょっと高めの値段にしても良かったのでは?)
(俺はずっと売れ行きを見てたんだが、茶碗サイズのを食べる人が意外と多かったんだよ)
(それなら、そういうのも用意しますか?)
(いや、それだと手間だ。茶碗も複数種類用意する必要がある。それよりこの地域のニーズは主に立ち食いだ)
(立ち食いですか。駅にあるような?)
(そうそう、JR駅に……ってなんで知ってんだ?)
(あ、えっと、それも、なんかの本で読んだんですよ)
(カミカクシが持って来たのかな? ここの一番の客は伊勢神宮にお参りに来る旅人だ。その人たちは比較的金を持っている。しかし時間があまりない。だから立ち食いになるのだろう)
(ふむふむ。ということは、どういうことで?)
(1杯の量を半分程度にして、それを店先で渡してその場でささっと食べてもらう。それで50円だ。原価はおそらく)
(10円以下になりますね。原価率20%!? ユウさん、場所代も必要ないのにそれボロ儲けうごうごうご)
「ということだ、スクナ」
「うご……分かりました、所長!」
ということで、ラーメ……イセラー事業が立ち上がるときが来たようである。
「あの、私の刀は?」
「やかましいわ! お前はしばらく裸で反省してろ!」
「くぅぅぅ」
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