第314話 イズモ対イセ
「そもそもの発端は、スサノウとアマテラスの姉弟げんかなのだ」
「え? 姉弟なノか、そのふたり?」
「夫婦説もあるが、それはおいといて」
「おいとくのかヨ」
「アマテラスはヒュウガ国(宮崎県)、スサノウはイズモ国に住んでいた、としよう」
「しよう、ってやつがあるかいヨ」
「アマテラスはニホン史史上最強の魔力を持ち、光の皇女とも呼ばれていた。その輝きは太陽さえもしのぐと言われたほどだ。その力で奇跡を起こし、祭神として君臨していた」
「魔法ということは、アマテラスは魔物なノか?」
「いや、神だ。その時代にはまだ、修法と魔法の区別がなかったんだよ。それが明確になるのは仏教が入って来た以降だ」
「光の皇女か。どこかで聞いたようなヨ?」
「それは公女ではないか? アマテラスの話は有名だから多くの人が知っているだろうし」
「そうだったヨ。あれはモンゴールのもごっ」
「ミノウは黙るノだよ」
「スサノウにはそこまで強い魔力はなかった。しかしそれを補って余りある武器の製造集団を持っていた。そいつらがイズモの鉄を使って作ったのが、いまもって再現不可能な十束の剣だ」
「「「どどどどどどきっ」」」
「なんだ3人そろって?」
「き、き、気にするなヨ。それで?」
(お、おい。俺たちのアレ、イセは再現不能とか言っているゾヨ?)
(そそそそうだったノだ。あれは誰にも見せてはいけないものだったノだ)
(オウミはさっき、思い切り斬って見せてたじゃないかヨ)
(お主だって一緒になって斬っていたノだ)
(ミノウとオウミは、いつもあれでちゃんばらごっこやってるゾヨ?)
(ととと、ともかく、これからは黙っているノだ)
「しばらくは仲良く勢力拡大にいそしんでいたふたりだが、やがてぶつかるときが来る」
「狭いニホン、そんなに急いでどこへ行くヨ」
「それな。勢力拡大してゆけば、かならずどこかでぶつかるわな。しかし、そこは姉弟。話し合いによって、一度は統一王朝を作りましょう、ってなことになった」
「良かった良かった」
「ところが良くなかったのだ」
「なんでヨ?」
「スサノウの子が統一王朝の支配者になると、スサノウが豹変した」
「ヤマタノオロチをだまし討ちにしたノだ?」
「それはもっと前のことだ。良く知ってるな」
「本人に聞いたノだ」
「……そうか、お前の主はイズモの太守だったな。その縁で会ったのか」
「そうなノだ。キスキには酒をご馳走になったノだ。あれは良いものなノだ」
「分かった分かった。続けるぞ。王の父親というおいしい役をもらったスサノウは、どうやらたがが外れたようだ。畑の作物を勝手に食べたりして顰蹙(ひんしゅく)を買った。それも一口だけ囓って残りは捨てるという狼藉ぶり」
「けしからんやつなのだヨ! 我ならじんま疹の刑にするヨ」
「ずいぶんと軽い刑だなおい。しかし武力で勝るスサノウにアマテラスは強く出られなかった。虫をとってくれていたのでしょう、とか適当なことを言って自分も周りも誤魔化した」
「それは、あかんやつヨ」
「そうだ。ニホンの住人は多かれ少なかれアマテラスの血を引いている。他国の人間に対しても同じようなことして、失敗し続けているな。ごく最近でも」
「最近の話は危険だから止めておけ。続けるゾヨ」
「そこまでしても叱られないものだから、スサノウは増長した。百姓が精魂込めて作った田んぼを壊す、神殿ではうんこを漏らす、女の子のお尻は触る、胸は揉む、スカートはまくる、パンツは下ろすなどもうやり放題だ」
「最後のほうは女の子ばかりが被害者だゾヨ」
「そこはユウを見ているような気分だヨ」
「ユウだけはスサノウの血を引いてるノかな?」
「お前らも大概だな。仮にもご主人様だろ?」
「そうなノだ。困ったものなノだ」
「……こんなのを眷属にしたユウって人間が、気の毒に思えてきた。しかしそこまで来ると、アマテラスもかばいようがなくなった。それでいたたまれなくなったアマテラスは」
「スリッパに隠れたノだ?」
「今度は正真正銘の天岩戸だよ! お前がボケるな!」
「そうだと思った……ノだ」
「ボケじゃなくて素だったのか……。それは悪かった。その事件はウズメのストリップショーで幕を閉じたのだが」
「待て待て待て!? ワシの聞いていた話と違うぞ? ウズメは踊りを踊ったのであろう?」
「踊ったよ? 裸でな」
「ああ、そういうことかゾヨ」
「それは見たかったヨ」
「もう一度やるノだ。我も酒持って参加するノだ」
「やらねぇよ! 宴会にすんな。それにあれ、本人は脱ぐつもりじゃなかったんだ。なりゆきでそうなってしまっただけだ」
「それ、なんてカンナギハルミ?」
「誰だそれ? 俺も後から知ったのだが、ウズメのステータスには特殊項目としてエロエロ度ってのがあって」
「それ、なんてカンナギハルミ?」
「だから誰なんだよ、カンナギハルミって!? それが700越えというとんでもない数値でな」
「それ、なんてカンナギ……たった700なノか?」
「たったってなんだよ!」
「たった、とは連体詞か副詞かで論争が起こるほどややこしい修飾語のひとつである」
「誰がwikiを調べろと。エロエロ度700ってのは、常人の700倍という意味だぞ。分かってんのか?」
「「「ええええっ!!!??」」」
「そんなことも知らずに、たったとか言ってやがったのか。だからちょっとしたハプニングでエロをさらけ出しちゃうんだよ。そういう運命の持ち主だということだ。あのときはそれでアマテラスを捕まえられたから、感謝はしているけどな」
(おい、エロエロ度なんてとってつけたような項目を持つ人間が、ハルミの他にもいるなんて知ってたゾヨ?)
(知るわけがないノだ。エロエロ度自体がユウの冗談だと思っていたノだ。実在するステータス項目であったとは)
(しかもハルミは7,250って言ってたヨ?)
((ひぇぇぇぇ?! 一桁上なノかゾヨ!!))
「お前らは、どうしてそんなおおっぴらに陰でこそこそ地味な悲鳴を上げてるんだ?」
「ひ、ひ、悲鳴など上げてないノだ。ただ、ちょっと」
「なんでもない、なんでもないゾヨ。続きを話してくれ」
「??? まあ、いいが。それで出てきたアマテラスは騙されたことを知った。そして悔しさとか恥ずかしさとかウズメへの嫉妬心とか、いろんなものがごっちゃにまざって、つい」
「つい?」
「今度こそスリッパなノか?」
「違うっての。もういい加減スリッパから離れろ。自分を転送してしまったのだ。イセ国に」
「なんか、とってつけたようなヨ」
「ヒュウガが置いてけぼりくらっているゾヨ」
「とってつけた言うな。多少はしょるぐらいのこといいだろうが。ヒュウガは確かにそれ以降、歴史から姿を消したな。突然降ってわいたアマテラスに、イセ国の人々は驚いたが、その魔力と美しさにぞっこんとなった。天岩戸伝説もやがて伝わってきて、それがアマテラス人気に拍車をかけた」
「人気ものになって良かったのだヨ」
「ああ。しかし人気が出ると態度が悪くなる、というのはさすがスサノウの血筋というべきか。それからというもの、若い男の子のケツは触る、股間に指を突っ込む、シャンペンタワーは作らせる、やたら裸を見せびらかす、などなどの暴虐行為が目立つようになってな」
「シャンペンタワーとはいったい?」
「俺が魔王になってすぐ、アマテラスには行動を慎むように進言したのだが、まったく聞き入れることがなかった。すったもんだの末、ようやく追放したのが数年前のことだ。そして兄の国・イズモに身を寄せたようだな」
「いまココ、が抜けてるノだ」
「いや、それがきまりってわけじゃないから」
「それでクマノが怒ったのか?」
「おそらくはそうだろう。あそこはアマテラスの信奉者が多いのだ。特にヤタガラス族の外れ者・オヅヌはアマテラス信者でしかも強硬派だ」
「げげっ、ここであのオヅヌが出てくるのかヨ!?」
「そそそれなら我はちょっと遠慮したいノだ?」
「さて、ワシもそろそろ帰らないと小麦の作付けがゾヨ」
「お前らいきなり冷たくなったな!」
「そりゃ無理はないやん。オヅヌは徒党を組む男ではないが、慕うものはとても多い。修法の開祖で正義漢で、しかも当代一の修法力の持ち主やん」
「そうだ、仏教との戦争のとき、あの法力僧たちですらもひとりで追い払ったという伝説の持ち主だ。俺たち魔物にとってはほとんど天敵に近い」
「そうか、分かったヨ。我は帰るとするぐぅぅぅ」
「ミノウ、まだ帰るのは早いやん?」
「我はもうちょっと高いところで浮いてることにするノだ、ふわんふわぎゅっ」
「オウミとはもうちょっと距離を縮めたいものだな?」
「オヅヌ相手にして、ワシらになにができるというゾヨ?」
「だから最初に言ったであろうが。そのユウという人間に渡りを付けてくれと」
「「「それならするノだヨゾヨ!!」」」
自分で戦わなくていいと分かったとたんに態度豹変か。どんだけ軽いやつらだよ。
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