第302話 ネコウサ族が管理人

「じゃ、これはうちのものっと。えへへへへ」

「ぐぅっ」

「これもこれも、それもこれも。あ、それ勝手に触らないでよ、私んとこのものだからね」

「ぐぬぬぬぬ」


「タッキー。いいの? それで」

「え? スク姉、私はいいよ?」

「それをタッキーが魔力を込めて紅くするとして」


「うんうん。それだけなら私にもできるよね」

「それを誰に売るの?」


「……そいつ」

「買うかぁ!!」


「だって必要なのでしょ? これがないとその紅いガラス? とかができないんでしょ?」


「いるかどうか分からんと言っただろ。試験をやってみないことにはな。だが、もうやる気をなくした。別の方法を考える。別に急ぐことではないし、この水晶にこだわる理由もないんだ」


「試験をやんなさいよ!」

「お前の態度が気に入らないから止めた」


 もう、どっちも意地っ張りなんだから。


「へぇ。それでどうしてもできなくて、あとで泣きついてきても知らないわよ?」

「誰が泣きつくか。俺のいた世界では紅いガラスは普通にあったんだ。魔法を使わずにな。だからこちらでもできないはずはない。その方法を俺が見つけてやる」


「そうか、勝手に頑張ればいいわ。どうしても欲しかったら土下座しなさいよ。そしたらものすごい高値で売ってあげるからね」

「まあ、その頃にはハクサン家は破綻しているだろうがな」

「ちょ、ちょっと。どうしてそんなことになるのよ!」


「ハクサン家は太守の座から降ろすと言っただろ。同時に貴族の資格も剥奪される。そうなれば国から支給される金はなくなる。無収入になって赤字を抱えて身売りでもなんでもするがいい」


「そ、そんなこと!? ミ、ミノウ様?」

「それは魔王が口出しすることではないヨ。オオクニが決めることヨ。オオクニはユウのことならたいがい聞くだろう。そのぐらいの信頼を得ているヨ。まあ家の断絶なんてこと過去に例はいくらでもあるし、没落貴族も山といるヨ。また頑張って再興すれば良いヨ」

「そ、そんな!?」


「その水晶だが、ある程度の大きさがあるものなら1個1,000円ぐらいでカントが引き取ってくれるらしいぞ。もうかなり売り払ったあとだから、良いものはあまり残ってないかも知れないがな」


「ちょっと、ちょっと待ちなさいよ! そんなことして良いと思ってんの? ハクサン家は1,500年以上も続いてきた伝統ある旧家よ。それを潰そうっての?」

「この間は1,300年って言ってたぞ?」

「測定誤差よ!」

「どんな測定をしたどんな誤差だよ!!」



「ともかく長く続いた家が潰れるなんて、あっちゃいけないことよね?」

「潰れるかどうか。それは俺の知ったことではない。なるようにしかならないの世の常だ」

「世の常だ、じゃないわよ! そんなことして」


「世知辛い世の中は、いつまでも同じだな。俺はそういうのが嫌でここに逃れて来たのだが」

「お師匠様。我が工房に来ませんか? そちらでゆっくり仏像のお話を伺いたいです。僕の作品も見てください。僕たちはもういいでしょ、ユウさん」


「あ、ああ。そうだった。カネマル、付き合わせて済まなかった。ここはもういいから、ゼンシンをよろしく頼む。みっちり仕込んでやってくれ。ゼンシンはしばらくは、通常業務から外すようにじじぃに言っておこう」


「ありがとうございます。それではお師匠様。ご案内します」

「ちょっと待ってくれ、ゼンシン。ナガタキ」

「は、はい」


「その水晶だが、お前が魔力を注いで色を付けたら、もっと高く売れるのではないか?」


 ユウさん、あっちゃー気づかれたか!? って顔をしているけど。


「あ、そうか。色を付けるとすごくキレイだし、この色で定着するのなら」

「そうだ。それはほとんど宝石のレベルであろう。色落ち? しないのであれば高値で売れるのではないか?」


「わぁぁい。そうだそうだ。売れるね、これなら高く売れるよね。カネマルさんありがとう! さっそく私が魔力を込めて紅色を付けてしまいましょう。それを持って帰ってさっそく売りさばく……」


「ちょっと待つモん?」

「どうしたの、ネコウサ?」

「みんな勝手に売ったりもらったりしているけど、それ、もともとボクらのだモん」


「「「「「ああっ!!」」」」」


「だ、だけど、あんたは別に使い道がないでしょうが!」

「ないけど、勝手に持って行かれるのはおかしいかなって思うモん?」


「その通りだ!」

「なによ、ユウは大きな声を出して」


「いままではたいした価値がなかったから、見つけたものが勝手に持ち出していたが、それは本来このダンジョンに住む魔物たちのものだ。その管理者がネコウサなんだよ」


「そんなこと分かってるわよ。それがどうしたのよ」

「それなら、この生成物の正統な持ち主はこのネコウサだということになる」

「あんたは自分のものにならないからって、そうやって……そ、そんなことって、そんな?」


「ネコウサはスクナの眷属だ。だからその生成物は俺のものというごぉぉぉん」

「それは言い過ぎです!」

「スクナは力強過ぎだ!! 痛たたたた」


「ミノウ様? これはいったい?」

「うむ。我も失念しておったヨ。これはネコウサ。お前のものだヨ。ユウもナガタキも勝手にこれを持ち出すことは、今後は許さないヨ」

「やっぱりそうだった。良かったモん。ミノウ様ありがとう」


「「じゃあ、それを俺に私に売ってくれちょうだい!!」」


 ……


「「一緒にしゃべるんじゃないねぇよわよ!!」」


 ダブルで来たか。それで、ネコウサどうするの?


「どうって。ここをボクたちの住み処として認めて欲しいモん」

「もともと住み処だろ?」

「だけど、いままで何度も侵略されているモん。昨日だってたくさんの仲間を失ったモん。あんなこと、もう嫌だモん」


「それはこいつが悪いぃぃぃぃ」

「タッキー!」

「あ、ふぁい。すひはへん、ふくねぇ」


 ネコウサのその悲しみを、私は嫌というほど知っている。そうだ。ここは私の出番だ。ここをこの子たちの安寧の場所にするチャンスだ。もう冒険者にこの子たちが蹂躙されないように。


 ついでに、にっくきアレも処分してしまおう。


「それでは皆さん、私から提案です!!」


 なんだなんだ? どうしたスクナ。スクナがなんか格好いいぞ。さすが私のスク姉。やかましい、さすがは俺のスクナだ。だまらっしゃい、私のスク姉だと言っているだろう。俺の秘書だ、お前なんか後付けだろうが。ケンカはよすノだ、良く聞くノだ。なんか面白そうだヨ。ウエモンにもこの姿を見せてやりたいゾヨ。


 みんなが静かになるまで3分かかりました?


「このダンジョンはこのネコウサが管理していました。それをいまは妹が引き継いでいますが、正式にネコウサ一族をここの管理人として認めましょう」


 ふむふむ、それで?


「まず第1。このダンジョンには、ネコウサ族が承認したものしか入れないようにします」


 ということは、水晶を勝手に持って行こうとしたナガタキは、当然出禁だな。なによ、あんだってネコウサにはすごく嫌われているじゃないの、あんたも出禁よ。んなことあるかい! 私だってないわよ!!


「だからあのゲートは廃止します!」


 え? そそそそそんな。私は気に入ってたのに。やかましいわ。あんなもんがあるから話が面白くなったんだろうが! それ、良いことだよね? あれ、そうか。

 俺の作品なのに気に入らない人もいたのだな。気に入らないというか、気恥ずかしいというか。スクナは憎んでさえいたようだヨ? そこまでか?!


「こほん!! 文句のある人は、あとでぶっ飛ばします」


 し~ん。


「でも、このダンジョンを攻略しようという冒険者などがやってきた場合、それを排除するだけの力はネコウサにはありません。それで、ここの出入りに関してはイリヒメに委任しようと思います。ヤサカの里からならここにはすぐに来られます。それに力のある一族ですから、不逞なやからを追っ払うぐらいのことは簡単でしょう。その人たちに入り口の管理をしてもらうのです」


「スクナ、それはタダってわけにはいかないぞ?」

「はい、その通りです。だからネコウサ族には、商売というものを覚えていただきましょう」


「え? 商売をするモん? ボクたちが?」

「そうよ、するの。自分たちのためにね。大丈夫、私たちが全面バックアップするから」

「そ、そうか、自信はにないけどやってみるモん」


 ユウさんがにやにやしている。私の言わんとすること、分かっちゃったかな?


「それで、スクナ。どんな商売をさせるんだ? それは人件費をまかなえるものなんだろうな?」


「ええ、大丈夫ですよ。入り口には守衛さんを置きます。3交代制で常に2人はいるようにしてもらいましょう。人数は様子を見て増減しますが、その原資はふたつです」


「ふたつ?」


「ひとつは魔ネコをここで育てること。現状では、魔ネコがここで生まれてから1年ほど育てる間に、消えてしまうことがあるそうです。冒険者に退治されるのは守衛さんで防げるとしても、自然に消滅したりここから逃亡したりするケースもあります。そうならないように、魔ネコを管理する仕事をネコウサ族に請け負ってもらいましょう」


「なるほど。それは魔ネコの歩留まり向上になるな。人がずっとダンジョン内に常駐するのは無理だから、人は入り口の管理だけ。中はここのラスボス・ネコウサ族が請け負うと」

「はい、その通りです。そうすれば、その管理費と守衛の常駐費でチャラになると思います」


「守衛よりは、中の管理費のほうが高いだろうな。まあ、それは交渉次第だ。それでもうひとつとは?」


「その生成物の販売です。ここには魔物はたくさんいます。1匹1匹の魔力は少なくても、全員でやればいろいろな色の水晶ができることでしょう。魔物が増えれば、その生成物も増えると思います。それを売るのです。ユウさんなら買うでしょう?」


「もちろん、全部、俺が買わせてもらうよ」

「待ちなさいよ! 私だって買うわよ」

「どちらに、どれだけ、いくらで売るか。それはウサネコが決めなさい」


「え? ボクが? そんな、難しいこと言われても」

「ダメよ。自分で考えなさい。あんたがここにいる間はあんたがトップなのよ」


「そんなこと言われてモん。困ったモん。その、仏師さんはどう思うかモん?」

「あ? 俺か。俺だって世間のことには疎いからうまくは言えないぞ。えぇと、月にどれだけできるのか分からんが、まずはいくつか渡して、その価値を見極めてから売値を決めれば良いのではないか」


「そ、そうかモん。では、双方に10個ずつサンプルとして渡すモん。それを売るなり使うなりして欲しいモん。そのあとで値段を付けてもらって、高い値を付けたほうに売るモん」


 高く買ってくれるほうに売るのね。ネコウサ、やるじゃん。カネマルさんもナイスアドバイス!


「よし! 俺はそれでいい。では、紅くしたやつだけ10個くれ」

「私は紅色、黄色、青色、紫色、緑色をそれぞれふたつずつね」

「分かったモん。作るからしばらく待つモん」


「それでいいのか、カネマル?」

「いいとは、どういう意味だ? ユウ」

「このダンジョンを作ったのはタカミツというやつだろ? それに好素を発生させているのは、カネマルの作った仏像だ。お前らも権利を主張できるのだが」


「俺には魔ノミをこれからも提供してくれる、ということでどうだ?」

「あれはおそらく減ることはないと思うが、いいだろう。研ぎが必要ならゼンシンがやる。万が一切れなくなったら作り直す。それでいいな?」


「ああ、充分だ。それならタカミツの説得は俺にまかせてくれ」

「大丈夫か?」

「ああ、やつは修行僧だ。現世利益には興味はない。ただ、やつにはここに自由に入る資格を与えてやってくれ。あ、それは俺もか」


「ここでボクらを退治しないのなら、OKだモん」

「それでいい。よろしくな」


「うん。こちらこそよろしくモん。困ったときには相談に乗って欲しいモん」

「いいとも。このダンジョン自体の維持管理もいままで通りするからな」


「あぁ、そういうのもあったんだ。いいのか、それは無報酬で」

「いままでだって報酬をもらっているわけじゃない。それでかまわんよ」

「タカミツって人がなにか求めてきたら、そのときは相談させてくれ。俺が窓口になる」

「分かった。そう言っておこう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る