第298話 うろん部屋

「前話では、本筋からだいぶ離れてしまったわけだが」

「ハルミのエロシーンは定期的に出さないと、アクセスが稼げないノだ」

「うっぎゃぁぁぁぁぁ!!」


 野生の雄叫びね。まだ出てないから大丈夫。



 ここからはいつもの解説風に。ちょっとだけホシミヤについてのお話から。


 ホシミヤの地名は、もともとこの地に勢力を張ったホシミヤ氏の名前をとったものである。

 ホシミヤ氏が没落したあと、地元の有志によって神社が建てられた。それがいまに残るホシミヤ神社である。


 そのホシミヤ神社の下にダンジョンを建設したのは、比叡山の僧侶・タカミツであった。


 フジワラ氏の血を引くタカミツは仏教に帰依し、魔物退治のスキルを身につけていた。

 神仏戦争のときには、そのスキルで大いに神側(オオクニたち)を苦しめた。タカミツが仏法をかけた弓矢は、神さえも射殺すことができたからである。


「タカミツって物騒なやつだな」

「あの頃は戦争だったから仕方あるまい。いまはセキのほうにいる。普通の修行僧だぞ」


「セキってすぐそこじゃないか」

「そうだ。会いに行くなら紹介状を書いてやるが」

「いや、いらないいらない。それよりも、そのタカミツの作ったダンジョンを、カネマルはどうやって見つけたんだ?」


「見つけたわけではない。タカミツに依頼されたのだ」

「依頼?」

「入り口にキーアイテムが欲しいというのでな、あの道祖神を彫ってやったのだ。お前らも見ただろ?」


 あんただったんかい!! 怨み重なるあの像を彫った張本人がここにいやがるとは!!


「道理で、精密に彫ってあると思ったよ」

「タカミツはこちらに戻ってきたから知り合ったのだが、なかなか良い男でな、よく酒をおごってもらったものだ。ところでなんか急に寒くなったのだが?」


 ぷんぷんぷん。凍らせてやる!

 どこの司馬深雪ヨ。


「気にするな。タカミツはどうしてダンジョンなんか作ろうと思ったんだろう?」

「もともと、この場所には洞窟が点在していたのだ。タカミツはそこを修行の場とするために、点在していた洞窟をいくつか繋げてひとつのダンジョンにしたのだ」


「それはそれですごい力だな」

「仏法ならではの事象干渉力だ。この国の神々が太刀打ちできなかったのも頷けるであろう」


「そんなことぐらいなら、我でもできるヨ?」

「ああ、魔王なら可能だろうな」


「ミノウってそんなすごいやつなのか」

「当たり前だヨ。そもそもお主は我を軽く見過ぎているヨ」

「そうか、それはすまなかった。ほら、ポテチ食べていいから」

「それはもともと我が出したものだヨ。食べるけどポリポリ」


 軽く見ているわけではないと思う。可愛いがっているのよ。でも、ミノウの場合、修行のためって理由でダンジョン作ったりはしないわよね。


「タカミツはいったいなんの修行をしていたんだ?」

「入ったのなら知っているだろう。あそこは昔から弱い魔物がたくさん集まる場所なのだよ。奴はもともと魔物退治のエキスパートだ。その力を強めるために、仏法を使った新しい修法を開発していたのだ」


「仏法と修法の融合ってことか」

「そうだ。仏法はその成り立ちから、魔法より修法に近いからな」


「ボクらの天敵だモん」

「おや。その可愛らしい姿は、サルトラヘビではないか」

「いえ、この子はネコウサイタチです。私の眷属です」

「ネコウサイタチか。そういえばそういう名前もあったな。スクナと言ったな、お主は良いものを眷属にしたぞ」


「えっへんモん」

「え? 良いものですか?」


「まあ、それはそのうち分かるであろう。当時は、そのサルトラ……ネコウサイタチもたくさんいたのだ。魔物の約7割はネコウサイタチだった」


「ええっ!? そうだったモん?」

「念のために言っておくが、減ったのはタカミツとは無関係だぞ。さほど悪さをするわけではない魔物を、むやみやたらと退治するようなやつではない。頭を撫でたりして遊んでいたこともあった。しかしある日、大事件が起こったのだ」


「大事件とは?」

「地震だよ。ついこの間もあっただろう。あれはオンタケの噴火だったが、あれよりも数100倍は強い地震だった。しかも何度も何度も繰り返し揺れやがってな」

「それを思い出させるでないヨ。あれは我にもトラウマヨ」


「ミノウでも被害を防げなかったのか」

「噴火と違って地震はいきなり来るヨ。我の幸運力でもこの土地の持つ因縁にはかなわない。しかもあのときは、その前にひどい地震があって」


「ああ、そうだったな。その被害がようやく落ち着き始めた頃に、もっとすごい揺れがやってきた」

「普通は大きな地震があれば、その余震はそれよりは小さいものなのだヨ。それがあのときだけは」


「2回目が一番大きかったな。油断していたのはお前だけじゃない。この国の連中もみんなそう思っていた。俺もだ。その油断の上に、この国史上最大の地震が起こったんだ」


「そんなことがあったのか」

「このダンジョンも無事では済まなかった。床に亀裂が走ったあと、あちこちで底が抜けたんだ」


「底が抜けた、ってどこかに落ちたってことか?」

「おそらくはな。俺はたまたま外にいて現場を見ていない。おかげで助かったのだが、中にいた魔物たちは壁や岩にへばりついていたごく少数を除いて壊滅した」


「うぅぅぅぅモん」

「ウサネコ。こっちにいらっしゃい」 ぎゅっ。

「あの、僕の名前?」

「あああ、ゴメン! きゅぅぅぅぅっ」

「強く抱きしめて誤魔化きゅぅぅぅ、強すぎるモんモんモん!!」


「そうか、そこにはそいつのご先祖様もいただろうな。残念だが、落ちたものがどうなったのかは分からない。底の深さを測ることは、タカミツにもできなかったそうだ」


「いまはそんな形跡はなかったようだが?」

「床はのちにタカミツが少しずつ修復したのだ。もう二度とあんなことがないように、落ちなかった大岩同士に橋を渡すようにして、二重三重に法力をかけ床を張り直した。その上に、俺も虚空蔵菩薩を彫って念入りに修法をかけて奉納した。そのおかげか、それ以降も地震は何度もあったがいまのところびくともしていないな」


「なんで虚空蔵菩薩だったんだ?」

「虚空棒菩薩は、智恵と慈悲の仏だからな。あの空海を導いたことで有名だ」

「智恵でこの地が収まるとでも?」


「我らに足りないものは自然災害に対する智恵であり、足りない分は仏にすがるしかあるまい」

「仏の智恵と慈悲を、神社の地ですがるのか」

「そういうことだ。ここは神仏習合の聖地だけでなく、魔物も人も仲良く暮らせる土地だ。万物習合の地だよ」

「なるほどね」


「ここは自然にできたものじゃなかったのですね」

「自然を利用して作った、というべきだろうな。半人工的ダンジョンだ。人の世で言うところの里山に近いものだ」


「里山か。それなら魔物がたくさんいる、というのも分かるな」

「ユウさん、どういうこと?」


「人が農業や林業をやるために作った人工林のことを、里山と一般的に言う。そこは実に多種多様な生き物が暮らせる場所なんだよ。深山幽谷で生きられる生き物はごく少数だ。街中では人しか暮らせない。里山はその中間にあって、生き物のるつぼとも言うべき存在だ。生物多様性の象徴のような場所だ。なるほど、確かに万物習合だな」


「その通りだ。お主は話が分かるやつだな。タカミツの工事が終わってしばらくしてから、俺がここの存在を見つけたんだ」

「ここの存在?」


「お前らがいるこの場所だよ。どうしてできたのかは分からんが、ここは不思議な場所でな。時間の進みが緩やかで、ここに長くいると時間の感覚が狂ってくる。それに魔力も修法もかかりにくい。自由に使えるのは法力のみだ。俺はここをうろんなページと呼んで」


「待った待った待った。それはちょっとまずい。やめておけ!」

「どうしてだ? 別に良いであろう?」

「いやいやいや、いくらファンでもそれは止めたほうがいい。せめてうろんな部屋にするべきだ」

「そ、そうか。じゃ、そうするか」


 それ、とある人の有名サイト名だからね。知らない人はぐぐってね。

 そこまで言うのかヨ?


「法力だけが使えるってのは卑怯なノだ」

「いや、卑怯って言われても。だが、お前ほどになれば使えないことはないだろ。魔力消費は激しいだろうけどな」


 消費が激しい? だから魔王が水晶に魔力を注いだときに、魔力酔いを起こしたということかしら。でもそれならどうしてネコウサの力は強化されているのか、疑問だわ。ユウさんの魔法も……あれは規格外だから参考にはならないかな。


「考えるほどにここは不思議なところだ。もともと神社だったのだから神道系の土地だったのだろう。いわば神々のおわす土地だ。そこにかつては敵対していた法力僧がやってきてダンジョンを作った。そしたら魔物がたくさん住める場所になった」


「そうか。考えたことはなかったが、そういうことになるな」


「魔力も修法も使いにくい場所だから、強力な魔力を持つ魔物がいないのかも知れないな。ここではタランチュラも魔ネコも、戦闘力にたいした違いがないのではないか」

「なるほど。そうかもしれない」


「力の差が少なければ、物をいうのは数だということになる。個人技に頼る種は住みにくいだろう。ここで増えるのは群れで暮らす魔物がメインということになる」


「その通りだと思うが、お主はいつもそんなことを考えているのか?」

「あ、すまん。これが性分なもので。それで、ここにはあのキーアイテムを使わない限り来られないのか?」

「ああ、そのはずだ」


「そういえば私、不思議に思ってたのだけど」

「なにがだ?」

「ここにはどうしてネコウサの生成物がないのかしら?」


「なんだ生成物って?」

「それはボクのうんこだモん」

「あーあー、あれか。魔物たちがときどき体内に溜まった好素を排出している結晶か。あそこはこことは別のうろんなペー……部屋だ」


「ここの他にも、うろん部屋があるのか?」

「俺が見つけただけで7つはあるぞ。ネコウサイタチのトイレはそのうちのひとつだ。あそこはちょっと特殊でな、あのダンジョンと直接繋がっている」


「繋がっている? とは?」

「いや、そのままの意味だが。ダンジョンに入り口があるんだ。そのネコウサ? もそこから出入りしているのだろう?」

「そうだモん」


 ってこととはなに、私があんな苦労しなくてもあそこにはそれぞれで行けたってこと?


「なにを苦労したのかは知らんが、その通りだが?」


 わ、わ、わ、私の苦労って、私の立場って、私のアレのナニはいったいどんなソレだったのよ! ナニよ、なんなのよ! ネコウサ!


「ももももモん?」

「あんた知ってたんでしょ?」

「なななななにをだモん。スクナ怖い」

「あ、ごめん。ダンジョンからあの裏庭に直接行けるって」


「ボクらはいつも通ってるモん。だけど、スクナが通れるかどうかは知らないモん」

「あ……そうか。あのとき、ネコウサは直接行けるって言ったわね」

「言ったモん」


「そのとき、気づくべきだったわね、スク姉あははははは」

「タッキー。まさかあんた!?」

「さすがにそれは分からないよ、スク姉。だけど、知ってても黙ってたと思うけどきゃはははは」


「姉妹の縁を切るぞ!」

「あぁん、ごめんなさい、お姉様ぁぁぁ」


 つまり。あのダンジョンからネコウサの生成物のあるうろん部屋には、いちいち入り口まで戻らなくても簡単に行けたのだ。私たちは行けないと思い込んでいただけだったのだこんちくしおぉぉぉ!!!



 最近、スクナのしおが多いノだ?

 魔王を漬物にしてやりたい。

 八つ当たりは止すノだ!!

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