第278話 ひとりじゃない?
ネコウサイタチという魔物は、好素と岩石を体内に取り込んで混ぜ合わせることで、この水晶のようなものを生成する。
私たちはそれをいま、手に取っている。
これは生成物、これは生成物。生成物、生成物。これは汚くない、汚くない、ちっとも汚くない。
「出てくるのはお尻からだけどね」
「ナガタキ様はそれを言わないの!」
「お尻の穴だモん」
「あんたも黙ってなさい!!」
これは生成物、これは生成物。生成物、生成物。汚くない、汚くない、ちっとも全然汚くない。よし!
「なにがよし! だモん?」
「そんなこといいからウサネコ、ここにあるのって全部あんたちの……生成物?」
「○××□⊿■◎×▼○」
「いろいろ混じっている、らしいモん」
「そうか。そのおとんのほうが長く生きているから詳しいのね。それならウサネコ通訳して」
「分かったモん」
「他にどんな魔物がこれを生成しているの?」
「魔ネコの他には、魔サンショウウオ、魔スーパーマン、シラユキ、魔オオカミ、それに」
「まてーーーー!!!! 待て待て待て。おかしい、おかしい。なんかおかしい。おかしい名前がひとつ混じってた!!!」
「あら、スクナは知らないのね。ここは日本でも数少ない魔オオサンショウウオの自生地の近くで」
「違う、そっちじゃない。それも珍しいけど! そんなレベルの話じゃないでしょ!!」
「なにを慌ててるのよ。みんな亜人と魔物の……あい……だ……魔スーパーマン? ってなに?」
「気づくの遅いって。ホッカイ国の魔王様に使えている眷属にそういうのがひとりいるけど、そんなほいほいいていい魔人? じゃないでしょう」
「あら、スクナは、その魔スーパーマンさんと面識があるの?」
「会ったことはないけど、ユウさんから話だけは聞いたことがあるよ」
でも、その人は魔人って聞いてたけどなぁ。こんなとこで、うん……水晶を生成するような魔物とは思えないけど。
「いいなぁ。私にもそれ眷属にできないかしら。空を飛べそうな名前ね」
「時速91kmで飛べるらしいけど。ねえネコウサ、魔スーパーマンには会ったことがあるの?」
「よくここに来るモん」
「良く来るの?! ……ってネコウサの感覚だからなぁ。100年前もついこの間みたいに言うし」
「おととい来たモん」
近いなおい!
いずれにしても、そんなにたくさんの魔物がここで生成を……ん? ということはとても不自然ね。
「ネコウサ。このトイレっていつから使っているの?」
「それはもうずっと前からだモん。ボクの親の親の親の……えっと、おとん知ってる?」
「▼○×■◎」
「紀元前から、だって」
遠いなおい!
しかしかなり以前からなのは確かなようだ。やはり不自然だ。
そこに、すっきりしてふやふやになったユウさんたちが帰って来た。
「ただまー。いいお湯だったぞ。スクナも行ってこいよ」
「そういうことは最初に誘ってくださいよ。それより、ユウさん、はいこれ」
「ん、なんだ。まるで水晶のよう……わぁぁぁ、これウサネコのうんこじゃねぇかぁ。また触ってしまったぁぁぁぁ」
「わははは。せっかくキレイになったのに、さっそく汚しているノだわはははは」
「オウミ。もう一度温泉に行くぞ!」
「むちゃを言うでないノだ。温泉は1日に2回までが健康に一番いいノだ。出てすぐに入ってはいけないノだ」
「魔王が健康とか言うな! あれ? だけど、スクナはいま、これを手に持っていたな」
「持ってましたよ?」
「よし! 俺と一緒に温泉に入っていちゃいちゃしたたたたたっ」
「こんな感じでよろしいでしょうか、ハルミさん」
「もうちょっと手首は曲げても大丈夫だと思う」
「ごらぁぁぁ!! 俺の手首を裏側に曲げ痛たたたたたたっ、よせ! アシナ。いくら出番が少ないからってここで出てこなくてもあたたたたた、余計まげやがって痛いって痛痛痛」
「なんか気にいらないから、もっとちょっと曲げますね」
「曲げますね、じゃねぇよ。お前もどSキャラか。あん、だめ、それ以上曲げると本当に折れちゃう痛たたた」
「アシナ、その辺にしておけ」
「そうですか。もうちょっとだったのになぁ」
「折るつもりだったのかよ!! この女凶暴につき、俺に見せるなやかましいわ」
私はこの水晶について、ナガタキ様と話し合ったことを報告した。
「なるほど。それは理にかなった考察だな。さすが俺のスクナだ」
「あの、それを考えたのはほとんど私な」
「しかしスクナ、その話にはひとつ不審な点がある」
「いや、だから私がまとめたと言って」
「そうです、ユウさんも気づきましたか」
「ああ、紀元前がほんとかどうかは怪しいにしても、ずっと前からここがうんこ置き場だったと」
「生成物置き場」
「あ、はい。その生成した水晶置き場だったとすると」
「私の話も聞けよ! あ、屁がでちゃいそう。ここでやっちゃおかな」
「ナガタキ様、人前でそのようなことをしてはなりません」
「仕方ないじゃない。出物腫れ物ところ嫌わずよ」
「親衛隊に嫌われます!」
「……我慢する」
「そうおかしいのです」
「ああ、おかしいな。そこナガタキ主従は」
「そこは聞くのかよ!」
少なすぎるのである。
「もっとたくさん出すモん?」
「そういうことじゃねぇよ。有機物食ったお前はしばらくここを使うの禁止だからな」
「えぇぇぇぇ!! そんなひどいモん」
そんな前からずっと水晶を生成していたのなら、こんな数で済むはずがない。水晶はたくさんあるとはいっても、せいぜい数百だろう。
3日に1個生成するとして、ウサネコ1匹で年に100個以上はできるはずだ。それに両親妹がいて、さらに他の魔物も含めたら。
「ネコウサ、ここ以外にトレイはないのよね?
「ここだけだモん」
「ということは?」
「ああ、間違いない。誰かがガメている」
「カメはここにはいないモん」
「ややこしくなるからお前は黙ってろ」
「なんだと、このやろモん。がぶっ」
「痛たたたた。このやろ、今度は噛みつきやがったたたた。ス、スクナ、なんとかしてくれ!!」
「ウサネコ。ちょっといま大事なお話中だから、その続きはあとでしなさいね」
「わかったモん」
「あー痛かった。なんで俺は帰って来るなりこんな痛い目、っていま続きはあとでって言った?」
「言ってません」
「いや、確かにそう聞こえ」
「言ってません」
「イッコウ」
「言ったじゃねぇか!!」
「そんなことより、ここの水晶を誰がガメたかって話です」
「それはだいたい分かってるよ」
「「「えええっ!?」」」
「あれ? 驚くほどのこと?」
「だって、まだ謎解きにはちょっと早い」
「この話はミステリーじゃないっての。ディナーまで待つ必要はないだろ。スクナの話を聞く限りではそれほどの選択肢はなかったと思うが」
「え? そんな登場人物いましたっけ」
「登場しているとは限らんけどな。でも、少なくともここに来られる人だろ?」
「はい、それは間違いありません」
「そしてイッコウの謎の減少」
「はい?」
「ついでに言うと決算書のねつ造」
「はぁ?」
「犯人は同じじゃないかなと思う」
「だ、だ、誰ですか、それは」
「同じといってもひとりとは限らない、というよりおそらくひとりじゃない」
「「「はぁ?」」」
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