第264話 イッコウ発見
「ダンジョン攻略を、もうしちゃったの?」
「いや、しちゃったというか、なっちゃったというかゾヨ」
なにわけの分からないことを。
「スクナさん。ダンジョンでは、そこのラスボスを倒したときに攻略した、というのです」
「そ、それはそうでしょうね。だけど、誰がそのラスボスを倒したっていうの?」
皆の人さし指が、私を刺す。なんでよ!? まるで炎竜を退治したどこかの伊丹耀司みたいにもう。
「私、なにもしてないよ?」
「したでしょ、あの入り口で」
「なにもしてな……そりゃ、したけど!! ここに入るためになんか嫌なことさせられたけど!! あんなのだって、みんな同じことしたんでしょ?」
ばっさばっさと撫で回したことなんか、もう忘却の彼方である。覚えていてたまるか!
「どうやら、アレがキーアイテムだったようなのです?」
「キーアイテムって、転送の?」
「はい。そうです。アレを適切に愛撫……触り方をすることで、秘密の部屋――というか裏庭ですが――に転送される、という仕組みになっていたようです」
「なんかいまイヤラシい単語を言いかけなかった?」
「滅相もありません、です、ハイ」
「もしかすると愛撫し……触った人が、あの石像の好みじゃないとダメなのかもしれないけどきゃははははは」
あんたはぜったいわざと言ったでしょ!
「でも、それはただ転送したってだけで、攻略したことには……」
「スクナ。だから周りを見なさいって言ってるじゃないの」
周りを見ろ? そう言われて改めて私は視線を周辺に移す。ここはダンジョンにしてはずいぶん明るい。
振り返るとそこは最初に見た本殿……の裏側が見た。だから裏庭なのか。つまりは屋外なのだ。
私たちは、本殿を飛び越えてその裏庭に飛ばされてしまったのだ。そして私たちの周りに散らばる無数の白っぽい塊。そのうちのひとつに近づいてみた。あれ、これって。
「ぬこ?」
「イッコウです」
「ぬこよね?」
「イッコウです!」
なんで切れ気味なの?! 真っ白でキレイだけど、どう見てもこれはモナカが眷属にしているぬこ……魔ネコなんだけど?
「魔ネコでしょ?」
「イッコウですって!!」
「なんでそんなムキになるのよ。これどう見ても真っ白の魔ネコもがもがもが」
「スクナ、それ以上言っちゃダメ!」
「ど、どうしてよ、この子たちはどう見たってふがふが」
「情報漏洩不許可法度事項に抵触するのです」
「じょ……なんでここでそんなものが出てくふほ?」
ナガタキ様。もういいから、その手を離して!
「ま、まあ、それならそれでもいいわ。それで、どうしてこの子たちはこんなとこで丸まっているの?」
「それは、スクナがやったのよ?」
「はぁ?! 私が?」
「私たちは最初、この本堂の下にあるダンジョンに飛ばされたの。そこにはこのイッコウを初め、すごくたくさんのいろいろな魔物がわっさわっさといたの」
「それを追いかけて捕まえていたのです」
「イッコウ……はこのダンジョンに集まっていたのね。だけど、追いかけた……って、この子たち攻撃はしてこないの?」
「イッコウには自分から攻撃をしてくるような魔物ではありません。それほど危険はありません。怒らせると噛みつくぐらいはしますけどね」
「ぬこ、だもんね」
「イッコウです! ただ動きは俊敏であまりに数が多いので囲まれると」
「うん、萌え死にしそうだった」
萌えてる場合か。
「そうやってあたふたじたばたしていたら、アレが起こったのよ」
「アレ?」
「そう、スクナがやったんでしょ? 私たちは見てないから具体的なことは分からないけど、入り口のアレにいやらしくナニかしたんでしょ?」
「誤解を招く言い方は止めて!!」
「ははぁ。アレにナニしたか。そういえばナニをしていたような」
「ハタ坊も適当なこと言わない!」
「ナニしたに違いないゾヨ」
「イズナ、ぶっとばすよ?」
「ひょぇぇゾヨ」
「私がなんとか2匹を捕まえたときだったわ。不意にちんちんって音がしたと思ったら、次の瞬間にはもうここに飛ばされたの。その子たちと一緒に」
なんか嫌な音。
「そしてしばらくしたらスクナさん、あなたが現れたわけです」
「そ、そういうことだったの……」
「私たちも思わぬ展開に戸惑っていたのですよ。暗いダンジョンから唐突に外に出されたし、捕まえようとしていたイッコウはそこら中でのびてるし」
「でででも、この子たち生きてるの? 万が一死んでたりしたら」
「この国は大損害だね、あはははは」
あははじゃないでしょ。その損害は誰が補償するのよ。ナガタキ様ってそういうキャラだったの?! まるでウエモンみたいじゃないの。もう私の相方はいらないわよ。
「それは大丈夫だと思います。急に明るいところに出たものだから、ビックリしてひっくり返っているだけのようです。他の魔物は逃げちゃいましたが、イッコウだけはまだ伸びてますね」
「じゃあ、伸びているうちにさっくりと捕まえましょう。ハタ坊とイズナ。この子たちを拘束して」
「はいよ」「ほいゾヨ」
イズナとハタ坊は拘束呪文で1匹ずつ首輪を付けている。私たちも、壁に貼り付いていたツルをちぎって輪っかを作り、それをイッコウの首にかける。
目を覚ます前にやってしまわないと、面倒なことになる。急いだほうが良いだろう。そのとき、私は1匹だけ少し違うイッコウを見つけた。
「あれ? この子だけ形が違うような?」
「それに一回り大きいようだゾヨ?」
「あ、それです。それがおそらくラスボスです」
「これが? この子がラスボス? なんて可愛いラスボスだこと!」
「これを退治(行動不能)したから、ダンジョンを攻略したことになったゾヨ」
「ふぅん。こんな弱そうなラスボスっているのね。でも、なんて魔物だろう。顔は完全にぬこだけど」
「イッコウ!」
「はいはい、顔はイッコウだけど、胴体が短いね。後ろ足が長くて前足は短い。まるでウサギだ。そしてシッポはイズナみたいに太くて長いね」
「我のほうが上品だゾヨ」
「あんたの感覚のことは聞いてないの。でもこれ、なんだろ? ぬこ……イッコウとは違う。テンにもキツネにも似ているけど胴体はこんな短くないし、ウサギにしては耳は短いし」、
「スクナさん、それはあとで考えましょう。まずはこの子たちを拘束してからです。目を覚まして逃げられたらまた面倒なことに」
「あ、はい。そうでした。イズナ、この子の拘束をお願い」
「ほいゾヨ」
そうだ。まずは、拘束した分だけ先に送ろう。
「ハタ坊。とりあえず、拘束が終わった分だけ――10匹ぐらいかしら――先にグジョウに送ってくれない?」
「いいけど、一度にやったほうが良くないか?」
「一度に全部送ると、あっちが困ると思うのよ。檻やエサの準備とか、受け入れ態勢をとってもらう必要があるでしょ。だからまず10匹ほど渡して、事情を説明してあげて。そして順次送るからそちらの準備を整えてくれって伝えて」
「なるほど、スクナは気が利くな。分かった、そうする。ではとりあえず12匹か。これだけ持って行ってくる」
「お願い」
「ハタ坊が生き物を転送できる能力があって良かった。イズナ、この変わった子だけは最後にするから、あの木に繋いでおいて」
「ほいゾヨ。繋いでどうするゾヨ?」
「この子がラスボスなら、いろいろなことを知っているはずでしょ? しかも今回の事件の首謀者のような気もするの。だから事情を聞こうかなって思って」
「事情を聞く? ということは、まさかお主」
「うん。私にはまだ眷属を持っていないから、この子がなってくれたらいいなって。可愛いしもふもふだし」
「なるほど。眷属にすれば言葉も解するようになるゾヨ。そうすれば事情を聞けるか。いいアイデアゾヨ」
「でしょ。なってくれるといいけどな」
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