第263話 ダンジョン前にたたずむ石像 その正体とは!
本殿の前、砂利の中にたたずむソレは。
災いを蹴散らし豊穣を約束し子孫繁栄をもたらすという、有名なその、アレな、ナニである。
「もう少し詳しく描写して欲しいゾヨ」
「イズナ様のいじわる!!」
「じゃあ、私が。下膨れの堂々たる体躯で仁王立ち。ぎょろりとにらみつけるような厳しい目。太い両腕に寸胴の胴体。そして短くて太い足。なかなかに見事な石像よね」
「ふむふむ。ハタ坊はあえて肝心なアレを言わなかったゾヨ」
「そそそ、そんなものはあんたが言いなさいよ!」
「そうよそうよ。私たちだけにそんなこと言わせるなんて、どこの悪徳テレビディレクターよ!」
「お主らはアイドルでもなったつもりゾヨ?」
「なってない!!」
「あいどる? ってなに?」
「それはいいゾヨ。それよりアソコの精密な描写はよ。読者が待っているゾヨ」
「私は嫌よ!」
「あら、私だって嫌よ!」
「じゃあ、私が」
「「え?」」
どうぞどうぞ。って言えるかぁ!!!
「ナガタキ様、それはおやめ下さい。親衛隊に衝撃が走ります」
親衛隊を持ってるの、その子?!
「ま、そ、そんなことはどうでもいいじゃないの。先を、先を急ぎましょう。なるべく上は見ないようにして通れば良いわよね」
「あの、スクナさん」
「な、なんですか、シロトリさん」
「このダンジョンは、あのナニに触らないと入って行けないのですよ」
「「はぁ?!」」
「わぁい!」
ちょっと待て。あんなものに触るなんて私は嫌よ。ナガタキ様はなんでそんなに喜んでいるの。変態なの?
「ああ、そうか。それで分かった!」
「ハタ坊さん、なにが分かったの?」
「イリヒメがここに行きにくい、と言っていた理由よ。中に入るのにいちいちアレに触らないといけないのなら」
行きにくい。そうか。そうだったんだ。危険だから、という理由ではなかったのだ。
おかしいとは思っていたのだ。人の死なないはずのこの物語で、たとえダンジョンであろうとも危険な場所があるはずがない。
(それは過大評価なノだ)
(お前はグジョウで留守番しているはずだろ?)
(あ、すまんノだ)
私はイリヒメ様の言葉を思い出す。
「我らには行きづらいところがありまして」
そうだ。イリヒメ様は危険だなんてひと言も言ってない。行きづらいって言っただけだ。その理由がこれだったのだ。
イリヒメ様は女神だからなおさらなのだろう。だからって、あぁぁ、もう。私だって行きにくいわよ、こんなところ!!
「スクナ。描写はまだかゾヨ?」
「知らないわよ!! さっきハタ坊が言ったじゃないの!」
「だんだん、我への対応が雑になってきたゾヨ」
「なんかイズナに様をつけたくなくなってきた」
「そんなものなくていいから、肝心な部分の描写を早くゾヨゾヨゾヨゾヨヨヨッ」
「そういうことを言うのは、このシッポか、このシッポか。ねじねじねじ、ねじ切ってくれるぐいぐいぐい」
「ゾヨゾヨゾヨ、止せ、止すのだスクナ。シッポはしゃべらないゾヨ。ちぎれる、ちぎれる。我がしっぽは雑巾ではないゾヨ。絞っても果汁とか出ないのだ。我の大事なおシッポ様がねじ切れるゾヨゾヨゾヨヨヨ」
「なにがおシッポ様よ! もうこの、ねじねじねじ」
「ぎゃぁぁぁぁ、ぎゃぁぁぁヨヨヨ。降参、降参、降参するから、もう言わないから。許すゾヨ」
「よし、今日のところはこのぐらいにしといたる」
「はへほへほへ。スクナって以外と暴力女だったゾヨ、ほよほよほよ。ああ、おしっぽ様が歪んでしまった」
「怒らせると女は怖いのよ」ドヤッ
そこにあったのは(今さらだけど)、全長10mほどはあろうかという巨大な道祖神であった。上肢には蓑(みの)を纏っているが、それ以外はすっぽんぽんである。
そして道祖神の常として、その部分は極めてリアルに、精巧に、さきっちょの割れ目もヒダヒダも、たまたまのシワの1本1本までもが克明に刻まれていた。
ゼンシンでもできるかどうかというほどの、高度な技術で彫られた石像であった。まさに技術の粋を集めた超絶技巧である。
「そんなもんに、技術の粋を集めるんじゃないわよ!!」
「もっと近くに寄って見ましょうよ、それっ」
「ナガタキ様、あなたもレディの端くれなら……あぁぁそう言ってる先から走っていかない!! そんでもってソレに飛びつかない!! 手でぶら下がったりしない!! 折れたらどーすんの!! 陰茎折症って手術が必要なほどの重傷になるのよ!」
「スクナ? えらく詳しいな? どうしてゾヨ?」
「なななな、なんでもないわよ。はぁはぁぁぜぇぜぇ。私、ツッコみには向いてないかも知れない」
「いえいえ。見事なものでしたよ?」
「あんたも執事ならお嬢様を止めなさいよ!!」
と言う間もなく、ナガタキの姿が忽然と消えた。
「あぁ、先に行ってしまわれました。では、私も急いで追いかけます。スクナさんもついてきて下さい。あのさきっちょの部分をなでなですればいいのです。こんなふうに、なでなで」
すればいい、って簡単に言うけど、シロトリさ……消えた?
「なるほど、理屈は分からないけどアレをナニすると中に入れるわけね」
「理屈は知らないけど、作者の意図は分かっているわよ!!」
(さすがスクナなノだ)
(だから黙ってなさいっての)
「スクナ、ふたりはもう行ってしまったゾヨ」
「スクナ、一緒に触りましょう。そしたらすこしは恥ずかしさが紛れるよ」
「そ、そうね。それしかないのなら、仕方ないね」
一緒だと紛れる恥ずかしさなんてあるのかしら? しかし、ここを通るのにそれしかないのなら。ええいっ、もう!! 私は決断と実行のスクナよ! やってやるわよ! やればいいんでしょ!!
決死の思いで私はソレに近づき、なるべく見ないようにして触ってみた。不思議な感触だった。固いはずなのに微妙に柔らかく、冷たいはずなのに微妙に暖かい。そして湿っぽい。なんだコレ。
「コレは男性のナニよ」
「そういうことは言わなくていいの!」
「スクナ……」
「な、なによ」
「あなた、可愛いわ」
なにか別種の危険なものを感じた私は、わぁぁぁぁぁとばかりに、そのナニのアレをばっさばっさと撫でまくった。そしたらいきなり飛ばされたのだ。
ダンジョンの中に。わぁぁぁぁぁぁぁ、気が遠くなりそうだった。
そこには先に行った主従ふたりが待っていた。
「あぁ、びっくりした。おめでとうございます、スクナさん。とうとうやってしまいましたね」
「これで、スクナも大人の女の仲間入りよ」
私がなにをしたのよ。どうしてこれが大人になったことになるのよ。登竜門か。成人式か。大人の階段登る私はまだシンデレラさ、なんて歌っている場合か!
「スクナが壊れたゾヨ?」
「刺激が強すぎたかしら?」
「貴重なツッコみ役が?!」
「人を勝手に壊さないで! さ、さあ。ののののんのんびよりしてないで、いいいい行くわよ」
「「「どこへ?」」」
この大ボケさんたちは、ここになにしに来たのか分かってないのかしら。あの巨大なナニを触るために来たんじゃないわよ。
「決まってるでしょ! ダンジョンをこれから攻略……ってずいぶん明るいダンジョンね、ここ。まだ入り口だからかな」
「あ、あの、スクナさん」
「なんですか」
シロトリさんが言いにくそうに声をかけた。その物憂げな表情は止めてよ、まさかこの先に、またあんなのがあるんじゃないでしょうね。
「スクナ、しっかりして。回りを良く見渡して」
ハタ坊も言う。回りって?
「ダンジョンなのでしょ、ここ。私たちはここを攻略してイッコウを」
「すでにダンジョン攻略は終わっている件について」
はぁぁぁ?!
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