第230話 タランチェラ

「きぇぇぇぇやぁぁぁ!!」


 エロエロ剣士のニホン刀が炸裂する。


「エロエロ言うな!!!」


 じゃあ聖騎士? のニホン刀が炸裂すると、そのたびに魔物は何体がまとめて消えて行く。


「? も余計だ!」


 文句が多いな。


 グロいのが嫌いな作者は、血だの肉辺だのが飛び散る描写は描けないのである。だから退治した魔物は、煙となって消えて行くことになっている。


 うむ。これで良いのだ。


「やぁぁぁたっぁぁ!!」


 斬撃が炸裂するたびに、魔物が煙となって舞い上がる。そのたびに、こ~ん、という音がする。なんだこれ?


「ユウコにもあの音は聞こえてるのか? もにもに」

「うん、聞こえてるよ、あぁんあん」

「あれはいったいなんの音だ? もにもに」


「ああ、これは経験値を得たときの音です。でも、ハルミさんがほとんど持っていくので、僕らには……ユウさん、なにしてるんですか、こんなところで。不謹慎でしょ!!」


 パーティを組んでいるので、なにもしていない俺にも経験値らしきものが、付与されているようであるもにもに。

「ユウさん、タノモさんがめっちゃ睨んでいるのでこの辺にあぁん、あん」


「不謹慎ってなにが? もにもーに」

「そ、それですよ、その手!」

「ハルミの尻を必死で見つめているお前が言えた義理か?」

「なっ。そ、そん、そんなことありありありあり」


 どっちだよ。ないって言いたいのにウソがつけないタノモ純情剣士20才である。そこに前方からハルミが声をかける。


「タノモ。ここはクリアしたぞ。次はどっちだ?」

「あ、はい。次の左の道を選んでください、そうすれば」

「よし、左だな。分かった」


 そう言って、思い切り右に進んで行くハルミである。


「中ボスを避けられ……あぁぁ! そっちは右っ。そっちは違います!! そっちは中ボスが出る方向……」


 これで何回目だろう。このダンジョンの道を知っているタノモは、強い敵がいるところを避けようとナビをしている。しかし肝心なときに限ってハルミは、分かったと言いながら必ず反対の方に突っ走って行くのだ。


 先頭者がそっち行ってしまう以上、パーティメンバーである俺たちもそちらに行かざるを得ず、そのたびに大変な思いをしているのである。


「はぁはぁ。大変な思いをしているのは、僕だけですよね?」

「ぜぇぜぇぜぇ。ついてゆくだけの俺だって大変ぜぇぜぇぞぜぇなのだぞ」

「もう、ユウさん、体力なさすぎ。はい、回復薬のナオール」

「ぜぇぜぇ、すまん。ごくごく。はぁ、一息ついた」


 その合間にも闇にこだまするハルミのかけ声。そして頭の中で聞こえるこ~んという音。あ、またハルミが魔物を倒したな、ということが分かる。


 生存確認もできて一石二鳥の便利な音である。しかし、どれだけ経験値が溜まったのか分からないのだが。


「ユウさん。ぽてっと言ってみて」

「ぽてっ。おおわぁぁぁびっくりした!! なんだこれ。目の前に一覧が出ているぞ。俺のステータスなのか?」

「そう。自分のステータスを見る呪文よ。冒険者登録するとできるようになるのよ」


「そうなのか。よく見てみよう」


・総合評価は初心者。まあ当然だろうな。

・HPは24。少なっ!! 俺のHP少なっ。 こんなの簡単に死んじゃわない? 石につまずいて転んだだけで0になっちゃわない?

・SP(スキルポイント)は7880。……多くね? なんのスキルのことだろう?

・攻撃 4。やかましいわ!!

・防御 2。放っとけやぁぁ!

・素早さ 14。もういらん、こんなステータス。


 ハルミのように特殊項目はなくて良かった。からかうのは好きだが、からかわれるのは好きじゃないからな。


「なにを自分のステータスにツッコみを入れてるんですか」

「いや、いろいろとな。それにしても俺ってどんだけ偏った能力なのかと。そういえば、ユウコはどんなものだ?」


「え? 私の見たいの?」

「おう。教えろよ。俺には秘書の能力を把握しておく必要があるからな」

「えっち」

「なんでだよ!!」


「私のはこんな感じよ」 と言って教えてくれた。


・総合評価は超級 えっ!?

・HP 2700。ええっ!?

・SP 4240。おおっ!! すごいな。でもそれより多い俺って?

・攻撃 9820。 おいおいおい。このパーティではダントツじゃねぇか。

・防御 4240。攻撃力ほどじゃないが、それでもすごい。ハルミの30倍に近い。俺の……まあそれはいいや。

・素早さ 11。俺以下!? これじゃ咄嗟のときに役に立たない……そういえばずっとそんな感じだったっけ。


「ユウコって、実はすごい奴だったんだ」

「えへへ。それほどでも」

「ハルミみたいな特殊項目はないのか?」

「え? いや、それは、ない、かなー」


 誤魔化すのヘタなやつか。まあいいや。ユウコがダンジョンでも、結構使い物になるということだけは分かった。あれだけのHPや防御力があるんだから、時間稼ぎには充分であろう。


「私のこと、生け贄を見るような目で見ないで!」


「ん? ステータスがここまで上がっているということは、ユウコはすでに冒険者をずいぶんやっていたということか?」

「長く生きていると、冒険者になりすますことも必要だったからね」

「なりすます?」

「ホッカイ国では、冒険者なら税制優遇措置が受けられるのよ」


 ああ、そういうことか。あそこは軍事国家だったな。腕の立つ人材を育成するためだろう。


「税金なんか払っていたら、私たち餓死しちゃうもん。だからみんな年頃になると冒険者登録するのよ」


 あぁ、そんな悲しいことを言わないように。おっぱい揉んだろ、もにもに。


「え? あ。そ。ああん、あん。ユウさん、脈絡のないとこでしないでよ。私の準備が間に合わないよ」

「なんの準備だよ!」

「心の準備よ。私は素早さが低いんだから」

「いつもはもっと反応が早いのに」

「それは予測しているからね」


 おっぱいを揉まれる予測。別にそんな予測はいらんのだけど。


「だけどお前はそれだけの攻撃力を持っていてなんで後衛……回復担当だからか?」

「ううん。私は後衛だけど攻撃担当よ。回復薬はそれぞれが持つことになってたし」


「え? お前が。攻撃担当? その胸で? むにっ」

「いや、攻撃に胸は関係ないでしょ、あぁん。胸はハルミさんにかなわないわよ」


 あ、そうか。


「まさか、攻撃魔法使えるのか?」

「そりゃもちろん。あの程度の魔物ならまとめて1万匹くらいならなんとかできそう」

「おいっ! それならダンジョン攻略なんか簡単じゃないか!?」

「うん、このレベルなら簡単ね。だからハルミさんにまかせているのよ」


 ……簡単だから、まかせるのか? できる自信があるなら、自分からやりたがるものじゃないのか。いまのハルミのように。


「だぁぁぁぁとぉりゃぁぁぁ」


 ……ハルミはハルミでちょっと違うか。あいつは自信がどうこうより、ああいうのが根っから好きなんだ。経験値云々でさえも言い訳に聞こえるぐらいに。


 ユウコは基本平和主義者なのだ。自分を前に押し出すことなど考えず、ただひたすら……なにを願うのだろう?


「ハ、ハルミさん。その角を曲がった先に中ボスがいます。しかし奴には剣技は効きませんので、僕が魔法でだぁぁぁぁぁ、だから効かないってばぁああぁぁ、突っ込んで行っちゃった、もういや、こんな先頭打者!!」


 タノモにさえも嫌がられる暴走列車ハルミ号。どちらにしても、俺は後ろから見ているだけだ。がんばれーとエールぐらいは送っておこう。


 角を曲がったかに見えたハルミは、いきなりUターンして戻ってきた。そして追いかけていたタノモとごっちんこ。


 ああ、これはフラグが立ったな。ジャムトーストの成分が足りないが、その分一緒に裸になった仲だし。


「僕はパンツを穿いてまし……」

「はらほれひれはれっーー」


 あらあらあら。ふたりとも落ちた。こんなところで仲良くおねんね、楽しいなー。おでこに落書きしてやろう。ハルミにはエロエロ剣士っと。タノモ……はどうでもいいや。放っておこう。


 さて、ユウコ。こいつらが起きるまでちょっと休憩だ。


「ユ、ユ、ユウさん」

「なんだ、顔が青ざめてるぞ? 休憩するからナオールをくれ。疲れたんだ」

「そ、そ、それどころじゃありません。ほ、ほ、ほら、そこ!」


 ん? そこってど……どわぁぁぁぁぁぁ。なんだありゃぁぁぁ。


「さささっきタノモさんが言っていた中ボスですよ!! あれ、肉食系ですよ! 食べられちゃいますよ!!」


 なんかタランチュラ的な奴がこっちを睨んでいる。燃えるような真っ赤な目が不気味だ。


「よし!」

「ユウさん?!」

「ユウコ、俺を担いで逃げろ!」

「そのふたりが食べられちゃいますよ!!」


「あんな固いものが食べられるわけないだろ!!」

「あの蜘蛛は、なんでも溶かす溶解液を獲物に注入して、柔らかくしてからちゅうちゅう体液を吸うんですよ!!!」


「よし!」

「今度はなんです?」

「ユウコ、俺を担いで逃げろ!」

「結論がひとつも変わってませんよ! あのふたりどーすんですか!?」


 タノモの道案内で、本来なら避けて通るはずだった中ボス・タランチュラ。それを退治しに行ったはずのハルミが、苦手な虫(ちなみに蜘蛛は節足動物であり昆虫ではない)だったために、大慌てで逃げてきた。そして追いかけていたタノモとごっちんこして、共倒れとなった。


 2トップを失った俺たちパーティは、全滅の危機に瀕しているのである。


「そうだそうだ。そうだ、ユウコを忘れていた」

「なななん、なんですか」

「お前が攻撃すればいいじゃないか。あんなものお前の攻撃魔法で」


「通用するはずないでしょ!?」

「だってお前さっきは1万匹がどうって」

「私のは範囲魔法だから、広い範囲に攻撃ができるのよ。だから雑魚なら一気に殲滅できるの」


「だからそれをやれと」

「だけどレベル50を越えたボスクラスになると、まるで刃が立たないのよ。彼らにとってはアリに咬まれた程度よ」


 起きていても役立に立たないふたりがここにいる。目の前には気を失って倒れている役立たずがふたりいる。その先には、お腹を空かせているような気がする体長3mほどのタランチュラ。


 うん、終わったな。230話続いてきたこの話も。




 こらこら。勝手に終わらせないの。

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