第228話 ダンジョンに入る その前に

「ところでオウミ、ハルミが言ってた冒険者登録ってなんだ?」

「パーティを組むには、冒険者に登録しておく必要があるノだ」

「なんでそんな勝手なことをするんだよ!」

「やったのはハルミなノだ。だけど別に損することはないから良いノだ」


「得することもないんだろ?!」

「パーティを組めば経験値が入るノだ」

「ほう。ってことは俺もレベルが上がるのか?」

「上がるノだ。魔物を倒すと、パーティの中で一番活躍したものが半分、その後は貢献度に応じて経験値がもらえるノだ」


「……なにもしなかったら?」

「ほとんど入らないノだ」

「ユウのバカ」

「なんのメリットもないじゃねぇか!!!」

「そそそ、そこはお主が頑張るノだ」


「頑張れるはずないだろ。損しないのならまあ良いけど。ってことは俺は勇者・ユウってことになるのか?」

「階段下掃除のユウなノだ」


「なんだかえらく限定的な職種だな、おい」

「ユウのバカ」

「階段で魔物を倒したら後片付けをするという大切な最下層の職種なノだ」

「大切な最下層かよ! そうだろうとは思ったけどもんちくしお」


「わははは。イズモ国の太守が最下層なノだうほほほほ」

「笑うんじゃねぇよ。しかし、それじゃホウキを持ってダンジョンに行くのか俺。それって冒険者の出で立ちとしてどうなのよ」

「うむ。ユウらしくて良いではないノか」


「俺らしくねぇよ! だけどホウキって重くない? 俺、1Kg以上のものは持てないぞ?」

「ただの職種なのでそれはかまわ……え? たった1Kg?!」

「ユウのバカ」

「そういえばタノモもいたんだったな。ホウキで重量挙げができるのは俺ぐらいなものだ」

「それで威張られても」



「ということで、俺たちは街外れのダンジョンにやってきたのだ」

「ユウのバカ」

「えーと、これからダンジョン攻略に行きます。前衛はハルミさんと私が2トップで務めます。真ん中にユウさんとオウミ様。最後尾はユウコさんでお願いします」


「え? 私最後尾なの? 大丈夫かしら」

「大丈夫だろ。後ろから襲われたときに、切り捨てやすいやつを配備したってことだから」

「ユウのバカ」

「そっか。それなら安心……じゃないわよね、それ?!」


「後ろから襲われることがないように、私がしっかり監視しながら進みますから大丈夫ですよ」

「ユウのバカ」

「ほんとに、お願いしますよタノモさん。私って置いてけぼりキャラなもので、いつもなんか酷い目に遭うんですよ」


 ユウコは自分のキャラを自覚しておる。さすが俺の秘書だ。秘書として役にたったことは一度もないけど。


「ユウのバカ」

「えぇいもう何度何度も同じことを!! いちいちそれを間に挟むな!」

「ユウのバカ」

「そのバカをわざわざパーティに入れたのは、誰だよ! このアンポンタンぼかっ」


「痛いな!! 必要だと思ったから入れたんだ、悪いか! このアホたれユウのバカめぼかすかぼかぼか」

「な、なんだと、この。やんのかやんのかごらぁばしばしばしびし」

「いや、それは我らの専売とっきょきょきゃきょきょ……」

「どうして私が間に入るのよぉぉ、痛い痛い痛いってば」

「いつもいつも私に恥をかかせおってこのすかポンばんたんぱん」

「うっせーよ。迷惑被ってんのはいつもこっちだぼかすかぼけすか」


「待て待て! 待てというに。そんなことをしている場合ではないノきゅぅぅ」

「一番迷惑しているのはこっちだわっぼかぼけカスチビやせぼかぼか」

「私の髪型がもうぐちゃぐちゃやめてぇぇぇ」

「誰がチビでやせだ、その通りだこのぼけかすいろボケ」

「だだだ誰がいろボケだ、このばごべけぼこぽん」


「もう、お主ら静かにするノだ!! えぇぇいっ!!!」


 どーん、と豪快な音がした。


「「「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」」


「で、で、電流が走したはしたしびれたびりびり」

「で、で、でんでらりゅうが走しったはしたはした」

「なんで私までしびれびりびりびり」


「な、なんだったのだ、いまのは?」

「あぁびっくりした。なんか電気が身体中を嘗めていったぞ!?」

「私、一方的に被害者なんですけど!」


「ちょっと雷を落としてやったノだ。夫婦げんかもほどほどにするノだ」

「「誰が夫婦だぁ!!!」」

「じゃあ、お主らは子供か!」


 いつも魔王同士でやってることをマネしただけなのに、お前にだけは言われたくねぇよ。しかし、オウミがリアル雷を落とせるとは驚いた。

 それにしても、くっそハルミのやつ。最近はどんどん巨乳になり……それは前からか。生意気になりやがって。


「で、いきなり12階層に降りてきたわけですが」

「タノモ、早いなおい!」

「いや、ダンジョンに着くなり夫婦げんかをおっぱじめたあんたらが悪いでしょうが」

「「誰が夫婦げんかだ!」」


 ダンジョン攻略パーティは前述の通り、俺とオウミにユウコ……はなんで連れてきたんだろ? それにハルミとタノモの全裸コンビである


「コンビにしないで下さい! 僕はパンツを穿いてました」

「うぁわぁぁぁごご、うがちゃか・うがうが」


 ひとりスウェーデン人が混じってるぞ。


「まったくもう。なんで机上の天才である俺がこんなところに来にゃならんのだ」

「それはおそらく、その手に持っている高貴な方が原因じゃないかなって」


 そう言ったのはユウコである。俺に手には1本の細い枝がある。ホウキの代わりに持っているのだ。そこには糸が付いており、その先には提灯が灯されている。


「我は提灯代わりになるのだけが能力ではないノだが」


 オウミである。


「そうか、そのために俺が必要だったのか……ってなるかぁぁ!」

「ダンジョン攻略に灯は必須ではないか」

「自分で持てよ、自分で!」

「それより、我を懐中電灯扱いするのは間違っていると思うノだ」


「おっと、気をつけて下さい。そろそろ魔物の気配がしますよ」

「むっ。どこだ。まだ私には見えないが」


「でんでんむしむし、肩にいる。ハルミの」

「ぎゃぁぁぁぁっ ごんっ!!」


「は、ハルミさん!? あぁ、岩に頭を!? だだ大丈夫ですか。こんな暗闇で闇雲に走っちゃダメですよ」


「コガネムシは首筋に。ハルミの」

「ぎゃぁぁぁぁ、ごんごんごん!!」


「だからハルミさん、落ち着いて。なにもいませんってば」

「ユウ!! この野郎!! 私を騙して楽しいか!?」

「わくわくしてやった。あと2回くらいできそうな気がしている」

「するんじゃない!? あぁ、まだ戦ってもいないのに、こぶが3つもできたたたたた」

「岩さんもそうとう削れてしまったようだが」

「生身の私を心配しろ!」


「ハルミさんは、虫が怖いのですか?」

「い、いや。そんな、こと、私は剣士だ。しかもクラスチェンジして聖騎士(ホーリーナイト)になったのだ。そんなもの怖いわけが」

「エロエロ剣士だけどな」

「うっうるさいわっ!! その名は捨てた! もう二度と言うでないぞ!」」


 お前のステータスに刻み込まれているけどな。


「レ、レ、レベルが上がれば、新しい魔法も使えるようになります。頑張りましょう」

「あ、ああ、頑張るさ。イズモ国では識の魔法というものを伝授される約束になっているしな」

「え? なんですって?」


「識の魔法というものを伝授される予定なのだが、なにか?」

「識の魔法って、それ、物質の改変ができる超級魔法ですよ!? それを受けられるのですか!? 本当のことですか?!!?!?!」


「?!がやけに多いぞ。超級魔法なんて、そんなたいしたものだったのか?」

「たいしたって、魔王様だって使える人はほとんどいません。アメノミナカヌシノミコト様を除けばニホンに5人といるかどうか」


「「「えええっ!?」」」

「ふーん」


「なんでユウだけがそんな冷淡なのだ!」

「いや、それがどうしたのかなって。使い道が分からんから驚きようがないだろ」

「超級魔法ですよ?」


「それ、オウミが良く言うのだが、そんなにたいしたものかどうか」

「たいしたものに決まっておるノだ」

「提灯が威張っても説得力がないというか」


「え? その提灯……眷属さんは超級魔法が使えるのですか?! それはそれですごいことです」

「あ、こいつ。ニオノウミの魔王だからな」

「はぁぁぁぁぁ!?!?!?!」


 うむ、情報共有の重要性を思い知った回であった。


「まままままま魔王様? をこんな、こんなことに使って、ユウさん。あなたは良く無事でいられますね?!」

「無事もなにも、俺の眷属だ。それに魔王なんか使ってなんぼだろ?」

「もうちょっと別の役割があると思うノだけど」


「それで、識の魔法ってなにができるんだ? 精霊を使ってなんか大がかりなことができると思っていたが、物質の改変って言われても意味が分からん」


「こ、これでいいのかなぁ。識の魔法は、簡単に言えば錬金術です」

「錬金術って、等価交換的な?」

「なんの話ですか? 私も詳しいわけではありませんが、土を燃える物質に変えたり、金属を別の種類に変えたりできると聞いたことがあります?」


 土が燃えるようになる??? 


「もちろん、なんでもできるわけではないそうです。金を作るのは無理みたいでした」

「ふぅむ。土の成分といえば一番多いのはケイ素か。そんなもの燃えるはずがない……ちょっと待てよ。すいへーりーべーぼくのふねー」


「なんか呪文を唱え始めた?」

「しっぷす……Si(ケイ素)の次にP(リン)が来て、S(イオウ)でCl(塩素)か。ん? リン? イオウ? おい、それって燃えると臭くないか?」

「え? ああ、土ですか。錬金すると、なんか火山の臭いがするとか」


「リンなら燃やせば五酸化二リンだ。それは乾燥剤に使われるぐらいだ、そんなに臭いはないだろう。ということは、イオウができているということになるのか。火山の臭いならおそくらそれだろう……ケイ素からイオウが作れるだと!?」

「は、はぁ」


 原子番号が動いてんじゃねぇか。そんなファンタジーなこと。あ、ここ異世界か。それでも金は作れないって誰か言ってたな。なにか制約があるってことか。


 ああ、周期律表を持って来られたらなぁ。あんなもの全部は覚えてないぞ。


「で、それはレベル上げに役に立つのか?」

「ハルミはそれしか興味ないのかよ! そんなものどうでもいい。これはこの世界を変える魔法だぞ」

「そんなもの言うな!」


「識の魔法自体は、数千年前から存在している魔法ですけどね。使える人が少ないというだけで」

「うぅむ、そうか。それを重点的に研究したいものだな」

「そんなものどうでも良い。ダンジョンを攻略するぞ!」

「そんなもの言うな!」


「ああ、この二人は似たもの夫婦なのですね」

「ノだ」

「「だ、誰が夫婦だぁぁ!!」」

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