第8話 直交表 L8

「私、ソウと婚約しているから」


 えぇぇぇ。だめじゃん。それじゃああの乳揉むのはソウのタスクかよ!


 なんでだろ。なんだかがっかりしている俺ガイル。あれ? 待てよ?


「ハルミって、じじいの孫娘って言ってなかった?」

「そうだよ」

「ソウも孫じゃないのか?」

「そうだよ」


「そうだよ、じゃねぇよ。それ、ダメなやつじゃん」

「血は繋がってないからね」

「えぇぇ?! ってことは」

「そう、みんな孤児だもん。ミヨシとはあまりに似ているからどうやら双子らしいってだけの話で」


「そ、そんなことをここで言うな、ハルミ。それよかユウ。その計画なんとかってのはどうやってやるんだ?」


 ソウ、顔が真っ赤だぞ、純情か。ここって孤児ばっかりか。


「その前に、いろいろ聞きたいことがある」

「おう、なんでも聞いてくれ」

「めっき前に脱脂という工程がなかったようだが」

「ああ、あれは事前にまとめて覚醒魔法を掛けるんだ。それで表面の汚れはほぼ落ちる。少しずつやるのは効率が悪いからな」


 さいですか。取るのは汚れだけじゃないんだが。これは試験で確かめよう。


「めっき温度が常温(30度)というのは低すぎる。ヒーターを入れて温度を上げたいんだが」

「どうしても必要か、それ」


「必要だろうな。50度から60度くらいまでは上げるべきだろう」

「シアンの槽だからな。温度を上げるとガスが発生する。作業者のために上げないようにしていたんだが」


 作業者のためか。泣かせるねぇ。現代日本にだって、作業者のことを考えてくれる経営者なんてなかなかいないというのに。


「槽の上にダクトを付けて局所排気すれば問題はないだろう。シアン濃度はそこまで高いわけじゃないし、そこにいる時間なんてわずかだろ?」

「ダクト? って何だ?」


 そこは通じないのか。


「扇風機はわかるか?」

「バカにすんな!」


 あー、はいはい。俺、こういうこと、これから何回繰り返すんだろ。


「ダクトは槽の上に設置するでっかいロートのようなものだと思えば良い。で、そのダクトの先で扇風機を回して、槽から出るガスを集めるんだ。それが局所排気」

「ふうん。よくそんなもの知ってるな。それなら安心だが、でもそれ工事が必要だよな」


「だな。作業者の健康のためというなら、あの塩酸ガスだって排気したほうが良いだろ。ダクトは開け閉めすればいいから使わないときは閉めておけば良い。いっそ全ての槽にダクトを付けたらどうだ。配管工事は一度で済むぞ」


「それはちょっと社長と相談だな」

「作業者の安全のためになるなら、すぐにやれ。金は出す」


 おや、じじい即決か。


 ほんとにお前はじじいか? という顔をしたら、他に誰がいるんだよ愚か者という顔をしやがった。ぐぬぬ?


 ここは、なんだか作業者には優しい場所みたいだ。


「それと、覚醒魔法って種類はあるのか? 強度の違いとか掛ける時間とかは?」

「ああ、それは僕が適当に判断してます。汚れがたくさんあったら強めに少しなら弱めに。本来はいくつも種類がありますが、僕は1種類しか知らないのでそれだけです」


 適当かよ。種類は1つ。強度はいろいろできると。これは数値化が難しいな。どうすべぇか。



 因子      水準1    水準2

-----------------------------------------------

A:めっき浴温度   50度    60度

B:めっき浴時間   20分    40分

C:前処理塩酸濃度  10%    20%

D:前処理塩酸時間  0.5分   1分

E:前処理脱脂   覚醒魔法  強アルカリ液



 試験をする因子と水準はこんなもんだろう。後は割り付けだ。この場合、交互作用があると考えられるのは、A×BとC×Dだから直交表はこんな感じになる(こちらには画像が貼れないようですので、エブリスタほうを参照してください)。


「ってことで」


 わかるかぁぁぁぁ!! と皆がほざきおった。こんな簡単なもんがなんでわからんのだぁぁぁぁ、と皆に仕返しをした。


 どうやって試験するんだぁぁぁ!! と言うので、試験するときはここを見るを試験するときには見ろぉぉぉぉぉと言ってやった。


 そしたらじじいが、なんで一番後ろの項目は空白なんだぁぁぁぁ、とほざくので、そこはデータ取ったら埋めるんだろがぁぁぁぁ。と言ってやった。


 なごやかな、異世界でのやりとりであった。

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