第7話 さかなサカナ魚

「ふぉへへひょ、ひゅふふおうふぁへは、へきひゃんから」


「分かったから。あんたが空きっ腹だったのはよく分かったから。しゃべらなくて良いからゆっくり食え」


 もっもっもっ。こんなに腹が空くものだということを、俺は忘れていた、もっもっ。


 40代にもなると食欲はそれほどなくなる。時間が来るとなんとなく食べているが、空腹を切実に感じるなどついぞなかったのだ。


 それがこの身体はもうすさまじく空腹を訴える。今食べているものを飲み下すよりも先に、次の食べ物を食べたがるほどだ。

 身体が若いということは、良いこともあるが面倒くさいことも多いのだと実感した。育ち盛りもパネェッす。


「おかわりっ」


 5杯目である。この世界にはコメがある。ショウユもある。驚いたことに木製のハシまでもがあった。これで魔法とかなければ、日本の港町だ。


 そして目の前に並ぶのは主に魚だ。コメがうまい。そしてなによりこの刺身。これが素晴らしい。


 どういう名前の魚なのかは知らないが、わずかに甘みのある油は口のなかでほどけるように消えて行く。鮮度が良くなくては、この味にはならない。魚好きな俺にとって、ここは天国かもしれない。わずかに垂らしたショウユがまた素晴らしいアクセントになる。

 あちらの世界のものとは、少し違う。原料は豆だとしても、何かそこにダシ的なものを入れているような気がする。刺身との相性が抜群だ。


「港には毎朝市が立つんですよ。魚はそこで買うとすっごく安いから毎日買い物に行くの。まだいくらでもありますから、どんどん食べてくださいね」


 と言ったのはミヨシである。言葉使いから態度・物腰まで、姉のハルミとはエライ違いである、もっもっ。良くできた娘であり、しかも見た目はハルミと同じでポンキュッポンな美少女である。成功報酬はこの子にしようかな、もっもっ。


 な、なんだよ、何故かハルミとじじいが俺を睨んでいる、もっもっもっ。なんでも好きな「者」をやると言ったのはそのじいいだぞ。


 食卓には焼き魚もある。脂ののった魚を丸々塩焼きにしたものだ。軽く振った塩と少し焦げた皮ごと身をついばむと、その旨みが身体中に染み渡るようだ。ああ幸せ。


「すごい食欲ね。ユウは魚好きなの?」


 と聞いてきたのはハルミだ。


「ああ、俺は肉よりも魚派だ。魚を食べると、頭が良くなるんだぞ?」

「それで、その程度なの?」

「やかましい! めっきひとつできないくせに……あ、それはあんたには関係ないのか」

「関係あるよ。私、ソウと婚約しているから」


 えええっ!!!

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