幕間 それはとある昔の話
――きりーつ、れーい、さようならー
今日も、学校が終わった。
先生が挨拶をした途端に、一斉に教室が騒がしくなっていく。
クラスのみんなは友だちと楽しそう。普通の会話、時には遊びやショッピングに行く約束をしている子たちも。クラス替えをしてから間はないのに仲が良い。
まあ、あたしには理解できない。何故なら目に入る色が薄く見えるから。
つまり、みんなが楽しんでいるモノが一欠片も楽しめないってこと。
そんなんだから、気づけばあたしは1人。これはどうでも良かったけど。
でも、楽しいものがないというのも何だか嫌な気持ちがしていた。
できれば、何かを得たい。成し遂げたい。だけどできない。ぐるぐると回る。
どうすれば良いんだろう。と、考えている時だった。その思考が止められた。
「なぁー、比良坂。怪異に興味はあるか!?」
その原因はこいつ。ああ、今日もか。今日も来たのか。
青原誠也。五年のクラス替えの日から、ずっとあたしのところに来る。
いっぱい友だちがいるんだから、その人と遊べばいいのに。めんどくさい。
「ない。どうでも良いし、興味もないわ」
「ふっふーん。知ったら絶対に興味持つって! 聞いたことぐらいはあるだろ、超常現象とか、心霊スポットとか。怪異は未知の可能性に満ちているんだぜ!」
ちなみにこれで5回目。こう何回も話をされるとうんざりする。
普段はそのまま帰るんだけど、今日の私は何故か座ったままで居た。
いい加減、ちゃんと面と面を合わせて断ろうとしたんだと思ったのかな。そんなこともわかろうとしない少年は、あたしの嫌そうな顔にも笑っていたけど。
「何で私なの。他の人を誘えば」
「いや、何というか、遠乃って怪異っぽかったから?」
意味不明。怪異っぽいってどういう意味。そんな理由で誘われてるのも嫌。
……それにしても怪異。あたしはそのすべてを否定してなかった。
テレビでやってるような心霊写真特集とかはつまらないんだけど。写真に霊が写ったところでどうでも良いとしか思えないから。
未知の世界、誰も知ろうとしない世界。ほんのちょっぴりだけ興味がある。
もしかしたらという希望もあった。そこでなら、色を見つけられるかと。
でも、その時のあたしは、どうしても“納得”ができないでいた。
「そんなことをして何があるの」
「えっ?」
「幽霊とか呪いとかって理不尽じゃん。恨みがあるからその地に縛られて、嫌な思いをして死んだから誰かを苦しめて。訳のわからない悪意の塊、関わる方が馬鹿らしいのよ。そんなものを調査したところで、何の意味があるの?」
あたしは理由がないものが嫌いだった。正当性みたいなものがないから。
怪異は理不尽で正当性がない。だから馬鹿らしいと考えるのがあたし。
だから国語とかの科目は大嫌いだった。逆に算数や理科は好きだったり。こうなれば、こうなるという計算式は色がなくとも見たり考えたりすれば分かるから。
そんなあたしは試すように言った。どうする? 答えを考える? 諦める?
だけど、予想に反して、青原はあっけらかんとした表情だった。
「これだ、っていう意味はないけど。やる理由はあるぜ?」
「……えっ。だから、それは何なの?」
「ふっふーん。そんなん決まってんだろ?」
またもや変な鼻笑い。そして、この少年は高らかにこんな言葉を発してきた。
「――理不尽だから、暴かなきゃいけないんだ!」
彼の言った、理不尽だからこそ暴いてみせる。
ただの言葉。内容も強引でとんでもない。正当性なんて微塵もない。
だけど、色あせた世界に飽き飽きしてた当時のあたしには――何故か鮮やかに見えてしまった。決して清らかではないけど、心踊るもの。
それから少年と少女の付き合いは始まった。それは長く続いて、小学5年生の時にあたしが親の転勤で地方に引っ越すまで、ずっと理不尽を暴こうとしていた。
そして、2人は大学生の時に再会して。
少女を引っ張ってた彼は見る影がなく、少女も見る影がなくなってたけど。
過去と同じようなことを、素敵な仲間と『夕闇倶楽部』として活動していた。
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