第2話 夕闇倶楽部
――夕闇倶楽部。
心霊とか怪異とか超常現象とか、人の常識を越えた未知を明らかにするもの。
……と自称している、変なサークルだ。
活動は無駄に熱心で、怪異に関することなら色々とやっている。
例を挙げるなら怪奇現象が出る場所に出向いて調査したり、入手した情報や写真をまとめて調査ファイルを作ったりだとか。
その他にも部誌の制作や新聞部へ記事の寄稿などの作業も行っている。
「やっとセッティング終わったわ~!」
「結局、私も手伝わないとでしたね。どんだけ機械弱いんですか」
「う、うるさいわね!」
そして、こういう風に怪異と噂されるものを調査するのも立派な活動の一つだ。
「よーし。夕闇倶楽部、調査開始よ!」
遠乃の威勢のいい掛け声と共に、僕たち四人はパソコンの前に集まった。
――呪いのゲームと噂されるもの。いったい、それは何だろうか。
みんなの反応も見てみる。言い出した張本人の遠乃は待ちきれない様子。
遠乃の腕にしがみ付く雫も、怖がっているが視線はモニターから離れていない。
好奇心の塊の千夏は、目を輝かせながら高級そうなカメラを構えていた。
「あ、立ち上がったー! って、あれ……?」
そんな皆の期待を受けて出てきたのは――『ブレイブ・アドベンチャー』?
剣と盾が刻まれた勇ましいタイトルロゴに、冒険心をくすぐられる曲が流れる。
「ちょっとー、拍子抜けじゃない! これのどこが呪いなのよー!!」
「せ、誠也先輩。本当にこれが噂のゲームなんですか?」
「悪いが、僕に聞かないでくれ。持ってきたのは遠乃なんだから」
「……一応、写真撮っておきましょうか」
怪異とは正反対に位置するような光景が出てくるとは思ってなかった。
変な肩透かしを食らったせいで、部室内に変な空気が流れてしまう。
「わ、私は、呪いじゃなくてもいいかなーって」
「シズは良くても、あたしは嫌なのよ! せっかくに本物だと思ったのにぃ」
「まあ、とりあえず始めようか。最初は僕がプレイするんでいいよな?」
現状の空気をどうにかするため、一旦は僕がやってみることにした。
こんなのに呪いがあるとは思えないけど、警戒心は解かないでおこう。
「……そうね。もしかしたらこういうのは最初だけってこともあるし」
「私は嫌な予感がするんだけどなぁ……」
「大丈夫ですよ。どーせ、噂を模した愉快犯の仕業だったんでしょう」
みんなの会話を小耳に挟みつつ、僕はパソコンに向かった。
こういうパソコンのゲームって、最初はZキーを押せばいいんだったよな。
押してみると『はじめから』と『つづきから』という項目が表れた。
『はじめから』を選択する。すると懐かしさを感じる画面が映し出された。
「どこなのよ、ここ」
「何かの建物みたいだな。あまり広くないし、雰囲気からして家じゃないか?」
「へぇ~、昔のゲームってこんな風なんだね。あ、動いた!」
大抵のゲームはプロローグが入るのだが、このゲームにはないようだ。
そういうところも昔のゲームだという印象を強く感じる。
「気になるものは……特に無いみたいだな」
一通り調べてみたものの、気になる点は見当たらないので外に出た。
外には人らしきドットが幾つか行き交っていた。
背景からしてここは村のようだ。まずは、近くにいた人に話しかけてみた。
『おお! ゆうしゃよ! そんちょうがまっておるぞ』
……がっくりときた。勇者とは、どんどん呪いから離れていくな。
「はぁ、その村長とやらはどこにいるのよ?」
「さぁ……。僕はこの村の住人じゃないからわからないよ」
情報もアテもない。こういう時は闇雲に探すのが手っ取り早い。
幸いにも小さめの村だったので、それらしい屋敷はすぐに見つかった。
中に進んでみると、老人らしきドットのキャラがいたので話しかける。
『ゆうしゃよ! よくきてくれた!』
メッセージを見る限り、目的の村長さんだったようだ。
それから現在の状況とゲームの目的が、村長さんの口から説明された。
――数日前に魔王が復活し、この世界を支配しようとしている。
魔王軍は世界を侵略し、この村が滅ぼされるのは時間の問題らしい。
なので、昔に魔王を封印した勇者の血筋である主人公に魔王討伐に出てもらう。
……というのが、大体の内容を要約したものだ。
うん。普通の王道RPGだ。王道過ぎて逆に珍しいと思える。
「何でこういうゲームって世界の命運を一人の人間に託そうとするのでしょうか」
「王国の軍隊とか送っちゃえばいいのに! この世界の人間は頭が悪いのかしら」
ほら二人とも、ゲームのお約束にいちいち突っ込まない。キリがないから。
『ぼうけんにひつようななどうぐもそろえた。さあ ゆくがよい!』
その道具とは……。村長さんの横にある宝箱がそうなのか?
『ひのきのぼうをてにいれた!
ボロボロのよろいをてにいれた!
ボロボロのくつをてにいれた!』
「このおじいさん、本気で世界を救ってほしいと思ってるんでしょうか」
「あたしだったら棒きれで頭をかち割っているところね」
最初に手に入る武器が強かったらゲームとして成り立たない。
弱い装備で冒険をして、モンスターを倒し、お金を稼いで強い武器を買う……というのがRPGのテンプレというのは、ゲームに疎い僕でもわかっている。
しかし、それを考えても少しはまともなものを用意できたんじゃないか。
そう思いはしたが、話を進めるために一先ずは村を出ようとした。
「ゲームって、面白そうだよね~」
出口らしきところにたどり着いた時、今まで話にいなかった雫が口を開いた。
「え? シズってゲームをやったことないの?」
「そうだね~。他の人がやってるのは見たことあるけど……」
「ならいい機会ね! 今から誠也の代わりにやっちゃいなさい!」
「ええっ!? い、いいのかな……」
「いいのいいの。こういうのは行動あるのみなのよ! ほら誠也、どきなさい」
そう言って遠乃は強引に僕を押しのけて、雫を座らせた。
プレイヤーから一転、邪魔者になってしまった。ちょっとだけ悲しい。
「あ、なんか変なのに出会ったんだけど……」
「それはねー。ここはこうして、こうするの」
「あっ! 攻撃した! 倒した! ……レベルが上がった!」
「そんな感じで、こいつらを皆殺しにしてレベルを上げていくの!」
「そ、そうなんだ……。でも可哀想だからあまり倒さないようにしよっと……」
「私はさくさく進みたいので、そういうのは先にやっとくタイプですね」
わいわいと盛り上がる三人。……寂しいけど、楽しそうだからいいか。
呪いの警戒心が解けた夕闇倶楽部一同は、平和な雰囲気を漂わせていた。
雫はゲームに夢中になってプレイしてるし、千夏は機器の横で作業中である。
「……暇になったようだな」
思わず独り言。だが、僕ができることはないだろう。
なら、こういう時は読書に限る。本を片手に彼女たちを見守らせてもらおう。
――読書は良い。あらゆる知識や経験に、簡単に触れることができるから。
そんなわけで、僕は読みかけの小説へ手をかけようとした、その時だった。
「あ、誠也。ちょっと、あたしに付き合ってくれない?」
後ろから僕の腕を掴んできた遠乃が、そう告げてきた。
……唐突だな。そして拒否権は無いらしい。まあ遠乃らしいとは思うけど。
遠乃に半ば無理やり連れていかれたのは、大学内のパソコン室。
講義で使う資料の印刷やレポートの作成の時は僕もお世話になる身近な場所だ。
今も何人かの学生が課題のため、画面を前にして必死に取り組んでいる。
そんな中、僕たちは端っこの方の、二人分の空席にあるところに座った。
「しかし、どうして僕が……」
「だって暇そうにしてたでしょ。シズや千夏が色々やってる隣で」
「……ぐっ」
悔しいが、それは否定できなかった。
言葉に詰まった僕を見て、遠乃は勝ち誇った笑みで言葉を続ける。
「だ・か・ら! あたしたちは、呪いのゲームについての情報を集めるのよ!」
どどーん。そんな擬音が聞こえてくるような勢いで遠乃が声を上げた。
……できれば静かにしてもらいたい。作業をされている方々が睨んできてるし。
「新しい情報ねぇ。そんなもの見つかるのか……?」
「何言ってるのよ。そーゆーのは、気合と根性でなんとかすんのよ!」
「……オカルトで精神論を持ち出す奴を、僕は初めて見たよ」
「気の持ちよう、だと言ってほしいわね」
……物は言いよう、だな。まさしく。
しかし、張り切っている遠乃が止められないのは、僕がよく知っている。
それにこういった地道な調べ物も調査の一部だ。価値が皆無とは思っていない。
そんなわけで僕と遠乃は膨大なネット空間で、ゲームの情報を探し始めた。
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