第14話 ドラゴン王の誕生

 

 魔人の爪が粉々に砕ける。

 その出来事は周囲に衝撃を与え、兵士だけでなく他の魔人達も静まり返った。


 だが、伝説のドラゴンにとって魔人の爪など木の枝のように脆いものだ。



「ユルサナイ… ユルサナイ」



 〈ウォォオェ〉

 魔人は自らの口の中に手を突っ込み何かを引きずり出そうとしている。

 勢いよく口から取り出したものは、ドス黒い大剣であった。



「モウドクノ、タイケンダ、クルシンデシネ」

「猛毒の大剣?… 」

「オソイ」



 〈ブォッ〉

 ドス黒い大剣は一旦、空中に持ち上げられ太陽の光を遮る。

 その後すぐ轟音とともに振り落とされた。




 〈ガッ〉

 勿論、ドラゴンにとっては大剣など取るに足らない。

 右手の人差し指と中指で挟み止めた。



「バカメ、ドクニオカサレルゾ」



 魔人の言葉通り大剣を止めた右手から白い煙がたちはじめていた。



 物理攻撃、魔法攻撃はこれまで受けてきたが全く問題なかった。

 しかし、毒は初めてだ。



 ドラゴンは一瞬、煙を見て顔を歪ませる

 だが、よく見てみるとその煙は自らが腐っていく煙ではなく、大剣が浄化されていくモノではないか。



「毒?全く効かんな」



 〈ボキィ〉

 ここからドラゴンの反撃が始まる。

 まず指で挟んだ大剣を左の拳で粉砕した。



「ナニ…」



 次に、魔人が動揺して動けなかった隙に体を後ろにそらして溜めを作り一気に前のめりになる。



 〈ボォォォオ〉

 指揮官が炎に包まれた。が、その表情は笑っている。



「ヒアソビカ?」



 魔人は知らない。

 自らを焼いている炎が普通の炎ではないことを。


 伝説のドラゴンが吹く炎は『地獄の炎』相手が死ぬまで消えることはないのだ。



 その事に気付いた時にはすでに手遅れになる。

 魔人も例外ではない。



「タスケテ、ヒガキエナイ」

「………」




「バケ…モノ…」



 ドラゴンは無言で魔人を見つめていた。炎に焼かれ朽ち果てていく魔人を。



 その後は一瞬の出来事だ。



 〈バサァ〉

 ドラゴンに変身すると空高く舞い上がり、上空から大炎を下に向かって吐きだした。



 その大火は城門前に残っている魔人共を残さず焼き尽くす。




「アアァァァァァァ」



 魔人の悲痛な叫び声の中に兵士達はいない。

 反乱軍の兵士は大火に巻き込まれてはいないのだ。



 実は、ドラゴンと指揮官が戦闘をしている際に、軍長が全軍に対して山への撤退命令を出していたのである。




「やはり、有能だったか」




 ニヤついた表情をなんとかして抑えたドラゴンは、火を吹きながら城の周りを一周して魔人を殲滅した。



 一通り片付けた後に城の前に戻り人間の姿になる。

 本陣前に降り立つと、そこには軍長を先頭に、多くの兵士が整列して待っていた。




 〈ガシャン〉

「ドラゴン殿、かたじけない」

 軍長を皮切りに全ての兵士が膝をついた。



 大勢に膝をつかれ敬われるなんという幸福感だろう。

 一瞬意識が飛びそうになるほどの高揚感を味わったが、ここで気を失うわけにはいかない。



 まだやる事が残っている。



「軍長。指揮官はあなたです。立ち上がって、宮殿に参りましょう」

「そうですな。魔人共のことを早く代表に説明してもらいたいわい」




 やるべき事とは連邦代表を引き摺り下ろす事だ。








 ーガルーニャ連邦・宮殿ー

 玉座に座っている連邦代表は、外の様子など知らないといった顔つきで優雅にワインを飲んでいた。




 〈ガッガッガッ…〉

 優雅な雰囲気の宮殿内に鎧の音が鳴り響く。




「魔人共か? うるさいな」




 代表のいる部屋に大勢の兵士を引き連れた軍長が入ってきた。



 〈ガタッ〉

「お前は軍長。なぜ生きているのだ」

 代表は驚きのあまり玉座から落ちてしまった。

 まるで幽霊を見ているかのような眼差しを向けて。



「代表に質問じゃ。なぜ魔人軍が場内にいた?」



 代表は黙り込んでしまった。

 沈黙が続いた後に、それを見かねた宮殿内で勤務していた兵士が口を開ける。



「代表は魔人と手を結び、魔人を配下にする代わりに領民を差し出すという密約を結んでいました」



 何という王様だ。

 この国の民を進んで見捨てたというのか


 軍長は溜め息をつき玉座に向かってゆっくりと歩き出した。




 〈カチャッ〉

 剣を右手に握りしめる。

 代表を殺すつもりだ



 部屋にいた全ての者が悟った。




 流石の代表も殺気を感じている。

 何とか助かろうと選択した最後の手段は、醜い命乞いであった。



「儂を助ければ、お前を宰相にとりたててや…」

「すまない先王よ」



 〈ズサァ〉

 目を閉じて代表の首をはねる。

 勢いよく飛んだその首は転がってテーブルの角にぶつかった。


 転がり落ちた悪王の首、を見つめる軍長の目には涙などない。



 目線を変えてドラゴンの方へと歩いてくる。




 これで終わったんだ。

 長かった… 後は、軍長が国の代表となってくれれば目標は達成する。



 ドラゴンも軍長の方へと近づき、自然と握手をした。



「軍長お疲れ様でした」

「いや、ドラゴン殿のおかげじゃよ」



 軽い挨拶もこの程度にして、二人は本題にはいる。

 現在、ガルーニャ連邦の長はいない。

 早急に長を選択しなければならないのだ。



 といってもこれまでの功績、能力からすると該当者は軍長以外にいないのだけれども



 そう思っていたドラゴンだが、軍長の口から予想出来なかった言葉を投げかけられた。



「軍長、早く次の長を決めなくてはなりません。軍長が選ばれると思いますが、早急に準備をしましょう」

「いいや、王に相応しいのは儂ではないよ」




「では、誰がこの国の王となるというのですか?」

「あなたですよ、ドラゴン王」








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