第13話 何故ここにいる?
混乱している反乱軍に対して、魔人軍は迷わず突き進み城門付近の兵士達に襲いかかった。
〈ウォォオォオオオオ〉
魔人の雄叫びは城内のみならず配下の村々にまで鳴り響いたというほど大きく醜い。
想定外の事態に軍長は混乱していた。
早くこの事を伝えなければ…兵士はまさか戦闘になるとは思っておらず緩みきっているだろう。
――軍長の脳裏に一瞬、〈全滅〉の二文字が浮かんだ。
「戦闘の開始を知らせろ!鐘をならせ」
〈カンカン、カン、カンカンカン〉
兵士が大慌てで鐘を鳴らす。
鐘の音からも気が緩んでいた事が伺える。
不規則な鐘の音色、まるで新兵が打っているように思えるが熟練の老兵が担当していた。
自分達の故郷から魔人軍がゾロゾロと出てくる光景を見て思っているのだろう。
まさか城が支配されたのか、と
城門以外を包囲していた兵士達は、この鐘の音を聞いて最初は理解ができなかった。
しかし、不規則な音色ほど異常事態を物語る表現はない。
耳をすますと鐘が鳴っている理由を理解した。
聞こえてくるのだ。鐘ではない、普段聞きなれない音が
〈ゴリゴリゴリ〉
何かが城壁をよじ登る、そんな音が城全体に響いていた。
そう。魔人が城をよじ登る音だ。
〈ウォォオォオオオオ〉
やがて城を包囲されている全ての兵士が、魔人軍を目の当たりにすることになる。
ー城門前・本陣ー
〈グチャ… グチャ…〉
特に城門前の戦闘は凄惨を極めた。
兵士達が魔人共に蹂躙される音があちらこちらから聞こえる。
これはもう戦闘とは言えない。
見かねたおっさんが軍長に提案した。
「軍長さん、これやばいんじゃない?ドラゴンに変身して加勢しようか」
「いいや、もはや乱戦状態。ドラゴンの広範囲攻撃だと兵士達も巻き込んでしまう」
「なら、人間の姿のまま加勢させてもらうぜ」
「それはありがたいの」
実は人間時の姿で戦った事は、これまでに一度もない。
好奇心がおっさんを駆り立てて足を魔人軍の方向へと向かわせた。
軍長もそれに続き、刀を両手に携えて敵に向かう。
「軍長さんって強いの?」
「は、当たり前じゃ。見ておれよ!神速の双剣使い
と呼ばれた儂の剣裁きを」
だが、その剣裁きを披露する事は無かった。
魔人軍の前線とぶつかろうとした瞬間、城門付近から大きく醜い声が響いたのだ。
「コウゲキヲ、ヤメロ!」
突然の大声で両軍の戦闘は静止した。
いや、戦闘という言葉というより魔人軍の虐殺が止まったというのが正しいだろう。
その声の主は人間の3倍はあろうかという巨体を揺らしながら、ゆっくりと、だがハッキリと驚くべきことを口にした。
「グンチョオォォォォ!デテコイ、イッキウチダ」
「一騎討ちじゃと?」
魔人が一騎討ちを所望するなど聞いた事がない。
軍長はひどく困惑していた。
――何が目的だ?
一度、顔を下に向けて状況を整理する。
だが不可解な状況にあっても一つだけ確かな事があった。魔人達が攻撃の手を止めているのだ。
その事に気づくと、ゆっくりとおっさんの顔をみた。
「これ以上無闇に部下を死なすわけにはいかん。わしは一騎討ちで死ぬじゃろうが、後の指揮は頼んだ」
指揮官クラスの魔人には歯が立たない事を理解している。
覚悟を決めたその目は鋭い。
その表情を見ると殺すには惜しい人物であると誰でも容易に思うだろう。
おっさんもその一人だった。
「ちょっと待ってくれ軍長。おれが軍長代理としてでる」
「いいのか、お主でも勝てるか分からんぞ」
「おれが負けるとでも?」
おっさんは人間の姿のままで魔人軍指揮官の前まで歩く。
たどり着いたのは一騎討ちのために不自然に空いている円状の空間だ。
指揮官は不思議そうな顔でこちらを見つめている。
「オマエガ、グンチョウカ?」
「いや、おれは軍長代理だ」
「シヌノガ、スキナノカ」
もう少し会話を続けたかったが目の前にいる魔人は気が早いみたいだ。
突っ立っている状態から足に力をいれて一気に間合いを詰めてきた。
〈ゴッ!〉
瞬間、相手の巨大な爪がおれの腹を捉えられらそのまま相手の力で持ち上げられたまま宙に浮く。
指揮官が、もう終わりかと残念そうな顔をしながら振り落とそうとすると異変に気付いた。
「ナンダ?」
〈ミシッ〉
何かにヒビが入るような嫌な音だ。
この音の正体に最初に気づいたのは、魔人軍指揮官である。
なぜなら、自身の爪が粉々に砕けた音だったからだ
「魔人の爪は脆いな」
「オマエ、ユルサナイ」
「来いよ魔人」
おっさんのこの時の表情は普段戦う際に見せる笑顔とは程遠い。
虐殺された兵士達のための復讐の気持ちが湧き上がり、鬼の形相をしていた。
指揮官に宙吊りにされた時に見てしまったのだ。
――周囲にいる兵士達の凄惨な骸を
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