第11話 滅びゆく国家
ずっと考えていた。どうすれば人類が魔人達に立ち向かえるのかを
敵の本拠地を叩けば幹部はいなくなるだろうが、また新しい幹部が出てくるだろう。
戦争というものを見て思ったが魔人達に立ち向かうために人間が必要なものは、人間の団結だ。
国のトップを協力的な人物にして、人間の国同士で争わないようにさせる。
これも狙いの一つであった。
〈バサァバサァ〉
草原に叩きつけるドラゴンの風圧は、並の兵士では立てないほど強烈なものである。
この場に立っているのは老練な軍長ただ一人、それ以外の兵士は皆地面に体を投げ出されている。
「ドラゴンよ。お前は… 私に国を裏切れというのか?」
老練な軍長は、剣の切っ先を向けて言った。
「何を言っている。国ではなく戦争を決定した者を裏切れと言ったのだ」
ドラゴンは笑いながら発言している。そのまま兵士達の反応を見ようと、周囲を確認すると周りの様子がおかしくなっている。
「代表を引きずり下ろしましょう。あいつの圧政にはこれ以上耐えられない」
「ドラゴンの言葉が正しい、代表を裏切る事に賛成します」
なんと連邦に反旗を翻す事に賛成する兵士が出てきたのだ。
自ら提案しておきながら、流石にドラゴンもこの状況に少し困惑している。
実はガルーニャ連邦の国力の源は民からの搾取であった。
納める税は、増え続けて配下の村々では毎年大規模な餓死者が出ている。
村々から搾り取った税でガルーニャ連邦の城下は繁栄していた。しかし、その税を享受する兵士は常に罪悪感に苛まれていたという。
「だが… 主君を裏切ることは、先王との約束を無下にすることに」
軍長は、葛藤していた。
確かに代表の行いは目に余る。しかし、先王に託された現代表に対して刃を向けることは許されないのである。
葛藤を察知したドラゴンは決断を催促した。
「軍長よ、配下の兵士が苦しんでおるぞ。それに、断れば灰に帰すことになるが、兵士もろともな」
兵士を皆殺しにされると聞いた軍長の目つきが変わった。
目には、先程よりも強い光が輝く。
「私も年老いて頭がおかしくなってしまったかのう… その提案をのもう」
剣を腰に収めて膝をついた。
〈バッ〉
敵の代表が膝をつき頭を下げている。自らの思惑通りにことが進んでいる事に思わず口元が緩み、ドラゴンの姿から人間に戻る。
それを見た兵士達は驚いていた。老練な軍長を除いて
「軍長。おれも力を貸そう… 貸すだけだがな」
「人間に変身して、協力までしてくれるのか。もう何が起きても驚かんわい」
二人は固い握手をした後に、軍長は振り向いて部下に向かって指示を出す。
「全軍をこの本陣に集めよ!」
軍長の指示に対して兵士達は混乱しながらであったが続々と中央に集まってゆく。
その数およそ35万人。
「なんで、いきなり本陣に集められたんだ」
「まさか中央から総突撃するなんて言わないよな…」
「軍長は何考えて… ん?幹部達の中に知らないおっさんがいるぞ」
「ほんとだ。初めて見る顔だ」
集まった兵士達が会話をしている通り、前方には老練な軍長と、おっさん姿のドラゴンがいた。
大勢の兵士を前にして、軍長はその力強い声で新たな指示を出す。
「我が軍の敵は王国にあらず… 連邦にあり!」
一方、連邦側で異常事態が起こっている際に王国側にも連邦軍の大軍が消滅したとの報が入っていた。
王国軍側の中央軍では、大きなテントの中で会議が開かれている。
その中を覗いてみると鎧姿の王様が頭を抱えていた。
「どうなっておる。敵が撤退を始めたみたいではないか。敵軍17万が一瞬で消滅したとの報告もある。現場は混乱しているのか」
諜報部隊の兵士は報告時こそ声が震えていたが、淡々と仕事をこなそうと次の指示を求めている。
「王様、敵軍が撤退しているのは事実です。追撃いたしますか?」
「今回の目的は迎撃だ。追撃する必要はないだろう… 我が軍も撤退を開始しろ」
「は!」
兵士が王様の意向を各軍の長に伝えようとテントから出たちょうどその時、すれ違いで誰かが会議中の陣に入ってきた。
「お父様。ドラゴンさんは、こちらに帰ってきていないのですか?」
慌てて入ってきたのはビジュー女兵士長だ。
右翼から中央に向け、馬を駆けて出向いたのである。
王様がそばに駆け寄ると膝から崩れ落ちてしまった。
「どうしたのだ?娘よ」
「ドラゴン殿が、敵軍に行ったきり帰ってこないの」
「大丈夫だ。変態ドラゴンは強い生きてるはず」
「これは、ドラゴン君の従者の方まで中央に来たのですか」
王様の視線の先には顔を下に向けて表情の無いビジューとは対照的に、草むらに座って草をいじっているレッドがいた。
「強いのは分かってるけど、もし死んじゃったら私のせいだ… う…っ」
王様やレッドの励ましも効果は出ず、とうとうビジューは泣き出してしまった。
そんな娘を見た王様は娘の肩を抱いて優しく声をかける。
王様ではなく父親として接しているようであった。
(敵軍が撤退したのはドラゴン君のおかげかもしれない)
心の何処かでそう思っていた王様は、娘の心を慰める事も兼ねて、ある事を提案する。
「ドラゴン殿のために立派な葬式をあげてやろう。国葬を準備する」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます