第9話 ニートと王様
おれは今、衝撃的な事実を知ってしまった。
仲間に引き入れた女兵士長が、実は王様の娘だったのである。
「本当かレッド。じゃあ今からこの部屋に来るのは…」
「マジだぞ。王様が来るだろうな」
王様という単語を聞くと体が震える。まさか一介のニートだったおれが国のトップと会話する日が来るなんて。
「めっちゃ緊張してきた」
「堂々としてればいい」
この時ばかりは、周りを全く気にしないレッドの性格を羨んだ。
なんとか気を落ち着かせようと深呼吸しようと思った時に、その時はすぐに訪れた。
〈ガチャ〉
扉が開く音だ。ドキドキしながら扉の方向を見つめると、まずは兵士長が部屋に入ってきた。
「待たせたな。紹介しよう私の父、ランデル王国国王のジュビー・ウォルフェンだ」
紹介後にゆったりと入室した国王の顔は柔和で、着ている服装も過度に装飾されていない。
良き王様といった印象を持った。
「これはこれは、娘から聞きましたぞ。あなたに命を救われたとか」
〈ガタッ〉
王様からの言葉を頂き、急いで二人共ソファから立つ。
「いえいえ。国王陛下、私は当然のことをしたまでですよ」
「したまでですよ」
おっさんは慣れない口調を必至に繕っているが、レッドは相変わらずふざけている。
するとなぜか、王様の雰囲気が変わり始めた。
その様子を見るに、何か挨拶に粗相があったのではないかと冷や汗が滝の様に溢れ出ていた。
「すみませんが、この男と二人きりで話したいことがあるので他の者は、出ていってくれませんか?」
(え?… なんで?)
ますます顔がこわばる。
〈ガチャ〉
「では、失礼しますお父様」
「じゃあな変態ドラゴン」
二人はすぐさま部屋から出て行き男二人。王様と元ニートという歪な関係の者だけが部屋に残った。
気まずくなり目線を下に下げていたが、顔色を伺うために前を向くと、異変に気づく。
王様の目つきが明らかに変わっているのだ。
目つきの変わった王様が淡々とした口調で話し出すと、なぜ二人きりで話したいのかが分かった。
「君が娘を救ってくれたことには感謝するよ。でもね… 仲間にしてやる代わりに大金をくれとはどういうことかね」
先程までとはうって変わって、顔全体までもが恐ろしくなっている。
「それは…ですね」
(どうしよ。その取引したのレッドなのに)
「兵士長を解任することは認めますが、金づるとして仲間に加わるのなら」
王様は、テーブルに怒りで震える手を置き、立とうとした。
このまま部屋を出られると、兵士長を仲間に出来ないだけではなく、もしかしたらおれとレッドが牢に閉じ込められかねない。
最悪の事態を想定し、必死に頭を回転させて何とか言葉を絞り出した。
「まさか王族の方とは知りませんでしたので、自費分のつもりで金が必要だといったのです」
単なる言い訳である。短時間ではこの言葉が精一杯だったのだ。
しかし、結果的にこれが功を奏したのである。
急に王様の顔つきが柔和なものへと戻っていった。
「なるほど。昔からあの子は、人間関係はお金に頼るような子でしたからね。自分から用意しようとしたのでしょう」
「え。そうなんですか」
「家族以外の人間から、お金とは関係なく助けられたのが初めてで、嬉しかったんだと思います」
(あいつにも悲しい過去があったのか。人のこと言えないけどさ)
「では娘をよろしくお願いします。あなたは相当お強いと聞きましたので安心です」
「任せてください」
そういうと二人して握手を交わして部屋から出た。無事に危機を乗り越えたというわけだ。
〈ガチャッ〉
「ジュビー!終わったぞ。今日から正式な仲間になる。よろしくな」
「よろしくな」
「うん。よろしく」
女兵士長は、少し泣いているように見えた。
〈ザザザザザ〉
和やかな雰囲気に包まれている四人に向かって、奥から兵士が走って来ている。
ただの報告では、なさそうだ。泥まみれの鎧を洗わずにそのまま宮殿に入ってきているのだから。
荒い呼吸をなんとか抑えながら、王様の前でゆっくりと膝まづいた。
「大変です国王様。隣国のガルーニャ連邦が攻めて来ました」
兵士からの報告を聞いて、王様は目を閉じた。
「遂にこの時が来たか。私が戦場に出て士気を高めよう」
後で知ったことだが連邦と王国とは仲が悪く、この時期には小競り合いを起こしているそうだ。
しかし、全面戦争を仕掛けて来ることはこの時が初めてだったらしい。
そんなことも知らずにおっさんは、軽い気持ちで発言してしまう。
「王様。私が力を貸しましょうか?」
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