第8話 戦姫
空を飛んでいる時は常に遠くを見るようにしている。
最近気づいたことだが、ドラゴンになってからというもの目が非常に良くなった。遠くの物が何でも見える。
そんな城を見つめるドラゴンの瞳に、怪しげな動きが映った。
「ビジュー。城壁の兵士達が動き回ってるぞ」
「ドラゴンのままで近づくのはやめた方がよかったかも」
質問に答える兵士長の顔が、青く染まっていく様を隣にいたレッドが心配そうに見守る。
「どうしたのよ。そんなに顔を青くして」
「実は、ランデル王国には対ドラゴン用の兵器があるの」
〈ボッ〉
二人が会話をしている最中に、ランデル王国側から大きな音とともに黒い塊が飛んできた。
「あれのことかしら?」
「そうよ。やっぱり私たち攻撃されてる‥」
「大丈夫だ。おれには効かない」
先程までの会話を聞いていたおっさんは、頭の上にいる二人を守るために手を上にかぶせる。
〈ボッボッボッ〉
その後も立て続けに爆音が響き、ドラゴンの体に大砲の弾が大量に被弾しているが怯みすらしない。
それどころか、力強く城の正面へと前進している。
そのドラゴンの現状を双眼鏡で確認していた兵士が、その光景を見て急いで報告のために走っていった。
他の兵士達も本部らしき壁上のテント内部に次々と入ってくる。
「代理兵士長。ドラゴンに全く効いておりません」
「報告!ドラゴンがまもなく、こちらの前方に現れます」
次々くる凶報に代理兵士長の男は、椅子に深く座り頭を抱えていた。
「お姉ちゃん、早く帰ってきてくれよ」
〈バサァ!バサァ!〉
指揮官の嘆きも虚しく、テントの外から力強い翼の音が聞こえだした。
ドラゴンの接近を確信した指揮官の目の色が変わる。覚悟を決めたようだ。
大きな剣を背中に背負い、外に出る。
そのまま目の前の羽ばたくドラゴンに向かって、堂々と声を張りあげた。
「ドラゴンよ。この国攻め入る前に、まずこの代理兵士長の私を殺せ!」
決死の覚悟で言ったのだろう。顔には恐怖の感情が見え隠れしているが、すぐにその緊張は解かれる事になる。
「弟よ。何をやっているのだ」
ドラゴンと戦うつもりで来たのに、ドラゴンの頭からひょっこりと兵士長が顔を出したのだから。
指揮官は少し固まったが、すぐに言い返す。
「それは、こっちのセリフです。なんでお姉ちゃんがドラゴンの頭の上に」
「ビジュー。先に攻撃をやめさせてくれ、痒くてかなわん」
実は、話している間も兵士達は大砲を打つ手を止めていなかった。
「なんでドラゴンが人の言葉を話しているんだ。わけがわからん。だが、攻撃やめー!」
指揮官の大きな声が壁上に響き渡り、兵士の声と共に大砲の爆音も消え去る。
「弟よ。すまぬな。色々いわねばならんことがある」
兵士長はそう言うと、壁の上に降り立つ。
それに続けてレッドが降り、最後にドラゴンが空中で人間に変身して壁の上に降りた。
「ドラゴンが、人間に? 奴は何者ですか?」
指揮官は、背中に備えてある大剣に手をかける。
「やめておけ。弟よ。お前には敵わんよ」
少し場を緊張させたが、弟は納得したようだ。
「お姉ちゃんが、そう言うなら」
柄から手を離す。
そして、ビジューが本題を切り出した。
「弟よ。お父様はどちらにいる?」
不思議な顔をしながら答える。
「お父様は、宮殿にいるはずです」
「そうか。では、私はこの者たちと共に宮殿へ行ってくる」
「得体の知れない奴らと一緒に行かせるのは心配です。私もついていきます」
兵士長が、おれたちに目を向けた。弟を連れて行っても良いか尋ねているのだろう。
「おれは、別にいいぞ」
「わたしもー」
確認を取り終わると、目線を弟に戻す。
「弟よ。共に参ろう」
そうして宮殿に向かったのだが。王国内は非常に華やかであった。
家屋は頑丈な土壁で出来ており、市場には人が溢れかえっている。
そんな華やかな通りを通ると奥に、一際目立つ巨大な球体の建物があった。
「あれが宮殿かでかいな。ビジューってもしかして貴族の娘なのか?」
〈ヒュッ!〉
安易な発言をしたおっさんの首筋に大剣が迫った。
「呼び捨てとは無礼だぞ。貴様」
兵士長の弟くんは非常に短期なようだ。
「ごめんごめん」
「弟よ。落ち着け… ドラゴン殿、私のことは宮殿の中に入れば分かるさ」
宮殿の中に入るとおれ達は、豪華な一室に案内された。
〈ガチャッ〉
「二人はここで待っていてくれ。弟と私は、今から父上を呼んでくる」
「分かった。急がなくていいからね」
〈ドサッ〉
二人が居なくなるのを確認すると、レッドとともに室内にあった豪華なソファの上に勢いよく座る。
ゆったりとした時間もあるし、気になっていたことをレッドに思い切って質問してみた。
「レッド、そう言えばビジューと何話してたんだ?」
「あのことですか。仲間にしたらお金くれるっていうので… 旅にお金は不可欠ですからね」
「あいつそんな金持ちなのか」
少し変な間が空いたが、その問いに答えてくれた。
「だってビジューは、ランデル王国国王の娘だし金はあるはずですよ」
「え」
こちらの間の方が、先程より長かった。
「え。あいつ王様の娘なの?‥」
想像もしていなかった、王族の娘が仲間に加わるなんて。
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