第6話 共闘
村へと侵攻してきた魔人軍は、本気で村を滅ぼしに来たようだ。
単なる村を侵攻するための戦力と考えるには過剰すぎる。
ましてや村を襲うのにドラゴンを率いて来るなど、世情の詳しい知識人が聞いたら腹を抱えて笑うだろう。
そんな有り得ない状況を前にして、二人の男女が魔人軍に立ち向かおうとしていた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ」
雄叫びをあげて魔人軍に突っ込んでいる兵士長は最初に魔人達の相手をすることになる。魔人軍の陣形では、後方にドラゴンを配置しているからだ。
兵士長は魔人に近づくと自身の身長ほどの長さの刀に手を掛けて、抜刀のタイミングを計っていた。
あと五歩でぶつかるといった距離で全身を前方へと体重を移動し、そのまま勢いよく鞘から刀を横方向に向かって振り抜く。
〈ザシュッ〉
流石は兵士長というだけのことはある。周囲にいた魔人を一気に十体ほど胴体の上下を切り離した。
その後も魔人達など取るにたらない相手だと言わんばかりの剣捌きで圧倒している。
何より長い刀身のために、魔人達は攻撃できる間合いに入ることすらできていない。
だが相手は焦っている様子は全くなく、A級のドラゴンの元へと戦闘を放棄して逃げ出し始めた。
そのA級ドラゴンの体の色は青く、伝説のドラゴンと同等の大きさほどで力の強大さがうかがえる。
魔人達が、続々とドラゴンの方向へと逃げる中で兵士長は決して後を追いかけない。
A級ドラゴンと戦闘をしても勝てないと理解しているからだ。
しかし、いくらドラゴンとの戦いを避けたとしても、いずれは戦う羽目になる。
実際に、戦う魔人が居なくなるほど後退しきった頃にドラゴンが兵士長の前まで移動して来た。
「私は、最後まで戦うぞ!かかってこい」
威勢を張って刀を前に構えてはいるが、その手はガクガクと震えている。
その様子を見たドラゴンは少しニヤついた後に、体全体の重心を後ろにずらした。
「攻撃か」
長い刀を自身を守るように体の前に寝かせるように構える。
兵士長は、ドラゴンの動きの意図を理解していないようだ。
そんな防御方法では、ドラゴンの火炎には耐えきることができずに炭と化すだろう。
そんなドラゴンの動きに気づいたのか、人間側の後方から大きな声が聞こえた。
「ビジュー!おれはドラゴンと戦う。魔人は頼んだ」
「ドラゴン殿は逃げろ… ん!?お前は誰だ?」
ビジューは、後ろを振り返り絶句した。後ろにも巨大なドラゴン(おれ)がいるからだ。
実は彼女、ドラゴンが救ったという報告を嘘だと思い、〈ドラゴンのような強さを持つ〉人間だと思い込んでいた。
「魔人軍はもう一体、ドラゴンを用意していたのか」
絶望に満ちた顔をして、刀を盾にする防御体制を解いて、ぶらりと腕を下げる。
〈ガシャンッ〉
そのまま膝から崩れ、その際、鎧と地面がぶつかる音が響き渡った。
前方に目を向けるとA級ドラゴンの口から火が漏れている所が視界に入ったため、兵士長は静かに目を閉じる。
「あぁ…… こんな所で私は死ぬのか」
ゆっくりと空に向けた顔からは、一筋の涙が頬を伝った。
〈ゴッ!〉
前方のドラゴンから火のブレスが放たれ、徐々に草木を燃やしていく音が聞こえるが、その音は兵士長のギリギリ前で止まる。
「ビジュー、大丈夫か?」
火のブレスが解き放たれた瞬間に、ドラゴン化したおっさんは、脚力と翼を最大限に使って兵士長の前に立ち、火のブレスから守ったのである。
なので今、火があたっているのはドラゴン(おれ)の背中だ。
「声。ここは死の世界か?」
ゆっくりと目を開けると、周りをキョロキョロと確認している。
「何言ってんだ兵士長、あんたには魔人を頼んだんだ」
「ドラゴンが、喋ってる…」
兵士長と言えども、余程ショックなのか固まってしまった。
「気絶するなよ… おれはA級を倒してくるから」
相手の火のブレスが終わると、素早く振り向いて火のブレスを吐き返す。
(さて、A級のお手並み拝見といこうかな)
そう思っていたがブレスを吐き終わって、初めて自分の力を始めて知る。
〈ガタッ!〉
A級ドラゴンが勢いよく倒れたのだ。
「え… ありえないわA級が一撃で」
兵士長は、驚きのあまりその場から動けなくなっていた。
「ドラゴンガ、ヤラレタ?」
後方から眺めていた魔人達は、連れてきたドラゴンが倒れるのを見ると血相を変えて撤退をし始める。
しかし、撤退の指示を出すのは良いことなのだが遅すぎる。なぜならば今回は、魔人の殲滅を目的にしているからだ。
敵が、生きて逃げ帰れば情報を与えてしまう。
今回攻めて来たのもそれが原因で、現にA級ドラゴンを率いて来たのはSSS級のドラゴンがいると分かっていたからだと推測できる。
SSS級にA級をよこした敵上司の考えはよくわからないが…
翼を大きく広げると空へ舞い上がり、撤退中の魔人軍へ目掛けて炎のブレスを吐きながら飛び続けた。
〈ゴォォォォォォォォッ〉
ひと思いに魔人全てを灰に帰してやったのは、せめてもの慈悲である。
「え… 嘘でしょ」
兵士長は、魔人軍が消し炭になっている景色を見て、夢だと思っているようだ。
口をパクパクとさせて、自らの頬をつねって現実かどうか確かめている。
「ありえない。A級は世界でも数十体しかいない超強力なモンスターなのに、ただの火のブレスでなんでこんな…」
呆然と見つめている彼女の後ろに誰かが近づいていた。
〈ザッザッザッ〉
「ただのブレスじゃないわよ。変態ドラゴンの火は、地獄の炎。相手が死ぬまで消えない」
レッドがいつ間にか近くまで来ていたようである。
「地獄の炎。あの強さもカッコいいなぁ…」
誰にも聞こえないような声でニヤニヤしながら、兵士長はボソッと呟く。
「なんか言った?兵士長さん」
レッドは、ニヤニヤしながらこちらを向く兵士長を不思議に思っていた。
モジモジしていた兵士長が、その質問を待ってましたと言わんばかりに目を輝かせる。
「お願いごとがあるの…」
「なんだ?」
「仲間として加えてくれないか?何でもするから」
「ふ〜ん、何でもねぇ」
今度はレッドの笑顔が歪みだした。
二人がコソコソと取引をしている時に、人間の姿に戻ったおっさんが元居た場所に戻って来たようだ。
レッドの姿を確認すると駆け寄って、安否を確かめにくる。
「レッドも来てたのか。無事か?」
「あぁうん。てか変態ドラゴン。ちょっとこっち来て」
手でおれをおびき寄せ、そして重大な報告を耳元で囁いた。
「兵士長。私達の仲間になるからよろしく」
「ん?」
全く想像していなかった言葉に、つい変な声が出てしまった。
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