第5話 王国兵士長
魔人撃退後の村は、まるで魔人が侵攻していたことなどなかったかのように陽気な雰囲気に包まれ、おれは人間の姿のまま村の宿を貸してもらっていた。
戦闘の後は疲れが溜まるのか知らないが、宿では夕食もとらずにすぐ寝たみたいだ。
今目を覚ますと部屋の中は、太陽の光が差し込んで明るくなっている。
目は覚めてはいるが、まだ寝足りないようで眠い。
なかなか部屋から出てこない救世主様を察してか、ノックも無しに村長が寝室に入ってきた。
「救世主様おはようございます。朝ごはんの準備も出来ていますので」
しかし寝室の中を見た村長は口に手を当てて驚き、ゆっくりと扉を閉じたのだ。
「お取り込み中。失礼しました」
「ん?何だったんだ。まぁ、いいか‥ レッドも起きろよ」
返事が無いため横のベッドに目をやってみると、そこには誰もいない。
「先に飯を食べにいったのか。おれも着替えて朝飯食うか」
ベッドに体重をかけて起き上がろうとすると変な感触とともに、声が聞こえた。
「あっ…」
(ん?… もしかして)
恐る恐る隣をみると。
「レッド?!」
少しだけ服が、はだけているが大丈夫である。
「お前、なんでこっちで寝てるんだよ」
おれは大慌てでレッドを起こした。
「あ、おはようございます… ってなんで私のベッドに入ってきてるんですか。変態ドラゴンですか?」
少し顔を赤くしているが、笑っている。
「こっちが聞きたいわ。全く」
「そういえば、私、寝相が悪いのでそれが原因かもしれませんね。ははは。」
「寝相悪すぎだろ…」
二人でわちゃわちゃしていると、廊下の方が騒がしくなった。
「兵士長様おやめください!救世主様はすぐ来ますので」
村長の声だ。
「いいではないか!私は、そのドラゴンとやらの顔を早く見たいのだ」
こちらは女性の声であるが、聞いたことがない。面識の無い人物だろう。
〈ガチャ!〉
寝室の扉が突然開かれると、そこには銀色の髪で鎧を身に纏った美しい女性がいた。
「「「あ」」」
しかし三人とも固まり、この場では誰一人として口を開かなかった。
男女二人がベッドの上で口論していたのだから気まずいこと、このうえなかったのであろう。
〈ガチャ〉
銀色の髪を持つ女性は一言も発しないまま、ゆっくりと扉を閉めた。
静寂が訪れたすぐあとに、豪快な声が扉の向こう側から聞こえる。
「村長!部屋を間違えておるぞ。これでは伝説のドラゴンではなく、変態ドラゴンではないか」
「はぁ‥ では、先に朝食を準備している部屋にどうぞ」
村長が対応に困っているようだ。
対するこちらは、豪快な声ではなく可愛いお腹の音が沈黙を破った。
〈ぐー〉
「腹が減ったぞ。変態ドラゴン」
「食堂へ行こうか」
レッドのお腹の音を合図に、二人は食堂に向かった。
部屋を出てしばらく歩くと、食堂のすぐそばで村長が待ってくれている。
「救世主様。こちらの席でお願いします」
「村長さん。ありがとう」
「腹減ったー」
〈ガタッ〉
席に座り食べようとすると、前方に座っている女性から話しかけられたので前方を見ると、心当たりのある人物がいた。
(朝、おれの部屋に入ってきた人だ)
冷や汗が滴り落ちる。朝のあの場面は、勘違いとはいえ非常に気まずい。食事に気が入らない。
「朝はどうも‥」
「本当に、お前がドラゴンなのか?」
「え?はい。そうですけど」
何を喋ったらいいの分からない。恐らく向こうの女性も口下手なのだろう、全く会話が進まなくて気まずい雰囲気が流れる。
〈ガッガッガッ〉
しかし横のレッドは、ものすごいスピードで朝食を食べている。
(よくこの状況で飯が食べられるな)
細い目を向けていると、突然大きな音が村中に響く。
〈ドン!〉
急に地面が揺れ、それと同じくして若い村人が走ってきた。
「大変です!魔人が、攻めてきます」
急いで走ってきたのか息も絶え絶えである。
「なんじゃと?」
動揺する村長の近くまで行って、声をかけた。
「どこですか?案内してください」
「救世主様、また助けてくれるのですか」
近くにいる人たちはレッドと銀髪の女性を除いて、また拝み始める。
〈ガッ!〉
大きな鎧の音を立てて銀髪の女性が椅子から立ち、こちらに向かってきた。
「私は兵士長だ。共に戦おう」
「兵士長?」
確かによくみると頑強な鎧を装備しており、腰には非常に長い刀がつけられている。通常の一般兵士のようには見えない。
「分かった。共闘だ」
「私はビジューだ。よろしくな」
二人は軽く握手をして、村人に案内されるままに攻めてくる魔人に立ち向かうために走った。
しかし、そこに待ち受けていたのは単なる魔人だけではなく、ドラゴンもいたのだ。
到着した時点で魔人側の数は百体を超えておりドラゴンも一体いる。対するこちらはというと、おれと兵士長の二人しかいない。
「ドラゴン殿、私達はここで死ぬかもしれませんな」
兵士長の声が震えている。
「隙を見て魔人軍の指揮官を倒せば勝機はあるんじゃないですか?」
「いや、あのドラゴンは恐らくAランク級… 指揮官まで刃が届かない。私が囮役を引き受けるからその間に逃げろ」
「囮役‥ そんな危険な事をしなくても」
「うぉぉぉぉぉ」
兵士長はこちらの意見を全く聞かずに、魔人軍へ単身で突っ込んでいった。
魔人軍が、本格的に侵攻してきているとは思っていなかったために相当動揺をしているのだろう。
しかし、急がば回れ。ニート生活を耐え抜いてきたおれは、どんな状況でもじっくりと考えることが得意だ。
異世界へ来ても、いつも通り動揺せずに、ゆっくりと腕を組んで考える。
「最悪の場合は村人と兵士長を連れて空へ逃げた方がいいのか。ってA級のドラゴンがやばい? あれ?そういえば、おれもランク付けされてたような‥」
記憶を辿って自身のランクを思い出すと、突然、真顔に顔が変わった。
「おれ、SSSランクじゃん」
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