2. 風にプライド乗せた時

2. 風にプライド乗せた時


 木の葉の影に見え隠れする光で夜空は目が覚める。

「寝てた、のか」

 窓の外を覗くと、夜空の住む町が斜めに見えていた。それは山道を登っているからである。

 ごとん、と大きくバスが揺れて、夜空は完全に目が覚めた。

「次だよ」

 バスの運転手が後ろの席にいる夜空に放送でそう伝える。バスには夜空以外の乗客はなかった。

「ありがとうございます」

 ろれつが回らない弱々しい声で夜空はそう答えた。運転手には聞こえていないことを夜空は知っていたが、運転手は笑顔を浮かべて運転に集中した。

 バスは夜空を気遣って滑らかに停車する。夜空は大きな声で運転手に礼を言ってバスを降りた。

 夜空は息をのんで目の前の建物を見上げる。白い豆腐のような建物。人のいる気配のしない寂しい空気をコンクリートに染み渡らせた建物だった。

 夜空は申し訳程度の門をくぐる。一本道の玄関へと向かう道を進んでいった。その道は庭のような広場に作られている。緑の葉っぱが生い茂る庭には人の気配はない。

 レンガを踏みしめながら、靴のゴムの感触を確かめるように前へと歩みを進めていく。

 姉は一体そのような気持ちでこの道を歩いていたのか、と夜空は思った。

 希望か。それとも絶望か。

 玄関をくぐるとそこはすぐ受付だった。

 受付のナースは夜空の姿を見つけると暗い顔を一転させて明るい顔に姿を変える。

「おはようございます」

「こんにちは」

 ナースに笑顔で言われて夜空はもう昼であることを思い出した。

「ごめんなさい。こんにちは」

「いいのよ。伊須田先生ね」

 再々のことなのでナースは了見が分かっているようだった。

「三番の診察室にいるわ」

 夜空はナースに会釈して診察室に向かう。

 初夏の光を取り入れた廊下は、少しも草木の香りがしなかった。薬品の香りさえも夜空には感じられない。ただ、ゴムを飲み込むような空気を吸いながら夜空はリノリウムの床を歩く。

 この病院の造りは少し特殊で、全体が正方形になっている。そして、その中央はぽっかりと間の抜けたように開いていて、そこに小さな庭のようなものがあった。

 廊下を歩いている時、ふと何かが動いたような気配がしたので、夜空は庭の方に目を向ける。そこには一人の女性がいた。ベンチで日向ぼっこをしているようだった。その体は痩せこけている。

 夜空はこの病院で初めて入院患者に出会った。

 その女性が夜空は気になったが、先に診察を済ませようと診察室の前まで足を運ぶ。そして、ノックを三度する。

「はい。どうぞ」

 明るく若い男性の声がした。

 夜空は一度唾を飲み込むと診察室のドアを引く。

「元気かい?月影さん」

 診察室には若い医師がいた。たれ目がちの瞼から瞳が覗く。

「さあ、どうぞ」

 夜空は静かに診察室の丸椅子に腰を下ろした。

「どう?調子は?なにかおかしなところはある?」

「いえ」

 あってはたまらないという風に夜空は唇をかみしめる。

 医師は静かに夜空を見ていた。

「じゃあ、診察を始めようか。服を上げて」

 夜空は静かに服を胸の上まで上げる。その下からシャツが見えていた。夜空は医師が移動する時の衣擦れの音がやけに気になった。

「そんなに緊張しなくていいよ――」

 夜空には医師が言葉を飲み込んだのが分かった。

 もし続けていたら、どの様な言葉が続いたのか夜空にははっきりと分かる。

 お姉ちゃんのようにはならないから、と。

 医師は聴診器を夜空の左胸の上部に当てる。金具が肌に触れ、一瞬びくりと体を反応させる。

 医師は夜空の様子に注意を払う素振りもなく、聴診器を胸の中心に当てた。

「はい。じゃあ、今度は後ろね」

 夜空は少し慌て気味に回転いすを使い医師に背後を見せる。少し、足がもつれた。

 医師は夜空の背後に聴診器を当てる。

「息を大きく吸って。吐いて」

 夜空は医師の言われるがままに息を大きく吸い、ゆっくりと吐く。

「はい。いいよ」

 夜空は服を慌てておろし、医師に向かう。医師は机上の書類に何やら書いていた。

「どうでしたか?」

 夜空は顔に力が入っていることを自覚する。

「うん。大丈夫そうだ。このまま12才になればしっかりとした魔法少女になれる」

 夜空はほっと胸をなでおろす。それだけで体中の力が抜けきって、地面に倒れてしまいそうになった。

「それとなんですが」

「なんだい?」

 夜空は医師の笑顔に少したじろいだ。

「さきほど庭に女性がいたんですが」

 夜空がそう言うと医師は一瞬目を大きく広げたが、次の瞬間にはいつものたれ目に戻っていた。

「ああ。恵子ちゃんか。彼女はここに入院しているんだ」

 この病院に入院していると聞き、夜空は顔を暗くする。

「そうですか」

「もし……よかったら、恵子さんとお話してきてくれるかな?ここの病院は、暗いことが多いからね。みんな月影さんが来てくれるだけでうれしくなるから」

 そこまで言われると夜空は恵子さんに会わざるを得なかった。

 ただ、一言、弁解はしておいた。

「私はそんな誰かを明るくすることなんてできません」

 夜空は医師が言葉を言う前に会釈をして診察室を出て行った。


 診察室を過ぎて、すぐの場所に庭への扉があった。夜空は少し重い扉を引いて庭の中に入っていく。

 扉を開けた瞬間、草木の穏やかな匂いが夜空の鼻腔をくすぐった。

 夜空は女性を探して首を左右に振る。ベンチに女性は座ったままだった。邪魔をしてはいけないと思い、夜空は女性のもとへと忍び足で進んでいく。

「ふわわわ」

「えっ」

 女性が突然そんなことを言うので、夜空は驚いてしまった。

 瞼を閉じていた女性はゆっくりと瞼を開けて夜空を見る。

「あれれ?可愛い女の子」

 そのおっとりとした声に夜空は妙に心をくすぐられてしまった。

「どうしたの?恵子ちゃんみたいに迷子なの?」

「迷子だったんですか!?」

 さらに夜空は驚かされる。

「やっぱり、あなたも迷子なんだね」

「もうそれでいいです」

 恵子の蕩けるような笑顔で言われると、夜空はもうどうでもいいような投げやりな気分になった。

「あなたの名前は?」

 そう問われて、夜空は自分の名を名乗っていなかった無礼を恥じた。

「私はつきか――」

「ツキちゃんかー。ツキちゃん。よろしく」

「あ、あの――」

「なに?ツキちゃん?」

 再び夜空に恵子の笑顔が向けられる。

「はい。ツキでいいです」

「ツキちゃんは何歳?」

「私はじゅうに――」

「ツキちゃんも12才なんだ!」

 すると、恵子は腰を上げて夜空に抱きつく。恵子の体からはしっかりとため込んだおひさまの匂いがした。

「あ、あの――」

「うん。ツキちゃんかわいい!」

 あまり力のない束縛だったので夜空は簡単に振り払うことができる。しかし、パジャマから見える細い腕を見て、それを憚った。

「あの、どうして恵子さんは――」

「恵子ちゃん」

「恵子ちゃんはどうしてここにいるんですか?」

 口に出して、またしてもしまった、と夜空は肝を冷やす。

 この病院は終身病棟。つまりは、先の長くない人々の入院する場所だったのだ。

「もう。敬語はなし。恵子ちゃんとツキちゃんは仲良しこよしなんだから。おともだち。ね?」

「は、はあ」

「うん」

「う、うん」

 抱きかかえられたままのこの状況で夜空は恵子に抗えるはずもなかった。

 恵子は夜空から体を離し、とすんと軽い音を立てて再びベンチに座る。

「恵子ちゃんね。赤ちゃんを産むんだ」

「え?」

 その言葉を聞いた瞬間、夜空は恵子のお腹を見る。少し膨らんでいるようだった。細く軽いからだと、恵子の温かさの名残惜しい乾きがかき回され、夜空は何も考えられなくなった。

「恵子ちゃんね。一度赤ちゃんを産んで、それから体の調子がよくなかったの。でも、産むの」

「それは――」

 夜空でさえそれが何を意味するのかがよく分かった。

「うん。恵子ちゃん、死んじゃうかもしれない」

「そんな――」

 夜空の喉はひくついてなにも話せなくなった。どうして命を懸けてまで子どもを産もうとするのか、夜空には理解できなかったのだ。

「ごめんね。びっくりしちゃったかな。でも、恵子ちゃんは産みたいの。元気な赤ちゃんを。元気な子が産まれないかもしれない。けど、産みたい」

 夜空の中で得も言われぬ感情が渦巻いていた。

(これは……怒り、だ)

 夜空は自覚した瞬間、またも言ってしまっていた。

「そんなの、無責任だよ」

 とめよう、やめようと思っていても、夜空の体は言うことを聞かない。

「その子の他にも子どもがいるんでしょう?それに、赤ちゃんが無事生まれても、恵子ちゃんがいなかったら、そんなの、可哀想じゃない!」

 夜空は恵子の悲し気な笑顔を見た瞬間、その場から逃げ出したい気分になった。

「そうだよね。でも、恵子ちゃんはきっともう長くないんだ。なら、せめて、赤ちゃんを産んで、そうして命をつなげていきたいって思ったから。命はずっとつながっていくんだよ。夢と願いと希望を載せて、ずっと、ずっとね」

 強い、と夜空は感じた。恵子の持つ強さが自分に足りないものなのだと夜空は気がついた。

「どうして、恵子ちゃんはそんなに強いの?」

「え?」

 すると、恵子は照れたように顔を赤くする。

「もう、ツキちゃん。そんな恥ずかしいこと聞かないでよ」

「恥ずかしいことを聞いたつもりはないけど」

「オホン。じゃあ、言っちゃいます。それはね。愛なんだよ」

 言っちゃった、と恵子は年相応にはしゃいでみせる。

「愛……」

「恵子ちゃん。今日はもう病室に戻りましょう?」

 夜空が話を詳しく聞こうと思った時、庭の外から声がかけられる。受付のナースだった。

「ごめんね、ツキちゃん。もっとお話したかったけれど、今日はここまでみたい」

 ナースは瞬く間に車いすを引いて恵子のもとにたどり着く。

 夜空は最後に聞いておきたいことがあった。

「恵子ちゃんは何歳なの?」

 すると、恵子はピースサインをして夜空に言った。

「20歳だよ?」


 この日、夜空は好調だった。自然と精神が心の中に丸め込まれる。気がつけば師範が話しかけていることに夜空は気がつく。

「いつものように精神を乱しにかかっていたんですか」

「まるで僕が悪者みたいじゃないか。確かに悪者なんだけど」

 瞼を押し上げると相変わらずの笑顔なので夜空は妙に落ち着いた気分になった。

「もしかして、私の修業のために今まで話しかけてきていたんですか?」

 夜空は静かな声で言った。

「そんなことないんだけどね。ただ、暇だったから」

 誤魔化しているのだろうかと夜空は疑い、師範を見つめるが相変わらずのたれ目であったので、本当なのだろうと夜空は呆れてしまう。

「それより、今日、休日だよね。学校が休みなんだから、夜空ちゃんも遊びに行けばいいのに」

「セクハラですね」

「なんで!?」

 師範がマンガのように座りながら飛び跳ねたので夜空は苦笑してしまう。

 だが、もし奇襲を夜空がかけたとして、師範が見せた座りながらの跳躍をされたとき、夜空のなぎなたは簡単に躱されてしまうだろうと考えると夜空は薄ら恐ろしい気分になった。

 夜空には時々いつも笑顔でいる師範が化け物のように思えてならないことがある。何を考えているのか夜空にはよく分からないためであった。

「別に僕はそういう意図があって言ったんじゃないから!警察だけは勘弁して!」

 夜空はふっと小さく息を吐く。

「やっぱり、休みの日は友達と一緒に遊ぶのが普通なのでしょうか――」

 夜空は「自分は異常なのでしょうか」という言葉をやっとのことで飲み込む。

「師範は子どもの時、休みの日はお友達と遊んでいましたか?」

 師範はたれ目を少し開いた後、すぐにいつも以上のたれ目になる。夜空には師範が目を細めている時と通常時の違いがよく分からなかった。そして、一秒足らずで元の顔に戻り、師範の百面相は終わった。

「いや、恥ずかしいけど、僕もそんなに友達はいなかったかな。あんまり夜空ちゃんと同い年の時は覚えてないだけど、一人で遊ぶことも多かったな。その、あまり心配しないでも、その内友達はできると思うから。うん」

 師範の言葉遣いから夜空は師範に心配をかけたことを悟った。

「そりゃ、ともだちなんて簡単に呼べる存在はそのうちいっぱいできると思う。けれど、本当のともだち、つまり、親友と呼べるような人はきっと五本の指で数えられるほどしかいないと思う。どんな人であってもね。夜空ちゃんにそんなおともだちができると僕は嬉しいな」

 優しい言葉だと夜空は感じた。

 そして、同時に夜空はいつも師範が夜空のことばかり言っていることに気がつく。それはほんの小さな、違和感とさえ呼べないものではあった。しかし、夜空は気になった。

「いつも私のことばかりですね」

 言ってしまって、嫌味に聞こえてしまわないかと夜空はうつむきがちに師範を見る。しかし、師範は表情を変えることなくいつものように言った。

「大人ってのは夢を叶えてしまった残骸だからね。まだ叶ってないって人もいるけれど、どんな人でも自分より小さな子には夢を叶えて欲しいって思ってるものだよ。夢を押し付けるようで悪いけど」

 うーん、と師範は首をかしげる。

「大人にとって子どもは自分の人生をやり直してくれる希望なんだ。だから、時々、無茶苦茶なことを言ってしまう。それはきっと、自分のように失敗はしてほしくないって親心の現れじゃないかな」

 夜空の胸が一度ドクンと大きく鼓動した。

 ついさっき同じようなことを言われたばかりだと夜空は気がつく。

 夜空の鼻腔には匂わないはずのおひさまの匂いが漂った。

「まるで、子どもを持つ親のような発言ですね」

 一瞬、師範の体が強張るのを夜空は見て取った。石のようになった師範を見て、夜空は床に伏せられているなぎなたに手を伸ばす。そして、なぎなたをそっと掴み、正座していた足を素早く前に出す。その間、夜空は一瞬たりとも師範から目を離さない。

 右ひざを前に出し、左ひざをまだ床につけながらの一閃だった。両手でなぎなたを短く持ち、素早く薙ぐ。

 すかっ、という何かにかすった感触を得て夜空はどのような表情をすればいいのか迷う。

「は?」

 師範の道着に夜空のなぎなたの先がかすったのだった。今まで一度も道着に当てたことはなかった。感触からいって生身に当てたとは思えないが夜空には驚きを通り越して得も言われぬ感情がこみ上げてくる。

 感動ではない。むしろ、怒りに近い衝動だった。

「と、とと突然びっくりするじゃないか」

「すいません。奇襲など」

 だが、それもいつものことなので夜空は首を傾げずにはいられなかった。

 思わぬ成功に夜空は拍子抜けして次の攻撃を仕掛ける意欲も湧かなくなっていた。

「あれ?攻撃は仕掛けてこないの?」

「奇襲で勝っても嬉しくありません」

 奇襲でしか勝てないと悟っていたから夜空は奇襲をかけていた。だから自分は卑怯ではないと無理矢理理屈づけていた節もある。師範は奇襲でさえも簡単に避けてしまうのでそれが分相応だとも考えていたのだが、しかし――

「でも、夜空ちゃんも強くなったね。休みの日も頑張って練習している成果だよ」

「ふざけないで」

「え?」

 夜空は自分の足元を見つめていた。夜空の足元には数粒の水たまりができている。

「ふざけないで!」

 言葉の最後の方は上ずり、夜空は自分でも情けないと自覚する。しかし、溢れ出す感情を抑えるにはまだ夜空は幼かった。

「師範が手を抜いたなんて言わない。でも、せめて、油断してしまったとか言い訳してよ!そんなので褒められてもうれしくない!私はまだまだ自分が未熟者だってことはよく分かってるの!本気の師範を倒せるなんて思ってない!」

 途中から夜空は何故自分がこれほどまでに感情的になっているのか分からなくなっていた。泣いている顔を見られたくなくて夜空は袖で顔を拭う。

「すみません。帰ります」

 夜空は師範の顔を見ずに道場を去ろうとする。師範がどのような顔をしているのかがよく分かっていて、師範の顔を見る勇気が夜空にはなかったのだった。

「送っていくよ」

「来ないで!」

 師範は夜空に何も言わなかった。

 夜空は急いでなぎなたを袋にしまい、道場を後にした。


 夜空は自宅の玄関に足を踏み入れる。これほどまでに敷居をまたぐことが重いと感じられたのは久々だった。

「ただいま」

 鼻声であるのが気になって夜空は鼻腔内にたまっている鼻水を無理矢理吸い上げる。ぬるっとした感触が喉の辺りに広がり、ひどく不快で、夜空は顔をしかめる。

「おかえり。夜空ちゃん」

 姉の声が聞こえて夜空は玄関に灯が立っていることに気がついた。ずっと俯きがちだった姿を見られたと思うと夜空はひどく不安になる。

「お姉ちゃんとお風呂に入ろっか」

「まだ昼だよ?」

 正確には午後であったが、まだ15時頃なので、問題はない。

「じゃあ、シャワー浴びよっか」

「無理に入らなくてもいいよ」

 夜空は顔を引き攣らせながら答えた。

「お姉ちゃんが入りたいの。いいでしょ?それとも――」

「パパと一緒に入ろうか!」

 遠くから「早苗、いらんことを言わんでいい」という声が玄関まで聞こえてくる。

「わざわざ父上の声真似をしなくてもいいのでは?」

「もう、夜空ちゃんったら。前みたいにパパって、呼んであげたらいいのに」

「お姉ちゃん。私、そんな風に一度も呼んだことないけど」

「あれ?そうだっけ?」

 灯が冗談を言っているのが夜空には分かった。

 気を使わせていると思うと夜空は余計に気持ちが落ち込む。

「おねーたん!せらもいっしょにはいる!」

「あら。星空も入りたいって言ってるし、一緒に行ったら?女の子はいつも清潔じゃないと。ね?」

 4才になる妹の星空が玄関へと駆けてきて、その覚束ない足取りに夜空は思わず姿勢をかがめて駆けてくる星空を受け止めようとする。

 夜空のもとにたどり着いた星空はいつものように夜空にジャンプで跳びつくことはなく、夜空の差し出した両手に自分の小さな手を載せてにこり、と夜空に笑顔を向けた。

「おおきくなったんだね」

 まだ甘えん坊な時期ではあるが星空が成長している様子を見て夜空は自分も頑張らなければならないという気持ちになった。

 できれば、ずっとそのままの笑顔で生きていって欲しいと夜空は切に願った。

(一緒だ)

 夜空は充血している目を丸くして驚いた。

(恵子さんや師範と同じことを私は星空を見て思ってる)

 『愛』という言葉が目に浮かんで夜空は首をぶるぶると振る。つい、色恋沙汰について考えてしまったためであった。

「分かったよ。星空。一緒にお風呂に行こうか」

 うふふ、と母親と灯が笑う声が夜空の耳にも聞こえてくる。

「じゃあ、お姉ちゃんも一緒に入るね」

「シャワーだと普通一人ずつじゃないの?」

「暴れる星空ちゃんを受け止めないといけないし、夜空ちゃんの恥ずかしい姿をみたいもの」

 ゴホン、と父親の咳払いする声が遠くから聞こえてくる。

 仕方がないか、と夜空は諦めつつ、靴を脱ごうと足を動かし始めた。

「それと、夜空ちゃん、なぎなたの大会に出るんだってね。お姉ちゃん、応援に行くから」

 ガタン、と靴箱に立てかけてあったなぎなたが倒れ、渇いた音が静かに響き渡った。


次回予告。

「今回は出番がなくて暇でよかったぜ」

「いや、私、大会に出るとか聞いてませんけど!?」

「素が出てるぞ」

「聞いてないぴょん☆」

「初代あざといキャラ降臨ってところか」

「はぁ。作者がデジャブ起こしちゃってね。なんだか嫌な予感がするのよね。親から電話がかかってくるとか、なんかそんなことが起きそうな気配☆」

「いや、知らねえよ!安定の作者ネタだな。誰得な展開をここでもやるのか?」

「結構作者、デジャブ起こすのよね☆気味悪いわ☆」

「それより、作者、こんなことしてていいのか?第一志望の企業落ちたんだろ?」

「大分堪えてるわね☆もう小説書けないって死にそうな顔だから☆」

「まあ、誰も求めてない作品だからな」

「小説書いてたおかげで就活失敗しました☆とか笑えるわね☆」

「卒業単位も未だ取れてないくらいだけどな」


次回、『少しも笑えない』。

 ブギーポップのアニメ化、楽しみですね。オリジナルというところで、ちょっと鬼門な気がしますけど。

「だから、就活しろって!」


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