第1話 目覚める悪夢
『――どうしてっ、どうしてなの!?エレルド!!!』
『…すまない、スカーレット。私は、俺はもう…自分を偽りたくないんだ……。』
『…エレルド様……っ。』
『ッ!……認めない…こんな事、決してッ!!認めるものですかッ!!!』
「――……これ、は…?」
…――けたましく叫ぶ、何処か見覚えのある「赤銅色の少女」と。その少女と合い対する様に立ち、互いに寄り添う「黄金の少年」と「真紅の少女」の構図が目の前に飛び込み。セウレは思わず目を白黒させ、その口から困惑を示す言葉を溢すが。その構図、情景は瞬く間に変化する…。
『――一体、何度言えばお分かりになるのかしら?貴方の様な平民上がりの庶子に、エレルド様は相応しくないわ…。判ったら、もう二度と、エレルド様にお近づきにならないで下さる?』
『で、でも!私はただっ……!』
『そう…まだ、理解していないようね………?』
『きゃぁッ!』
パシンッ!――っと響く、軽快な乾いた殴打音を響かせ。小さな悲鳴を漏らし、その場に崩れ落ちる…。鮮やかな真紅の髪を肩まで流し、まるで大粒の
「……これは…本当に、"私"なの?」
そんな、見も知らずの真紅の少女へ。何事か、強くあたり怒り冷めやらぬ自分の姿に。既に、当初の困惑を通り越し…。呆然とその姿を見つめるスカーレットは。僅かに、その"
…真紅の少女に辛く当たる
その間にも、見知らぬ場で繰り広げられる自分と真紅の少女に。「黄金の少年」――"婚約者エレルド"と。多くの、良くも悪くもない仲の顔見知り達が登場し。その何処か不穏な雰囲気を孕む…主にスカーレットに関係する。さながら「走馬燈」の如き情景と会話の場面が映し出され。それが、次々と切り替わり押し流されて行く――…。
『――ねぇ、聞いた?最近エレルド様ったら、あの平民上がりの新入生と。
とても、仲良くされているそうよ……。』
『知ってるわ!ふふっ、スカーレット様もお気の毒にね…!』
『…自業自得よ。だってあの方、エレルド様があの子に甘い対応ばかりするからって。色々と、小言や制約なんかを言い募って。ベッタリ、エレルド様を監視しておられるみたいだし…。煙たがれても当然よね……。』
『いやぁね、必死になちゃって…。ああ、みっともないっ……!』
『――スカーレット嬢っ…。貴方は、一体何をしたのか判っているのですか?』
『何をしたか…とは?
『…そんな、酷いですっ、スカーレット様!!』
『スカーレット…そんな言い方はないんじゃないか?』
『…まぁ、エレルド様。貴方も、その子の肩を持つのですか?』
「…これ、は……?」
『――何の真似なのかしら、クローリウス…。』
『何の真似かですか?…フンッ、惚けないでくださいッ!姉上っ。
あなたはあの人に…ロゼルに、何時も謂れのない理不尽な𠮟咤をしているのでしょうッ。一体、あなたに何の権利が在って。彼女の行いを卑下し、邪魔ばかりするのですかッ…!』
『…その様に声を荒げるのはよしなさい、クローリウス。貴方こそ…一体、何を吹き込まれてその様な事を言っているのか知りませんが…。その答えを知りたいのであれば。…その彼女の行いと、周囲一般の貴族令嬢との違いを見れば。一目瞭然の筈ですが?』
『ッ!…あなたはっ、どうしても認めないおつもりなんですねッ…!』
『……貴方とは、話にもならない様ね……。』
「…クローリウス?何故、そんなに怒っているの……?」
『――エレルドに相応しいのは君ではなく、彼女――"ロゼル"なんだ…。
君は、引き下がるべきなんじゃないか?』
『…何を、勝手なッ…!貴方にっ、そんな事を言われる筋合いはないわッ!!』
『レティ……。』
『やめてッ!貴方が、"その名"を呼ばないでッ……!!』
「……何、なの…。」
『――…ロゼ…俺は、君の事がっ……!』
『…何をしているの?エレルド様……?』
『ッ!す、スカーレット様っ……!』
『…スカーレット……これは…。』
『…貴方、貴方達は……一体、何をしているのッ…!?』
「…こんな、こんな事っ……!」
『――スカーレット…一体、エレルド殿と何があった?
……婚約者であるエレルド殿が、お前との学園最後の「
『………知りません…。』
『…知らないとは……どういう――。』
『知りませんッ!!知るものですかッ!!あんなッ、あんな人達の事などッ!!!』
「……エレルドが、私を置いて……他の令嬢と、踊った……?」
『――スカーレット…。君との婚約を、此処に破棄する。』
『…何を、言っているのっ……。』
『別に、何という事はないだろう?…私達の仲はもう既に破綻していて、君だって、もう判っている筈だろ…?』
『そんな、事っ……私はッ……!』
『君との話は以上だ。後は君のお父上と話し合って、この"婚約破棄証書"に記入をしてくれ。』
『っッ!!!』
「……嘘、よ…!」
『――…とうとう。落ちる処まで堕ちましたわねっ、スカーレット様は…!』
『ええっ、そうね。…そもそも、判り切った事だったのよ。真の"
『全くだわ!…一部の"物好きな方々"は、あの髪色を「煌めく赤銅色」と仰る様だけど…。どう見ても、「傷んだ赤錆色」じゃないのっ!!』
『ほんと、ほんとっ。……嘗ての『朱薔薇の乙女』の名を欲しい儘にしたお母上様とは、大違いねっ!!』
「やめてッ…!!」
『――…レティ。別に、これは俺が望んだ事じゃぁ……』
『黙ってッ!望んだ事じゃないんだったら、この婚約は何だっていうの!グラニルッ!!』
『……ハイノラ上級子爵家とオロレウム上級伯爵家は、先祖代々の盟友関係だが。子の縁に恵まれず、今ではもう200年以上も希薄な血の縁しか結べていない…。だから、同い年の俺達が……。』
『そんな事は!聞いてないのよッ!!』
「嫌ッ!!」
『――…スカーレット様、お手紙が届いております……。』
『手紙?何方からかしら?』
『…それが。その、差出人は――エレルド様のようで……。』
『なんッ…ですって……。』
『…そのお手紙なのですが。如何やら…近々催される、ロゼル様との「婚約発表パーティー」の招待――…。』
『ふざけ、ないでッ……!!』
「…なんでっ……!」
『――グラニルっ、嫌ッ!逝かないでっ、お願いだから…!!』
『…レ、ティ…。すま、ない、俺は――っ………。』
『……グラン?……い、嫌っ…待ってッ!!』
『奥様…申し訳ありませんが……。』
『嫌ッ!いやあぁぁッ!!!』
「もうっ、やめてえぇぇッ――――!!!」
…――スカーレットは絶叫し。息苦しく、胸の詰まる"悪夢"の底から。仄かな月明りの射し込む自室のベットの上で、じっとりと纏わりつく油汗を垂らし目を覚ますと……。
ベットの横で寝ずの番で、スカーレットの看病をしていた侍女飛び起きが。何事か声を掛けてくるが…。悪夢の中から漸く覚醒したばかりのスカーレットは、その侍女の問いの応える事無く。再び、そのぐっしょりと湿ったネグリジェを握り締め。その意識を今度は、悪夢でも夢でもない。虚無の暗闇へと、落とし込んでゆく――…。
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