スカー・ローズは独り咲く
ドクダミ
覚醒する未来、退ける末路
第0話 スカー・ローズは踊れない…
「――12歳のご生誕と御婚約。誠におめでとうございます、スカーレット様。」
「…はい。ご祝福の御言葉、大変うれしく存じますガーラット夫人。」
「おおっ、スカーレット様。今日はまた、何と喜ばしい――…。」
確かな春の訪れを感じさせる、「
"エレルド・フェン・ローゼ=ヴァーセルリア"の横顔を伺い。視線がかち合う…。
「……どうかした?何か、私の顔に付いてる?」
「いいえ、別に。何でもないわ。」
まだ相手の挨拶が終わっていない時に、自身の横顔へ意識を逸らすセウレに。婚約者エレルドは何事かと、スカーレットに小さく問いかけるが。その問いにセウレは素っ気なく答える。その態度にエレルドは「…そう?」っと、何処か惚けた風の言葉を最後に零すと。…目の前でスカーレットとエレルドへ然も、微笑ましいもの見る様な視線を投げ掛ける賓客へ。エレルドは「…御話しの途中に、申し訳ありません。」っと軽く微笑み、謝罪の言葉を述べ。何事もなかったの様に、楽し気に主賓との挨拶を続けてゆく…。
それには流石に、スカーレットも決まりが悪くなり…。その後の挨拶では意識を逸らす事なく、主催者側としての責務を全し――漸く粗方の主賓達と挨拶が終わると。セウレはエレルドと共に、随分と賑やかとなった会場の踊り場へ足を運び。そこへ既に準備を整え、佇むスカーレットとエレルドの父母その他兄妹達へ軽く介錯し。二人そろって、その両家の空いた中心へ進み出ると。正面に大勢の主賓来賓の姿を納めながら、静かに、その時を待ち佇む……。
周囲のざわめきが瞬く間に静まり返り。僅かな布擦れ音と、囁き声が聞こえるばかりとなると。スカーレットの父にして、この国「ローゼオロン王国」近衛騎士団・金翼騎士団長を務める――オロレウム上級伯爵家現当主"オルゼン・ドゥラ・オロレウム"は。軽く介錯を入れると。その厳かで、確かな威厳と風格を有し…。僅かに年相応の若さも滲ませる声を、静かに張り上げ。言葉を述べ始める――…。
「――…今日この日。我が娘スカーレットの、喜ばしい12歳の生誕の祝宴と。ヴァーセルリア公爵家嫡子エレルド殿との婚約成就を祝う場に出席して頂き。…誠、感謝申し上げると共に。此度の、二人の若き紳士淑女の未来を祝して。どうか、此度の祝宴をお楽しみ頂ければと、切に、願っている。…私からの挨拶は、これで終わりとしたく思う……。」
…簡潔かつ、短い賓客への挨拶と。12歳の誕生日を迎え婚約し、スカーレットとエレルドへの祝辞に、賓客等への感謝と労いの言葉を述べたオルゼンに。周囲から軽やかな拍手が贈られ。元の定位置へと戻ったオルゼンに代わり。……オルゼンとはそう年も変わらぬ筈の。エレルドの父にして、ローゼオロン王国筆頭執政官――ヴァーセルリア公爵家現当主"セルゲル・スェイ・ローゼ=ヴァーセルリア"が。その既に40代後半へ差し掛かっているとは思えない、麗しく若々しい尊顔に微笑を浮かべ。前に進み出ると。その優雅な佇まいで、ゆったりと介錯し。オルゼンに続き、祝辞を述べ始める…。
「…オロレウム上級伯爵家当主オルゼン卿に、此度の祝宴の招待と主催を執り仕切って頂いた事に。深く、感謝すると共に……。我が息子エレルドと、麗しのスカーレット嬢の12歳のご生誕と婚約を祝し。私からも、どうか、此度の祝宴をお楽しみ頂き。共に皆で盛り立てて頂ければと、強く願いたい次第である…。」
まだ、僅かに話が続く事を匂わせつつ。一旦、話を切ったセルゲルに。まるで示し合わせ他の様な軽やかで…けれど、先程よりも僅かに大きな拍手が数舜起こり。その拍手が鳴り止んだところで。再び、短い話の続きが述べられてゆく……。
「…さて。ではそろそろ、此度の祝宴の"主役"からご挨拶して頂き。祝宴の開催と相成う……。」
そう手短に言い切った後。その視線を斜め後ろで待機している、スカーレットとエレルドへ差し向けるセルゲルに。二人は僅かに目礼を返し、前へと進み出ると。互いに一度視線を交わし合い、初々しく微笑み。その表情を崩す事なく、正面へ向き直ると。大勢の賓客達の、様々な意味が込められた視線を受け止め。初めに、この祝宴の主催側であるオロレウム家の令嬢セウレが。その初めの言葉を紡ぎ出す…。
「此度の、
出来得る限りの、朗らかではにかむ様な笑みを讃え感謝の言葉を述べるスカーレットに。三度めの拍手が起こり、直ぐにそれが止み終わると。今度はスカーレットの右横に立ち、手を握っていたエレルドが口を開き。今回のパーティーについての祝辞と、それに継ぎ…本命の。スカーレットとの婚約を誓う文言を、その口から紡ぎ出してゆく……。
「
――私、ヴァーセルリア公爵家次期当主筆頭エレルド・フェン・ローゼ=ヴァーセルリアは。左手に居ります、オロレウム上級伯爵家令嬢スカーレット・ディア・オロレウムと永久の愛を誓い。此処に、彼女との婚約を認め。改めて、皆の前で証明したく思います。……スカーレット、私エレルド・フェン・ローゼ=ヴァーセルリアとの婚約に、間違いはありますか?」
「……いいえ。
…朗々と、何処か事務的に語られた両者の婚約の宣誓に。周囲からはその婚約を祝福し、承認する有無を含む割れんばかりの拍手が巻き起こり。その後オルゼンから改めて、祝宴の開催を告げられた事で。会場は再び騒めきに満たされ。早速、第一回目のダンスの演奏が始まり。賓客等から短い祝福の言葉を投げ掛けられながら、ダンスを踊る為に開けられた広間へと二人足を運ぶ途中。周囲の楽し気な会話と軽やかな演奏に混じる不協和音を、スカーレットは聞き逃さなかった……。
「――…まぁ、見て!今日もエレルド様の御髪はまさに、黄金の太陽の様に輝いておられるけど。それに引き換え、あの髪…。亡きお母上もさぞ、お悔やみになっているのではない?」
「全くだわ。…
「……あんな我の強い方が、あのエレルド様と本当に釣り合うのかしら?伯爵家であれば、他にも良き家があると思うのですけど…。」
「ええ、ほんと。……ですけど、まぁそこは、流石は【
「………。」
(――勝手な事をっ。よくも恥ずかしげもなく、この様な場所で言えるものだわ……!)
…美しく、着飾ってはいても。何処までも陰湿で卑怯な、姦しい女達の何時もの影口に。秘かに、眉を顰め。悔しさと屈辱から、おもわず唇を噛みそうになる自分を抑えていると。またも、感良く、スカーレットの感情の変化に気づき声を掛けえくるエレルドへ。スカーレットはしかし、やはり素っ気無い言葉を投げ掛けて躱すと。一度周囲へ軽く、視線を走らせる……。
漸く、前奏の終わりが見え始め。ダンスのペアを組み終わった男女から、ダンス広場へ集い初めてゆく……。それに合わせエレルドがセウレに近づき、腰へ手を回してくるのを感じながら。セウレは、何度目かになる嘆息を心中で吐き出すと。気持ちを切り替え、12歳の少女然とした柔らかな微笑を顔へ張り付け。エレルドと、ダンスに不自由ではない程度に体を密着させると。奏でられる華やかな演奏と共に、その最初のステップを踏み出そうとした。その時――…。
「――あっ…!」
――…ガクリと挫けた足首の嫌な痛みと、自身でも思いもよらぬ失態に。殺しきれなかった、小さな悲鳴の様な声が漏れ。スカーレットは、その完璧だった姿勢を大きく崩すが…。突然、最初のステップで挫けたスカーレットにエレルドも対応できず。エレルドの手から滑り落ちる手は、誰にも掴まれる事も、何も掴む事もなく空を掻き。
そして、反射的に何とか体勢を立て直そうと力んだスカーレットの努力虚しく……。その中途半端な抵抗から、余計に大勢を崩したスカーレットは。…運悪く、背と後頭部を強かに…。この日の為に磨きに磨いた、堅い大理石の床へ勢いよく打つ付け。その意識を瞬時に、暗い
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