寝坊とオムライス
ご飯屋“宵”は10時からの営業。
今日は朝から店主ではなく妻の和歌がキッチンに立っていた。
「いらっしゃいませ。」
常連客の女性が頬を赤らめて席に座ると和歌に話しかける。
「店主さんはお休みなの?」
「はい、もう少しで降りてくると思うんですが。あ、メニューはお決まりですか?」
「うん、オムライス。」
「かしこまりました。」
お冷をお客の前において冷蔵庫から卵を二個取り出す、手際よく混ぜる音は安心感を誘った。
フライパンに油を引いて鳥肉を焼く。玉ねぎがきつね色になったら米を入れて赤く塗ってゆく。
その姿にお客は言った。
「髪の毛、伸ばしてるの?」
振り向いた和歌は頷いた。
「はい、少し女らしくと思って。」
「ふふ、私は和歌ちゃんの顔が好みだから短い方が好きだけどなあ。やっぱり店主さんはロングが好きなの?」
「そういうわけでは…ただ少しでも女性らしくと…まあ…。」
「可愛いわね。」
頬杖をついて見つめてくるお客から目をそらし少し恥ずかしげに笑った和歌はお皿に盛り付けた。
ケチャップはいつも適当に波状にするのだがなんだか可愛くしたくて豚の顔を描いて出した。
「お待たせしました。」
「可愛い!豚さん!これSNSに載せてもいい?」
「はい。」
カメラでいろんな角度から撮るお客を見て和歌は更に照れた。フライパンを水で洗い流していると二階からテンポよく降りてくる店主宵の足音がして振り返った。
「おはよう和歌。いらっしゃいませ。」
「あら、おはようございます店主さん。」
店主は長い髪を後ろでまとめるもうまくいかなくて乱れて落ちる。それを見た和歌が店主の後ろに立ち髪を束ねる。
「朝からラブラブね。」
お客が席に座りなおして微笑む。
店主はニコニコ笑って居た。
お客が会計を済ませて店を出た時、和歌は店主を見た。
「寝坊?」
「うん、ちょっと昨日夜更かししちゃって。」
「宵。」
「ん?」
「好きだよ。」
「うん、僕も。」
2人は静かな店内で微笑みあった。
ご飯屋“宵”は仲睦まじい夫婦がお店を開いて居ます。心とお腹を温めて満腹にしたい時は1度あなたも立ち寄って見てはいかがでしょう。
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