ごめんねの卵焼き
ご飯屋“宵”は現在午後1時を過ぎてもお客はちらほらだがどうにもカウンターの反対側はいつもの温かさは無かった。
「はい、お待たせしましたー。」
定食、丼、麺類などそれぞれ夫婦2人で分担して作っている料理だが店主の宵が料理を行い、
その妻である和歌は洗い物と接客に徹しており、
2人の仲睦まじい会話は一切なかった。
「お二人さん喧嘩?」
常連客のサラリーマンが心配そうに尋ねる。
2人はムッとした顔をして声を揃える。
「「してません。」」
揃ったことに驚いて顔を見合わせてふんとそっぽを向く2人にほかのお客も思わず苦笑いだ。
「喧嘩するほど何とやらって言うしね。ごちそーさん。また来るよ。」
立ち上がったサラリーマンのお客は手を挙げた。
客足も途絶え片付けを2人は始めるものの会話は無かった。喧嘩の理由なんてしょうもない事を2人はわかっていた。
事の始まりは今朝。店主宵が和歌と食べる朝ごはんのために卵焼きを焼こうとしていた時だった。
「卵焼き?王道は醤油だよね。」
横から覗いた和歌に店主は驚く。
「何言ってるの!砂糖でしょ!」
そこから言い争い今に至るわけだった。
朝に食べれなかった割った卵を取り出した店主は
何かを入れて混ぜ始める。その香りに和歌のお腹が鳴った。お腹を抑えてふて腐れた和歌に店主が話しかける。
「和歌、はいあーん。」
思わず口を開けた和歌は卵焼きを食べて目を開く。
「出し巻き卵。どう?」
「お、美味しい。」
「よかった。」
そう言ってまた店主は卵を切って皿に盛りつけた。
和歌は店主に近づいてボソボソといった。
「あの、宵。朝はごめん…」
店主は箸を止めて和歌を見る。
「僕も、ごめんね。ご飯にしよっか。」
「うん。」
米を盛る和歌はにっこり笑って頷く。
店主は大根おろしを添えてカウンターへ置くと2人で並んで食べた。
「甘いのも、食べてみたい。」
「今度作るよ。」
ご飯屋“宵”は美味しいご飯と不思議な夫婦が温かくお迎えいたします。でも、また、たまにはこんな日もあるのかもしれません。
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