朝の仕込みと苺ジャム

ご飯屋”宵”。

店主の朝は開店1時間前から始まる。

自分の朝ご飯にトースト2枚を焼いてバターを薄く塗りその上に苺の身が小さく残る真っ赤なジャムを塗ってもう一枚のトーストを挟み四等分にする。

バターとジャムが口の中で混ざり鼻から苺の香りが抜けると店主は顔を洗い仕込みを始める。

米を沢山研いで炊飯器に入れる。前日から取っていた大量の昆布出汁を沸かす。

トントントンと玉ねぎをテンポよく切って、

卵を数個割って混ぜる。

沸騰した昆布出汁に玉ねぎを加えて玉ねぎが少し透明になったら味噌を入れる。

途中味見をして弱火にしたらといた卵をその中に入れて混ぜる。火を消して数分蓋をして置けば味噌汁の完成だ。


「今日も美味しそう。」


店主がひと段落したところで二階から和歌が降りてきた。


「宵、おはよう。」

「おはよう和歌。今日は早いね。」


和歌は普段お店に出るのはピークの昼時。

でもたまに早く起きた時はこうしてすぐに店主の元へ降りてくる。

店主はトーストを1枚焼いた。


「和歌はいつものジャムでしょ?」

「うん。」


朝が弱い和歌に店主は素早く冷蔵庫から苺ジャムを

取り出す。市販の安い瓶に入れられたお手製のジャムは無くなりかけていた。


「もうそろそろ作らないと、ジャム品切れちゃうなあ。苺あったかな…」


冷蔵庫の野菜室をゴソゴソと店主が漁ると真っ赤になった苺が沢山入ったパックがあった。


「それ、この間お客さんが安かったからって、持ってきてくれたの。」


和歌は店主が持つ苺を見て眠たそうに続けた。


「宵、ジャムの作り方、教えて。」

「うん、いいよ。」


チンとなったトーストを取り出して店主はバターと残ったジャムを絡めた。

和歌がトーストを食べている間に店主は沸騰したお湯に瓶を入れて熱消毒しキッチンペーパーでしっかり水気を拭き取った。

店主は苺のヘタも綺麗に取って一つ和歌の口に入れると和歌は口角を上げた。


「美味しい。」


食べ終わった和歌は食器を下げてキッチンに立つ店主の隣に立った。


「じゃあ始まるよ。苺はさっと洗ってしっかり水気をキッチンペーパーで取る。」

「水使わないの?」

「うん、水使うと水っぽくなってとろとろにならないんだ。」


苺を2人で全部拭いた後にいちごを小さく切る。

手際よく切る店主の手元を和歌はまじまじと見つめた。


「切った苺を鍋に入れて…」


コロコロと鍋に苺を入れ店主は砂糖を和歌に渡した。


「今回苺の量が少ないから大体苺の半分くらい砂糖を入れてみて。」

「半分?」

「大体で大丈夫だよ。」


和歌が砂糖を苺の上にかけると店主はガスコンロの火をつけた。


「後は混ぜるだけ。」

「それだけ?」

「うん、ひとパックの苺なら三十分も経たずに作れる。焦げないようによく混ぜて。」


苺を混ぜると次第に熱で溶け始め砂糖も透明になった。だんだん砂糖も赤くなりフツフツと苺が踊り始める。

数分かき混ぜた所で店主がスプーンですくって和歌に味見をさせた。


「どう?」

「甘酸っぱくて美味しい。」

「じゃあ出来上がり。」


ガスコンロの火を止めた店主は和歌から鍋をもらい小さな瓶に器用にジャムを移し替えていく。瓶の蓋をしっかり締めて水道水で軽く冷やした後冷蔵庫に入れた。


「明日は和歌手作りジャムが食べれるね。」


楽しそうに店主は和歌に問いかけると和歌も少しだけ嬉しそうに頷いた。


「宵、開店の時間。」


時計を見た和歌は慌てて店主に言うと店主はキッチンを出てお店のドアの鍵を開ける。

秋風が中に入り込んで2人は身震いすると、炊飯器の音がなる。


「今日も一日よろしくね和歌。」

「こちらこそ。」


ご飯屋”宵”は10時から開店。

ドアを開けたらご飯とお味噌汁と、もしかしたら甘酸っぱい苺ジャムの香りもするかもしれない。

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