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 後方へのローラーダッシュで後退しつつ、適当なタイミングで機体を反転させて逃走。とすればユウは唐突に機体の滑る向きを変え、横丁の方へと機体を滑らせた。

「リン、舌を噛むなよ」

「えっ――――!?」

 警告に彼女が反応する間もなく、ユウは唐突に≪飛焔≫に地を蹴らせ、紅い機体を天高く飛び上がらせた。

 そうすれば舞い上がった≪飛焔≫はビルの上に着地し、更に何度も跳ねる。低いビルから高いビル、更により高いビルへ。八艘飛びのように軽快に飛び跳ねていき、やがて高い摩天楼の屋上へと二人は到達していた。

「痛いって! ユウ、言うならもうちょっと早く言って! 舌噛んじゃった、噛んじゃったからっ!」

「警告はしたはずだ」

「遅すぎるっての!」

 どうやらリンの方はといえば、ユウの警告も虚しく、最初に跳んで着地した際に軽く舌を噛んでしまったらしく。ひりひりと痛む舌をべーっと軽く突き出しながら彼に抗議する声を荒げていた。

 そんな仕草を見せる彼女も、また普段とは違った一面で何となく可愛らしくも見えたが。しかし、そんなことに構っている場合ではない。ユウは抗議するリンの声を意図的に無視すると、屋上に膝立ちで座らせた≪飛焔≫のカメラ越しに、眼下にある遠い地表を見下ろした。

 見下ろせる敵の数は、四機。それぞれ背中合わせになるみたく四方を警戒していて、何処からユウが仕掛けて来ても即座に反応できるような体勢を取っている。

 やるな、とユウはそんな四機の敵を頭上から見下ろしながら思っていた。即座にああいた反応が出来るのは、敵ながら素直に称賛に値する。元軍属でも居るのだろうか。実戦経験に乏しいだろう治安部隊のPAにしては、よく訓練された動きだった。

「だが、最も警戒すべきは頭上だ。詰めが甘いな」

 ユウはひとりごちると≪飛焔≫を再び動かし、唐突にビルの屋上から飛び降りた。

 自由落下しながら、下方に向かってアサルトライフルを撃ちまくる。無警戒な頭上からの奇襲だ。反応する間もなく、また当然避ける間もなく。頭の上から降り注ぐ二十ミリ・徹甲榴弾のスコールによって、二機の無人機が即座に蜂の巣になる。

 ――――人間にとって、一番の死角は直上だ。それは当然、ヒトの形を模した身長五メートルの棺桶であるPAにとっても同じこと。

 故に、ユウは敢えてビルからビルを伝って登るなんて面倒なことをしてまで、上空からの奇襲を選択したのだ。敵の展開の仕方から、治安部隊でもある程度の腕利きが集まってきていることは何となく予測出来ていた。だからこそのこの奇策だったのだが……どうやら、その判断は大正解だったらしい。これで副賞にハワイ旅行でも贈呈してくれたら嬉しいのだが、鎖国真っ盛りのこのご時世では叶わぬ夢物語だ。

「――――!」

 そうして二機を撃破すると、ユウは混ざっていた有人機に対し、着地代わりの蹴りをお見舞いする。蹴りを入れた機体が地割れを起こすぐらいの勢いで路面にめり込む。これほどまでの衝撃を与えれば、中のパイロットは昏倒必至だ。

 蹴りをついでにお見舞いする一石二鳥の着地と同時に、ユウはアサルトライフルを斉射。最後の無事な無人機を二十ミリ砲弾で撃ち抜いて撃破すると、足蹴にしていた有人機のコクピットをトンファで叩き壊す。これで撃破数は無人六の有人一、合計で七機だ。

「……治安部隊といっても、やはりこの程度か」

 たった今コクピットをトンファで叩き潰した残骸を足元に見下ろしながら、ユウは冷たく冷え切った瞳でポツリとひとりごちる。

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