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 飛来した三機の大きな輸送ヘリから、宙吊りにされていた一二機のPAが降下する。降りてくる全てが、さっきリンが相手にした連中と同じ≪翔雷≫だ。アスファルトの路面に軽い地割れを起こしつつ着地した一二機の≪翔雷≫は、まず始めに二本の足でゆっくりと歩き出し。そしてやがてはローラーダッシュを起動すると、火花を散らしながら路面を超高速で滑走し、ユウが預かったリンの紅い≪飛焔≫に向かってくる。

「き、来たよユウ……!」

 シートの後ろで、そんな敵の大軍勢をセンサの表示越しに察したリンが震えた声でひとりごちるが、そんな彼女をよそにユウは冷静に敵を分析していた。

 敵の数は確かに多いが、しかし単調な動きを繰り返している奴が幾らか見受けられる。この独特な動き方には、ユウも見覚えがあった。というより、慣れ親しんでいるといった方が良いだろう。

(恐らくは無人機、か)

 間違いないと言ってもいい。日本製のPAにはよくある話だ。外国産のPAも無人化は出来るが、日本製ほど優秀な動きはしない。というより、大量の無人機の存在こそが、決して国力が高いといえない日本が、鎖国状態にありながら極東アジア紛争で圧倒的な戦いを繰り広げられた最大の要因なのだ。

 まず間違いなく、あの単調な動きをしている奴らは≪翔雷≫の無人仕様、QJPX-45だろう。その数は八機。一二機で構成された部隊の半数以上が無人機ということになる。動きを見るに、残りの四機が有人機であることはほぼ間違いないが。

 中身に人間が乗っていようと乗っていなかろうと、どちらにせよ厄介であることには変わりない。囲まれる前に動く必要がある。そう判断したユウは、早速行動を開始することにした。

「動くぞ、掴まっていろ」

 操縦桿を握り締め、ローラーダッシュを起動。それと同じタイミングで、三ブロック先の交差点から三機の≪翔雷≫が姿を現す。予定通りだ。

 ユウは臆することなくローラーダッシュで走り始めると、ジグザグに動く滑走で敵機からの砲火を回避する。ちょっとした乱数機動だ。無人機の動きの癖を熟知したユウだからこそ出来る技だった。

 それでも、傷付いた紅い装甲の端には、時たま敵の二十ミリ砲弾が掠めていく。その度にコクピットは小さく揺らされるが、ユウは臆さずに滑走での突撃を敢行。無人機を相手にするのなら、速さが命だ。

「――――!」

 一気に距離を詰めると、ユウはすれ違いざまにショットガンを撃ち放つ。殆ど接射に近い距離から、腹に向かってベアリング散弾を叩き込んだのだ。幾らPAの装甲といえどもこの距離でショットガンを撃たれればひとたまりもなく、腹を抉られた≪翔雷≫は後ろに向かって文字通り吹き飛んでいった。完全な致命傷、これで無人機を一機撃破だ。

 続けてユウは機体を急停止させると、すぐにその場で一八〇度を回転、ショットガンの二撃目を叩き込み、傍に居たもう一機も撃破する。

「見えている」

 最後の一機は格闘戦を仕掛けるべきと判断したのか、脚で走りながらナイフを振りかぶって突っ込んできたが。しかしユウはそれを既に予測していて、振り向きざまに左腕のトンファで横薙ぎに吹っ飛ばすことで制する。

 トンファに吹っ飛ばされ、路面を何度かバウンドしつつ転がり倒れたソイツに向かって、ショットガンを更に二発ほどダメ押しで叩き込む。ベアリング散弾を喰らった爆発し炎上を始めれば、これで無人機を三機撃破だ。

「は、早い……!」

 そんな、鮮やかすぎるともいえるユウの手際をシートの後方から眺めていたリンは、ただただ驚愕するだけだった。

 ――――早すぎる。

 意味が分からないほどに、ユウの戦い方は早い。状況判断も反撃も、そして手段の選び方ですらをも。二機目を撃破してからトンファを振り抜いて三機目を迎撃するまで、それこそ一秒にも満たないほどの短時間なのだ。目の前の敵と戦いながら、別の敵の動きをも把握していたとしか思えない。

 まるでユウの頭の後ろには、もうひとつの眼があるようだと。リンはそう思わざるを得なかった。それほどまでにユウ・ガーランドの戦い方は鮮やかで――――そして、化け物じみていた。

 どれほどの修羅場と死線を潜り抜ければ、これほどまでの腕を身に着けられるのか。あまりに戦い慣れしすぎた動き方に、扱ったこともない旧式の第四世代機・≪飛焔≫ですらをも土壇場で手足のように使いこなしてみせる柔軟性。ユウは自分のことをプロフェッショナルだとリンに訊かれて肯定していたが、こんなものを見せつけられてしまえば、否が応でも信じざるを得ないだろう。

 ――――ユウ・ガーランドは、間違いなくエースだ。

「まずは、これで三つか」

 そんな風に驚き、言葉すら失っているリンを傍らに、ユウは黙々とした調子で機体を動かし続けていた。弾切れになった拾いもののショットガンを投げ捨て、後ろ腰に吊していたアサルトライフルを再度、≪飛焔≫の右手に握らせている。

 すると、また次の敵集団が交差点からユウたちの前に滑り込んで来た。今度は数が多い。ユウは横目でそれをチラリと見やると、後ろ向きのローラーダッシュで飛んでくる砲火を避けつつ、一旦その場から離脱する。

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