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「ユウ、≪飛焔≫の扱い方は分かる?」
「生憎と、第四世代のPAに触れる機会は無かったんだ。古すぎてな」
「……ちょっと、本当に大丈夫なの?」
「問題ない。基本的にPAはPAだ。根本は変わらないし、それに幾ら年代物のポンコツだろうと、動くのなら戦える。多少の性能差ぐらいは、腕でカヴァーしてみせるさ」
互いに狭いコクピットの中で上手く位置を入れ替え、ユウが≪飛焔≫のコクピット・シートに。逆にリンが彼の後方、シートの後ろから身を乗り出すような格好になりながら言葉を交わしていた。
そんな風に会話をしている最中にも、既にユウはヘッドセットを着け終えていて。今の今までリンが着けていた四点式のシートベルトをキツく締めると、シートに身体を上手く固定させていた。
次に正面のコンソール・パネルに触り、計器盤を見たりだとか適当なスウィッチを弾いたりだとかして、この機体のコンディションを手早くチェックし把握。それらを全て頭の中に叩き込んでいく。
「武器は?」
「アサルトライフルの弾倉が、残りラストひとつだけ。それと左手のトンファ以外は、腰のナイフしかないの」
トンファもナイフも……特に超音波振動でPAの装甲だろうが容易く斬り裂く後者は、至近距離での格闘戦ではかなり強力な兵装だ。だが、肝心の飛び道具がもう心許ないというのが厳しいところだ。たかだか予備弾倉ひとつ……今ライフルに装着されている物も合わせて二つでは、一二機の半分を削る前に弾が底を尽きてしまうのは間違いない。
「敵は一二機だ。もう少し欲しいところだが……」
と、ユウは≪飛焔≫のすぐ傍に転がった残骸に眼を付けた。さっきリンが撃破した治安部隊の≪翔雷≫の、千切れた右腕の残骸だ。
ユウは機体が右手に握っていたアサルトライフルを、一旦後ろ腰のハードポイントに懸架して手をフリーにすると、そこに落ちていた武器を右腕の残骸ごと拾い上げた。
「これを頂こう。奴にはもう要らん」
彼が拾い上げたそれは、PA用のショットガンだった。大型のベアリング散弾を撃ち出す火器で、近距離なら対PA戦でも絶大な威力を誇る。ましてショットガンはユウにとっても使い慣れた、謂わばお気に入りであったから、ここでコイツを拾えたことは彼にとって僥倖だった。
拾い上げたそれから腕の残骸を払い除け、ユウはショットガンを≪飛焔≫の右手に握らせる。それでもまだ心許ないが、ないよりは断然マシだ。
「ユウ、やれるの?」
「仲間の連中が逃げ切るまで、どれぐらいだ?」
「……多分、十五分もあれば何とか」
「長いな……」
「無理なら、やっぱりユウだけでも」
逃げろと。そうリンは言い掛けたが、しかしユウは言葉半ばで首を横に振り、彼女の言葉を遮る。
「十五分は長い、それだけだ。不可能じゃあない。或いは、連中を全滅させた方が早いかもしれん」
「そんな、全滅だなんて簡単に」
「簡単ではないが、無理じゃない。一二機といえ、相手はたかが治安部隊だ。ある程度の経験はあるかもしれんが、対PA戦のイロハを分かっている奴は少ない」
リンに向かってそう断言しながら、ユウの視線は同時にセンサの表示へと動いていた。そこに表示された反応はヘリが三機、満載されたPAが合計一二機。いずれも、加速度的に反応がこちらへと近づいてきているのが分かる。接敵まで、もう殆ど時間はなかった。
「……俺を信じろ、リン。君も俺も、必ず生き延びる」
「こうなっちゃった以上、もうどうしようもないからね。……良いよ。私の
飛来する輸送ヘリ部隊の奏でる猛禽類のような回転翼の爆音が、天高くそびえ立つ摩天楼の隙間を縫って近づいてくる。ユウは強く両手で操縦桿を握り締めると、傷付いたいぶし銀の骨董品、深紅の機体でそれに相対した。
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