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「ちょっ、嘘でしょ……!?」

 センサの警告表示を見て驚き、冷や汗すら流すリンに「リン、どうした」とユウが怪訝そうに問いかける。するとリンは「……これよ」と言って、センサの警告表示を視線で指し示した。

「……ヘリが来てるの。PA四機を満載した輸送ヘリが、三機も」

 確かに、≪飛焔≫の年代物なセンサはIFFに応答のない三機の輸送ヘリと、それに積まれたPA部隊を表示している。恐らく治安部隊の本隊だろうとユウは推測した。どうやら、まんまと先鋒の連中に時間を稼がれてしまったらしい。

「合計で一二機か、辛いな」

「正直、駄目かも」

 自嘲めいて弱音を吐くリンだったが、その後で「でも」と言葉を続ける。

「同志たちは、まだ戦ってる。……逃げ切るまで、私が踏ん張らないと」

 リンは冷や汗の滲む横顔で、気丈にそう言ってみせた。絶対的に厳しい、いや絶望的ともいえる状況下で、それでもまだ踏ん張って耐えてみせると。

 そんな彼女の気丈すぎる横顔を眺めて、健気なだなと思いつつも。しかし同時に、ユウはこうも思っていた。彼女の腕前で、一二機を単独で相手取ることなど不可能に近いと。

 勿論、リン・メイファのパイロットとしての腕前は決して悪くない。寧ろ今のご時世、軍や治安部隊以外の人間ということを鑑みれば、割と上手い部類だと、ユウは今までの彼女の戦いぶりを間近で眺めながら感じていた。これからも彼女は伸びるだろう。ひょっとすると、エース・パイロットになれる可能性だってある。

 でも……エースになれるかもしれないのは、この先の話だ。少なくとも今のリンが、今の腕前で、一二機を一気に相手取ることなど不可能だ。腕が立つといっても、この状況をひっくり返せるものではない。これが第七世代の最新鋭機ならまた話は違ってくるが、残念ながら現実として乗っているのは、七十年前のポンコツだ。

「…………」

 ユウは、思案した。どうしたものかと、この最悪の状況下でどういう番狂わせを引き起こし、ウルトラC級のドンデン返しをやってのけるかを。

 そうした思考の中で、ユウはあるひとつの結論に至る。あまり受け入れたくないが、しかしこれ以外に生き残る術は他に見当たらないのだ。一二機を相手にして、たった一機で二人とも生き延びる術は、もうこれしかないのだ。

(……出来るのか? もう一度、この俺に)

 分からない、まだ迷う。出来ることなら、もう握りたくない感触。思い出したくない記憶が、ユウの脳内でフラッシュバックする。

 ――――けれど、貴方が今の世界に……今の自分に不満を、違和感を感じているのなら! 私の手を取って、ユウ・ガーランドっ!

「!」

 迷いを覚えた瞬間、数十分前の記憶が閃光のようにユウの頭を駆け巡った。あの混乱に包まれたバーの中、手を差し伸べてくれた彼女の……リン・メイファの言葉が、今になってユウの中を衝撃とともに駆け抜けた。

 そうだ、あのとき自分は確かに手を取った。世界に、自分に不満と違和感を感じている。それをリンなら変えてくれるかもしれないと、そんな思いに駆られて。根拠も何も無い。けれど……確かにあのとき、自分はそう思って彼女の手を取ったのだ。彼女の差し伸べてくれた手を、握り返したのだ。

 ――――だったら、此処で犬死にするワケにはいかない。無意味に死なせるワケには、いかない。

 その為なら、或いは。

「……リン、ひとつ提案がある」

「なぁに、どうしたの藪から棒に?」

 満ちた疲労の中に一抹の諦観を垣間見させる顔で訊き返してきたリンに、ユウはさも当然のような顔でこう言ってみせた。確かな決意とともに、逃げ続けていた自分に、自分自身についていた嘘を、振り払うかのように。

「――――操縦、俺と代わってくれ」

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