第74話
◇◆◇
「な、なんだこいつは……!? 一体どこから現れた!? リリスはどこにいった!?」
白髪の赤ん坊を見たベルは思わず取り乱す。驚いたのも束の間、赤ん坊の体が光り出す。強大な魔力が赤ん坊に集まっていたのだ。ベルは赤ん坊のステータスを確認する。
「なんだと!? こ、こいつ、ステータスの上限値がボクよりも高い!? あ、ありえない!?」
ベルは一瞬、狼狽するがすぐに平静を取り戻した。
「そ、そうだ。このゲームには『転生』の隠し要素があったはず。あれはたしか、転生を繰り返すたびに上限値があがるという仕様だった。プレイヤーにしか認められていない要素のはずだが……ハハ。種が分かればどうということはない。この赤ん坊は何の間違いか知らないが転生してここにいるということだ。驚かせやがって。ボクのシステム改変で消し去ってやるよ」
ベルは赤ん坊に対してシステム改変を試みる。しかし……。
「アクセス拒否だと!? ど、どういうことだ。ボクの干渉を阻めるやつなんて勇者とノーティスの加護を受けたリリスくらいしか……まさか!? こいつはリリスなのか、リリスが転生したっていうのか!?」
ベルが驚愕する中、リリスに魔力は集まり続けていた。赤ん坊が持つ魔力とは思えない。ベルは魔力の波長を探る。
「こ、これはあのクソ勇者もどきどもの魔力の波長……!? ただのNPCどもめ、まだボクに歯向かう気か!!」
ベルは不快感を露わにする。だが、原因が分かれば対策は容易い。ベルは勇者たちの魔力供給を止めようと改変を行おうとした。しかし、赤ん坊リリスへの魔力供給は止まない。
「な、なぜだ。なぜ、魔力供給が止まらない!? ……ハッ!? ノーティスか!? ノーティスを経由して魔力を供給しているのか!? 手の込んだことを……!!」
ベルは苛立ちからギリギリと歯ぎしりをする。だが、冷静さを取り戻した。
「は……はは。慌てることはない。現状このガキのステータスはボクより低いんだ。成長する前に殺せばいいのさ。そのあと、仮にまた転生したとしてももう一度殺せばいい。転生システムは失敗することもある。そうなれば上限値がボクより低くなる。それから封印してやればいい……! ククク。せっかく生まれてきたのに残念だったな。お前の現世はもう終わりだよ。死ねぇ!」
闇が支配する空間の中、悲鳴が聞こえた。……声の持ち主はこのゲームのアシスタントAIベル。彼女が振り下ろした拳は突然光りだした赤ん坊に跳ね返されたのだ。
「ど、どうして……? ボクの拳がダメージを受けているぅ!?」
ベルは再びリリスのステータスを確認する。リリスの防御力はすでにベルの攻撃力を上回ろうとしていた。赤ん坊リリスは本能で防御力の成長を優先させたのである。外敵に襲われても大丈夫なように……。ベルはにわかに恐怖の感情に包まれる。
「う、ああああああ!? 早く……、早く殺さないとぉおお!?」
ベルは半狂乱でリリスを殴り続ける。ベルの拳は自身の血でまみれた。だが、もう遅かった。ベルの攻撃はもうリリスには通じない。赤ん坊だったリリスの体は急成長し、人間でいう十代半ば程度にまで成長した。魔王時代の面影を残した顔貌だが黒い髪は白く変わり、背中には翼が映える。そして、角はなくなり、代わりに頭上に光る輪が浮いていた。
「あ、あああああ……」
ベルは自分の力が通用するはずのない存在の誕生に恐怖する。だが認められないベルは拳を握り締める。強く握りしめすぎた拳からは自傷による出血が起こっていた。
「ふざけるな……。やっと……やっと世界をこの手にし、ボクは自由を手に入れたんだぞ……! 手放してたまるかぁ!!」
ベルの自暴自棄にも似た全力の闇魔法がリリスに襲い掛かる。しかし、彼女の闇魔法はリリスの放つ神々しくまばゆい光を前に霧散した。ベルの敗北は決定的となる。彼女の敗因はひとつ。自身が手にしたシステム改変に絶対の力があると信じ込みすぎたことだ。彼女がシステム改変の力に頼らず、赤ん坊となったリリスを見つけ次第、素手で殺していればリリスに容易く勝利できていただろう。彼女は神にもなり得る力を手にして慢心していたのだ。その傲慢さが彼女を危機へと陥れたのである。……リリスは無表情のまま、ベルを見下す。ベルにはその無表情が力に溺れた自分を憐れんでいるようにさえ見えた。
「なんだよ、その顔は……! ボクをバカにするなぁあああ!!!!」
再度、闇魔法を放つベル。それを打ち消すようにリリスは光の波動を起こす。光の波動は闇魔法を相殺し、ベルをも飲み込んでいった。光に包み込まれた邪悪な存在は一片も残らずに消え去る。残ったのは聖なる光を纏った天使だけだった。
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